物価高を乗り越える町の電器店の工夫 独自のサービスや戦略で売上維持

「価格」よりも「価値」を訴求

梅雨入りを迎える6月は悪天候や暑い日が増え、外出機会も減りやすいが、自ら積極的に訪問を行う町の電器店にとっては販売のチャンスだ。本格的に夏を迎えるとエアコン工事や修理で繁忙期を迎えるため、この時期にエアコンの早期買い替え提案や、ほかの商材の訴求に力を入れるケースが多い。一方、今年は物価高の影響が大きく、顧客の購買行動にも変化がみられる。西日本の有力電器店3店に現況を聞いた。

写真 今年創業50周年を迎えた「カノデンキ」

今年創業50周年を迎えた「カノデンキ」

今年で創業50周年を迎えた福岡市東区の電器店「カノデンキ」が提案しているのは、パナソニックが5月に発売した衣類乾燥除湿機だ。衣類が乾きにくい日が増える一方、今年は電気代高騰が懸念材料。パナソニックが発売した「F-YEX120B」は「エコ・ハイブリッド方式」で従来品の3分の1の消費電力で稼働できることから注目を集めている。同店は通年で利用できる商品として積極的に訴求する。

「省エネ」が販売促進のキーワードになる一方、物価高のデメリットは如実に表れている。特にドラム式洗濯乾燥機などの高額商品は購入を控える人が増えており、社員の松岡義展氏は「機能よりも価格を重視する傾向が強まっている」と話す。「物価高では提案力がより求められる」とし、縦型洗濯機と除湿機のセット提案など、顧客の懐事情に合わせた柔軟な提案を行っている。

一時的な物価高が落ち着いたとしても、可処分所得の減少傾向などから、今後は従来の販売方法からの脱却が必要だと訴える。「価格面」の訴求ではなく、高価格でも必要と思ってもらえる「コト軸」の提案だと強調。大型量販店だけでなく、ホームセンターやECサイトなどでも家電を購入できる中、松岡氏は「購入の窓口として選ばれるには、価格戦略だけでは不十分だ」と話す。

町の電器店は「即日対応」やきめ細やかなサービスといった独自の強みがあるが、それだけでは足りないという。同店は新たなビジネスモデルとして2023年からテレビを扱うECサイト「K-SHOP」を運営。松岡氏が自ら商品を紹介するYouTubeチャンネル「カノちゃんねる」と連動している点が特長だ。従来のECサイトは販売者の顔が見えず、信頼性に不安を覚える消費者も多かったが、松岡氏が出演する動画で取り上げた商品をECサイトで扱うことで安心感につなげている。

「ネットなのに安心できるシステムを目指した」という松岡氏。ECサイトでは最大9年の独自保証も販売しており、期間中は無料で修理や交換に対応する。5年目まで無料で、有料で9年まで延長できる。ネット通販でこれほどの保証は珍しいと、メーカーにも驚かれるという。

写真 福岡県古賀市のパナプラザマキヤマ。

福岡県古賀市のパナプラザマキヤマ。地域電器店の強みを生かして物価高でも計画通りの売上を維持

国の補助金、メーカーのキャンペーン活用

福岡県古賀市のパナソニックショップ「パナプラザマキヤマ」は、エコキュートの導入を促す国の補助金事業「給湯省エネ2024事業」を有効に活用している。エコキュートは昨年の倍のペースで売れており、半年で約23台を販売。前回の購入から10年以上経過している顧客をリストアップし、積極的に買い替えを勧めている。営業や修理で顧客の家に訪問する機会が多く、設備の経年数の把握や、補助金事業などの有益な情報提供が容易な町の電器店の強みを最大限に生かしている。

現在はエアコンも好調に推移している。パナソニックはエアコン「エオリア」のキャッシュバックキャンペーンを実施しており、買い替えの提案に利用。電気代高騰により、省エネ性能が高い機種が売れやすく、商談時には最初に最上位機種を提案するという。

昨年の今頃と比べると、物価高の影響はあるものの、現状では毎月の売上目標を達成できているという。牧山猛社長の妻、知佐子夫人は「ほかの業界と比べると、家電は省エネという切り口で訴求しやすい」と話す。不特定多数の顧客に対応する大型量販店と異なり、町の電器店の稼働客数は限られるが、その分一人ひとりの顧客に対して充実したサービスを提供できる点も奏功しているという。

商品の販売後、保証期間内でも細かい不調が発生するケースがあるため、同店は販売から1年が経過した顧客に電話で様子を確認するなど、アフターフォローも充実させている。得意客のちょっとした困りごとは無料で対応しており、「自宅のカギが抜けなくなった」など家電以外のトラブルにも対処している。

特定商品の不調をカバーする独自戦略

山口県のパナソニックショップはキャンペーン商品の冷蔵庫を訴求しているが、宇部市の電器店「ぱわっときんすい参宮通り店」の田坂利成社長は「今年は物価高の影響で動きが鈍い」と話す。例年は40~50台売れているが、現状では前年の10分の1程度の売れ行きだという。現在のように消費マインドが低迷している状況では、家電を故障するまで使い続けるユーザーが増え、買い替え需要も鈍るという。冷蔵庫が不調な一方、エアコン提案を例年以上に注力。売上全体では計画通りに推移している。

エアコンは5月から点検活動を通じて訴求しており、稼働客の家を1軒1軒訪問している。今年はエアコン点検を勧めるチラシを配布するなど周知活動も徹底。例年はチラシなしで100~150軒は訪問しているが、今年は200軒近く回るとみている。現在は4人体制で点検活動を行っているが、通常の業務と並行して実施していることから時間がかかるという。

点検活動が奏功し、5月のエアコンの販売台数は前年同月比で2割増し。猛暑の予想や省エネ需要によって上位モデルの「エオリアXSシリーズ」が売れている。エアコンの点検を通じてほかの仕事を請け負うことも多く、田坂社長は「町の電器店は『待つ』商売ではなく、積極的に仕事を作る商売だ」と話した。

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