掲載されているコピーは、書いてはいけないコピーでもある
麻生:僕もコピー年鑑を読みました。それこそ太田さんが近くにいたので、太田さんが書いたコピーについて「どうしてこの言葉になったのですか」と質問に行ったりもしました。
麻生哲朗氏(TUGBOAT クリエーティブディレクター)
最終的には三島くんと反対で、自分は疑問を感じるコピーに対して、ではこれをどう書けばそれがなくなるかということを考えるようになりました。というのも、好きなものを再現する理由はないじゃないですか。コピー年鑑はすごく参考になるけど、そこに掲載されているコピーはもう世の中に出ているものだから、僕がこの先書いてはいけないコピーでもある。好きを追いかけ続けていくと、それをなぞってしまう可能性があるので、むしろ、その逆のコピーを題材にしようと思ったんです。
杉井:今も、同じようなスタンスでコピー年鑑を読んでいるのですか。
麻生:無邪気に眺める時もあるけど、制作者として年鑑を読んでいるときは、どこに違和感があるかを基準に眺めている気がします。
オリエンを「ふつうの人の感覚」で聞く
杉井:お三方は、コピーを書くときに、まず初めに何から始めますか。
三島:オリエンシートをじっと見つめて、その中に使えそうな単語がないか探します。使えそうな単語があればその単語を使った何かができないかと考えますし、なければその単語を自分で探す旅に出ます。
杉井:麻生さんはどうですか。
麻生:オリエンを聞くための準備は、あえてしないです。次はこんな仕事が来るよと言われると、つい下調べをしたくなりますが、それをしない。つまり素人、ひとりの市民としてフラットにオリエンを聞くことで、世の中はそんなふうに思わないと感じたらそう言える、難しいことは難しいと言える状態にしておくことが僕にとっては大事です。オリエンの聞き方を間違えると、つくる際に迷ってしまうので。
太田:私も、オリエンの内容を疑うわけではないけど、自分が生きている世界の常識はいつも持つようにしています。それを通して見ると、不思議に思ったり、理解できなかったり、笑っちゃうようなことがあるじゃないですか。キャリアを積んできたことで、わからないことを臆せずに質問したり、指摘したりできるようになりましたね。