悪化するネット広告の体験品質 今、メディアや広告主がすべきこととは?

月刊『宣伝会議』は2024年4月に創刊70周年を迎えました。周年を記念し、いま広告・コミュニケーションビジネスを取り巻く課題を有識者、実務家の皆さんと議論する座談会を企画。1回目はネット広告の課題を取り上げます。ネット広告業界では、詐欺広告や公序良俗に反する広告などユーザー体験を損なう広告が増加を続け、広告の体験品質の悪化が看過できない事態となっています。なぜこのような課題が起き、また長年にわたり解決されていないのでしょうか。コピーライターでメディアコンサルタントの境治氏と、noteプロデューサーの徳力基彦氏が議論します。
※本対談は4月5日に実施したもので、本記事は月刊『宣伝会議』6月号の転載記事です。

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徳力基彦氏

noteプロデューサー/ブロガー

noteにおいて、noteやSNSを活用した企業の広報やマーケティングの支援や、ビジネスパーソンの情報発信やキャリア構築のアドバイスを行っているほか、個人でYahoo!ニュースの記事執筆活動などにも従事。

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境 治氏

コピーライター/メディアコンサルタント

I&S入社後、コピーライターとして1993年に独立。その後ロボット、ビデオプロモーションに在籍。2013年から再び独立し、メディアについて発信している。著書に『拡張するテレビ』がある。

写真 人物 左から、徳力基彦氏と境治氏。

左から、徳力基彦氏と境治氏。

大手メディアでも体験が悪化 増え続ける「通せんぼ広告」

――徳力さんは著名人の名前などを騙った詐欺広告について、境さんは広告のためにつくられたサイト「MFA」など、広くネット広告の体験品質の問題について最近、ご自身の懸念を発信されていました。具体的にどのような点に課題を感じていますか。

徳力:今年3月、実業家の前澤友作さんがFacebookやInstagram上での詐欺広告による被害通報窓口をX上に開設し、広告の運営元であるMeta社に対して抗議する旨の投稿が話題になりました。彼が問題提起しているのは、SNS上に著名人や企業の名前を騙った偽広告が横行しているにもかかわらず、FacebookやInstagramなどの広告プラットフォーマーが適切な対策を取っていない点です※。

※本対談実施後の4月10日、前澤氏と堀江貴文氏が自民党の会合に出席し、SNS上で著名人になりすまし、投資などを勧誘する詐欺広告の被害を訴え、プラットフォームの規制強化などの対策を求めた。

例えば、前澤さんが問題視してXに投稿した詐欺広告のキャプチャ画像には、「SBI証券」のロゴがアイコンに利用されていて、広告画像には前澤さんの写真が勝手に使われていました。それにもかかわらず、広告の掲載者のアカウントは「TashaMoreno」という謎の人物の名前でした。

普通はアカウントとアイコン画像の組み合わせを見れば、それが詐欺広告であることが一目瞭然です。けれども、広告の掲載者名をきちんと確認しない一部の人が、SBI証券や前澤さんによる投資教室だと誤解してクリックしてしまい、詐欺に遭ってしまうわけです。

警察庁によると、このような「SNS型投資詐欺」と呼ばれる詐欺は、2023年の1年間で分かっているだけで2271件発生し、被害額は約278億円にのぼると言われています。この問題は、ここ数年業界でもずっと問題視されていて、何度も議論されてきましたが、なぜか改善するどころか、悪化していますよね。

:私もFacebookの詐欺広告に対しては以前から不満がありました。最近は特に、誰が見ても明らかな詐欺広告が頻繁に出ているのに、ユーザーがプラットフォーマーに報告しても「問題なし」「ガイドラインに違反していない」という驚くような返答が返ってくることが多いようです。この対応には疑問が残りますし、不信感が募りますよね。

最近は、日本の大手メディアでも広告や広告表示の質が低下していると感じることが増えました。特に、新聞や雑誌のデジタル版では、記事の本文と広告が区別しづらく、ページをめくるたびに画面を覆う広告が表示されることが当たり前になっています。まるで「通せんぼ」されているみたい。

以前からこういう広告はありましたが、最近は比較的、硬派なメディアでも広告表示がひどくなっています。これまで比較的まともだと思っていた新聞さえも、先日ついに「通せんぼ広告」が表示されて愕然としました。

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