ユーザーとともに開発するなかで身についた「2割共有」の考え方
──話は変わりますが、エムスリーのサービスって名称が特徴的ですよね。「MR君」や「デジカル」など、親しみやすい名前が多い気がしていて。医療という硬い分野だから、あえてなのでしょうか。
ネーミングについては、経営陣とかなり真剣に話し合います。覚えやすさとか、ユニークさを大事にする文化がありますね。
──サービスの中身についてはどうでしょう。デザイナーはどこまで入り込めるのですか?
自分自身、この会社に入ってものすごくびっくりしたんです。「え、デザイナーがこんな初期段階から関われるのか?」と。何より、医師と一緒にサービスをつくり上げていく進め方には驚きました。「デジカル」の立ち上げにあたって、プロダクトマネージャーがまず行ったのは、パワーポイント1枚にプロダクトの要件を書いて医師に見せたこと。それまでもユーザーにインタビューすることはありましたが、そんなふうに初期段階からユーザーに参加してもらって、フィードバックをもらうのは初めての経験でした。
──衝撃的だったでしょうね。
それ以来、仕事の進め方もがらりと変わりました。デザインチームのメンバーによく伝えるのが「2割共有」という言葉です。例えば、デザイン案を8割完成したところで人に見せたら、「全然違う」と言われて1からやり直した、という経験を持つデザイナーは少なくないと思います。私が伝えたいのは、1人で8割つくり込む前に、「こういう方向でつくろうと思うんです」というのを、つくりかけでも手書きでもなんでもいいから見せて、早い段階で方向性を合わせていけば、ひっくり返されることも減らせるということです。
自分自身も、入社当初はそれがわかっていませんでした。先輩が手書きのイメージを医師に見せようとしていて、「失礼じゃないですか?」と意見したことがあります。でも、先輩は「いや、これで十分伝わるから大丈夫だ」と。実際、それを見た医師が、プロダクトについて真剣に語ってくれました。
「この画面は医療の現場だともっとこうだと使いやすい」「そもそもこれは不要かもしれない」とか。そうやって最初から目線合わせをすると、手戻りがないから、結果的に開発のスピード感が上がるわけです。ああ、ユーザーと一緒につくるってこういうことなんだなって理解しました。
荒川 直哉
マスメディアン 取締役
国家資格キャリアコンサルタント
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
──クリエイターが事業会社に転職すると、なじむのに苦労する人も多くいます。古結さんはすごく楽しんでいるように見えますが、心がけていることはありますか?
ファンを増やすサイクルを拡大させることを意識しています。ユーザーである医師の皆さんにはつくっているプロダクトのファンになってほしいし、プロダクトチームにはデザイナーのファンになってほしい。社外のデザイナーのなかにも、エムスリーのファンを増やして、デザインチームで一緒に働きたいと思ってほしい。ユーザーから目の前の人までファンをつくるサイクルを拡大させていきたいんです。楽しそうにしている人のまわりには人が集まってきますよね。だから、楽しそうにデザインや組織を語ることも、CDOの大事な役割だと思っています。
──古結さんとお話をしていると、なぜだかすごく元気になります。その理由がよくわかりました。このインタビューで事業会社におけるデザインの貢献や、デザイナーとしての取り組み方がより多くの方に伝わっていくことを期待したいと思います。本日はありがとうございました。
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