自治体広報は「つなぎ役」であり、みなさんの「つなぐ場」となりうるもの(本庄市・高柳一美さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
岐阜県瑞浪市みずなみ未来部シティプロモーション課魅力発信係長 伊藤允一さん からバトンを受け取り、登場いただくのは埼玉県本庄市の高柳一美さんです。
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高柳一美氏

(埼玉県本庄市企画財政部広報課
課長)

埼玉県本庄市役所に入庁後、図書館、財政課、秘書広報課、情報システム担当、埼玉県市町村課(派遣)、企画課、行政管理課(人事給与)、財政課、下水道課での業務を経験。2022年4月より現職。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

私は現在、埼玉県本庄市企画財政部広報課に所属しています。本庄市は東京都心から80km圏内、埼玉県北部に位置します。新幹線で約50分、在来線・高速道路で約1時間半で都心に出られる好アクセスな立地で、本庄市を拠点に、都内にも、温泉にも!気軽に出かけられるレジャーベースタウンです。

市内には、宿場町の古いまち並みが残る「本庄駅周辺エリア」、新幹線駅前に広がるカフェや公園のある新しいまち「早稲田の杜エリア」、山々に囲まれた田園風景やホタルのいる里山のある「児玉エリア」など、異なる魅力の3つエリアがあり、エリアからエリアへ市内に居ながら自分の好きな暮らしが選べるまちです。

本庄市の地図

私は、この本庄市で広報課に所属しており、市の情報発信に係ることやシティプロモーション、移住定住施策やふるさと納税に係る業務等を担っています。

中でも、シティプロモーション事業では、シティプロモーションの一環として、人口規模に対して高校の数が多いという本庄市の特色を活かして、平成20年度から、市内にある高等学校に通う高校生と行政、地域とが連携して、まちの魅力を発見し、高校生やまちの方々のつながりを生む取組として、高校生連携プロジェクト(現在の「七高祭」)を実施しています。市としては、年度ごとに事業を行っていますが、事業終了後も、高校生が「マチノブカツ」として、まちの「カッコイイ大人たち」とつながって、自ら活動を続けるなど、新たな動きが生まれています。

本庄市 シティプロモーション事業

また、令和5年度から、新たに2か年の事業として「シティブランディング事業」を立ち上げ、取組みを進めています。これは、人口の減少は全国的な課題であり、単に他からの移住者を増やす施策ではなく地域への愛着を高め、「住みたい・住み続けたい・関わりたい」と思う人を増やすため、本市の魅力を表す「ブランドメッセージ」と今後の市の指針となる「シティプロモーション計画」の策定をツールとして、本庄市全体の「土壌づくり」、「つながる場づくり」を進めているものです。

現在、3つのプロジェクトチームによるワークショップ等を通じて、選出した4つの「ブランドメッセージ案」を、各小中高等の学校も巻き込んで、市内外の本庄市に関心のあるみなさんで投票し、一つに決定すべく進めています。

これらの事業では、高校生連携プロジェクト「七高祭」において、令和5年全国広報コンクール 広報企画部門で「入選」、令和6年では「特選・総務大臣賞」を受賞し、シティプロモーションアワード2023では、高校生活躍部門で「金賞~『跳べ!Z世代』賞(審査員特別賞)~」を、同じく「シティブランディング事業」が、一般部門で「金賞」をいただいたところです。

本庄市 シティブランディング事業

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

本市の広報課では、広報紙やHP、SNS等による市政情報の発信や報道対応を担う広報係とシティプロモーション事業、高校生連携プロジェクト「七高祭」事業、移住定住施策、ふるさと納税等を担う魅力創造係の2つの係で業務を担っています。担当する業務が多岐にわたるため、規模の大きな自治体からは大変に思われることもありますが、反面、いずれも目的が「シティプロモーション」に結びつくことから、横ぐしで連携しやすく、同じ方向を目指すことで効果的に事業を進められる利点があります。

また、シティプロモーションについては、全職員が担当者として取り組むことが重要と考えており、「シティブランディング事業」のプロジェクトチームには、市長を筆頭に、全部局の部長級が委員となるほか、若手職員のワーキンググループにも、全部局から選出された職員がメンバーとなることで、2年間一緒に事業に取り組む中で、組織の土壌づくりと意識の醸成につなげていきたいと考えています。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

「つなぎ役」であることを大切にしています。このことばには、直接、会って話を聞く、行動する、「伝える」目線ではなく「伝わる」目線をもつ、つながることが目的ではなく、信頼につながる、まちの人の幸せにつながる、主役はまちの人など、様々な意味を含んでいます。

これは、シティプロモーション事業を進める中でいろんな方と出会う機会が増えると、市には、魅力的な方や様々な得意がある方、行動したいけど、どこに相談したらよいかわからず、あきらめてしまう方など多くいることがわかります。

そしてまた、「自治体広報」が、こうしたみなさんの「つなぎ役」、「つなぐ場」となり得るものと考えています。シティプロモーションは、答えが一つではなく、行動に迷うことも多くありますが、そんなときの拠り所として考えています。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

苦労する点は、対象者が全体であるために、多種多様なニーズがあることや一つのことに特化した施策や優遇に映ることなど、多方面に配慮が必要とされることがあります。広報紙を例にとると、近年では、紙の出版物の初版部数は、2,000~3,000部と言われる中、市の広報紙は、本市の場合で毎月約2万8,000部発行して、プッシュ型で各家庭にお届けしており、大きな影響力があることを認識して、十分かつ適正な配慮が求められるものと考えています。

一方で、「伝わる」広報であった場合には、市民のみなさんにとって有益であるとともに、ここに住む魅力を感じ、つながり、さらには生きがいを感じてもらうツールにもなり得るものと考えています。こうした、市民の皆さんの「声」や「反応」をダイレクトに聞くことができ、身近に「暮らし」に関わることができることは、自治体広報ならではの大きなやりがいと可能性だと思います。

以前、埼玉県三芳町の元公務員で、総務省地域力創造アドバイザーほか、全国の広報アドバイザー等を数多く務められている佐久間智之さんに、以前、これからは「決まりやルールに沿って外れないようにすること」など、結果の見えている「パズル」をはめ込む仕事から、複数のブロックを使って結果を創造する「ブロック型」のスキルを持った公務員が求められているお話をお聞きしましたが、広報と今までの当たり前に疑問を持ち、どうしたら情報が伝わるか、伝えてどうなりたいか、創造できる「ブロック型」の公務員とのかけ算で、「自治体広報」には、まちを変え得る大きなやりがいと無限の可能性を秘めているものと思います。

【次回のコラムの担当は?】
埼玉県北本市 政策推進部市長公室 主任 秋葉恵実さんです。

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