第6回 「運は自分でつくるもの」、オーストラリアで「VFX業界の登竜門」的存在を目指す高田健

自分は何を目指したいのか、明確なパーパスを持つ

―VFXの業界でいうと、日本と海外、どういう違いがあると思いますか?

人材という観点では、日本人のアーティストの一番のハードルはグローバルコミュニケーション能力かと思います。今後AIが発達していけば少しの助けになるかもしれませんが、様々な人と一緒にコミュニケーションをとりながらモノづくりをすることは変わらないので、その国の言語が話せないとスムーズに仕事を進めることは難しいですよね…。例えばオーストラリア、フランスやインド出身のアーティストたちは、英語への抵抗がないので世界中の色んなスタジオで経験を積んでキャリアをステップアップできますが、日本人のアーティストで世界に出ていく人はまだまだ少ない。逆も然りでコミュニケーションを理由に、日本にノウハウを持ってくる海外のアーティストも少ないと感じてます。

でも、それはサポートしてくれるシステム側の課題とも言えます。オーストラリアでは、州や国が「クリエイティブ/フィルム産業」を重要産業のひとつとして見てくれているので、人材の育成であったり、作品誘致の補助金など、施策が充実しています。他の国ではイギリスやニュージーランドにも近しい施策がありますよね。日本ではまだ映像産業そこまでサポートが充実してはないので、こういった施策面も含めて日本とグローバルをよく知る僕らがお手伝いできればとも思っています。

―「日本の映像業界は世界に比べて出遅れている」と言われたりしますが、タケシさんご自身はどう思われますか?

たしかに、ストリーミングのプラットフォームが発展して、観れるコンテンツが一気にグローバル化した中、世界に通用するコンテンツづくりに関して、日本は少し出遅れている感はあります。ただ、それはマーケット的な側面として日本国内でのエンタメ消費が安定的であるという側面も含んでいるので、単に出遅れているというわけではないと思います。

それこそよく言われる「ピンチのときにチャンスが訪れる」じゃないですけど、日本の最大のアセットは「IP(知的財産権)」だと僕は思っています。今年、アカデミー賞を受賞した『ゴジラ-1.0』のような日本独自のIP、そのほかにも漫画やアニメのように世界が欲しい・世界が大好きなコンテンツがこの国には溢れています。最近、Alt.vfxではNetflix作品の実写版『幽☆遊☆白書』にも携わらせていただきましたが、やっぱり日本のコンテンツは面白いんですよね。これからの日本にはこの素晴らしい「IP」をつかってどんどん世界を引っ張っていてほしいです。

Netflix『幽☆遊☆白書』予告編

 

―Alt.vfxの今後のヴィジョンを教えてください。

ありきたりな答えになってしまうかもしれませんが、会社のブランド力をより向上させることにフォーカスしています。そのために今後も世界レベルで心に響く作品をつくり続けたいし、CMや映画以外の分野でも賞も獲り続けたいです。

仕事の割合でいうと、コロナ禍前は広告9:長編作品1ぐらいでしたが、コロナ禍以降は長編作品の消費が増加し、その比率が逆転しました。理由としては、昔に比べると広告の勢いが少なからず落ち着いたこともあると思います。コロナ渦に広告の制作がほとんどストップしたときはピンチだと思ってましたが、会社のケイパビリティーを整理し新しい体制をつくることで、長編をやらせていただく大きなチャンスを生み出すことができました。今は、CMをやりたいスタッフもいれば、映画をやりたいスタッフもいるので、広告5:長編作品5ぐらいに舵を切り直しています。

―ご自身の10年後のヴィジョンは?

今まで色んな方々に本当にお世話になってきたので、次の世代から「こういう人もいるんだな、こういう会社もあるんだな」と思ってくれるような、レガシーを残せればいいなと思っています。そのためにはさきほどお伝えしたブランド力も、情報発信において大切なことだと思っています。あとは……健康でいたいです(笑)。

―最後に、世界で活躍したいと思っている日本の若手クリエイティブにアドバイスを。

先ほどもお伝えしましたが、まずは言語を覚えること。これはマストです。ですがこれは過程なので、世界で活躍したいと思うきっかけや目標をつくることが重要なのではないかと考えます。人の生き方は様々ですが、「どこを/何を目指したいのか」、自分のパーパスを明確にすることが最も大切だと思いますし、パーパスが分からない時は、自分の目標となるヒーローやヒロインを見つけてみて、その人の道のりを辿ってみるといいかもしれません。

本人にお会いする度にお伝えしてるんですが、僕にとってのヒーローはクリエイティブディレクターのレイ・イナモトさん(I&COの創業パートナー兼クリエイティブディレクター)です。彼も海外で育った日本人ということで生い立ちが僕と重なるところがありますが、すごいキャリアの持ち主ですし、世界を引っ張る広告業界のリーダーです。ぜひ、皆さんも自分がこうなりたいと思う「パーパス」を見つけてみてください。

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高田健(たかだ・たけし)

VFXスタジオ【Alt.vfx】のエグゼクティブ・プロデューサー/ファウンダー。オーストラリア在住。
タイムライン
•1975年 埼玉県に生まれる
•1988年・12歳 オーストラリア、ブリスベンに移住
•1998年・22歳 グリフィス大学卒業後、日本に帰国。IT系の会社に就職
•2006年・30歳 帰豪後、Cutting Edgeに転職
•2011年・36歳 Alt.vfxを共同創立

 


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東野 ユリ(Spinnaker Filmsプロデューサー)
東野 ユリ(Spinnaker Filmsプロデューサー)

東京育ち。国際基督教⼤学⼊学、中退。19歳で渡豪。クイーンズランド⼯科⼤学美術学部(映像学科)卒業。2015年スピネカーフィルムズ⼊社。シドニー在住。
Spinnaker Films: spinnakerfilms.com

東野 ユリ(Spinnaker Filmsプロデューサー)

東京育ち。国際基督教⼤学⼊学、中退。19歳で渡豪。クイーンズランド⼯科⼤学美術学部(映像学科)卒業。2015年スピネカーフィルムズ⼊社。シドニー在住。
Spinnaker Films: spinnakerfilms.com

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