パーパスは無理なく楽しく、続けていくもの 富士フイルムホールディングス執行役員 堀切 和久氏インタビュー

パーパス策定の経緯

齊藤:さてそのマガジンに説明もありましたが、今回、なぜ富士フイルムグループがパーパス策定に着手することになったのかを、改めてお聞かせください。

堀切:話は少し遡ると、2000年くらいにデジタルショックがあり、デジカメの普及などから写真フィルムの需要が大きく減って、大変だった時期があるんです。僕が会社に入った時は“富士写真フイルム”という名前でしたが、写真という名前は消えて、富士フイルム、となりました。これは、決して美しく変わったわけじゃないんです。

齊藤:時代の変遷に合わせて、会社も変わっていったわけですね。

堀切:それで会社も変革を推進するために、写真の技術を棚卸しして、組み合わせて何か新しい分野にチャレンジできないか?ということを行いました。写真っていろんな技術の集大成で、その中でエポックメイキングだったのが、化粧品です。化粧品のベースとなるコラーゲンは、写真フィルムの主成分。そしてナノ化の技術を活用しているという点も一緒です。

写真 人物 堀切氏
 

齊藤:えぇ!そうなんですね!

堀切:そう、だからやってることは化粧品も写真も実はそう変わらないわけです。そうして次々といままで文脈になかったいろんな製品が世の中に出て、創薬支援などの新しい事業分野にも進出して、多くの会社をM&Aで迎え入れていく中で、外から見て、社員からさえも、富士フイルムってどういう会社??っていう声がにわかに湧き上がってきていたんです。その中で社員皆が大切にするものを共有したいとか、各事業で共通して語れる自分達のメッセージが必要だよねと、そういう思いが皆の中に自然発生的に湧き上がってきました。

齊藤:そこで、パーパスとして皆の思いを集約させたものを明文化する必要があったわけですね。

堀切:それが、90周年を迎えたことで、拍車をかけましたね。いちど開けたら大変そうなパンドラの箱を誰が開ける?という状態でしたが、ついに開けることになったわけです。

齊藤:一回開けたら閉められない箱を(笑)。

堀切:まあ、今となっては開けてよかったな、と。企業のビジョンとは違って、パーパスって、企業が人々や社会のためにどういうことをコミットしてるか?っていうことですよね。90周年を振り返ってみたときに、いままで富士フイルムグループは写真事業を通じて人々の笑顔をつくってきた。そして、これからは、写真だけでなく幅広く人や社会のために「笑顔」をつくっていく、その「笑顔」こそが、将来にわたっても大切にしていきたいことだよねと。「笑顔」というキーワードが決まり、パーパスをトップメッセージやマガジンを通じて社員に発表したところ、こちらも驚くくらい共感してもらえましたね。

齊藤:それほどすんなりと。

堀切:そう、それはきっと、今までやってきたことをこれからもやっていく、というのが無理なく腑に落ちるからなんですね。これからやっていきたい全く新しいことだと、まずは理解しないといけないじゃないですか。そうではなくて、これまで大切にしてきたことを改めて見つめ直し、過去から将来に続く一本の線として、形にしていく作業でしたね。

齊藤:パーパスの文言にある「笑顔」を発見するのも割とすんなりといったのでしょうか?

堀切:発見するまでは、大変でした。ディスカッションを重ねて、時には議論が遠い宇宙へ…(笑)、だけど最終的に発見した「笑顔」は、割と身近にあったなと。

齊藤:違和感のなさや、社員の皆さんの共感というのは、そこに繋がっているわけですね。 他にはどんなキーワードが出ましたか?

堀切:プロジェクトチーム運営で、社長や部門長、海外役員や若手社員などに時間かけてインタビューをして、出てきた言葉は大きく3つに分類できたんです。
1つが変革の会社。社名から写真が抜けて、ヘルスケア事業を拡大したり、半導体分野に参入したりと会社が変わっていく時期に在籍していた人たちからは、自分たちらしさといえば変革だよなと。でも若い世代の社員はその変革の時代を実体験していないんです。
2つめが、技術。サイエンスに関わる技術者も多いので、技術を大切にする自負ですよね。
そして3つ目が、笑顔です。

写真 人物 堀切氏
 

まずプロジェクトチーム内でこの3つのうちどれを中心に掲げるかを議論したときに、ほぼ満場一致で「笑顔」ということになったんですね。技術とか変革は自分たちを表しているのに対して、「笑顔」は相手に向いている言葉ですから、プロジェクトチームもそれをわかっていて。

齊藤:相手に向けられていることを最優先した、というのは素敵ですね。

堀切:そう、僕はそれが、すごく正しいなと思ったんです。

そして、「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というパーパス文言の下にはそれに続く文章があります。笑顔以外のキーワードが入ったこの二段目(「わたしたちは、多様な「人・知恵・技術」の融合と独創的な発想のもと、様々なステークホルダーと共にイノベーションを生み出し、世界をひとつずつ変えていきます。」)の一つひとつにも、大切なメッセージが込められています。

イメージ パ―パス文言
 

齊藤:「笑顔」を軸に、残りの2つのキーワード「技術」と「変革」が二段目以降で展開されているわけですね。パーパスに込められた思いの読み解きの例をぜひ。

堀切:例えば最初の部分は、一般的にシンプルに言ったら「世界の笑顔を増やす」ですが、それじゃ全然記憶に残らない。「世界の」ではなく「地球上の」とすることで、サイエンスの会社なので、人だけじゃなくて環境や社会も大切に、ということを意味しています。

齊藤:笑顔の「回数」も面白いですよね。

堀切:そう、これも普通なら「笑顔を増やす」、となりますが、一人を一回幸せにしたら終わりじゃなくて、同じ人に何度も笑ってもらいたいという意味を込めて、「回数」としています。さらに、増やすじゃなくて増やして「いく」という表現で、誠実な姿勢で継続していく意思を示しています。

齊藤:まさに終わりのない活動ですね。マガジンにも、Vol1.とあったので、このパーパス浸透の活動はこれからも続いていくのかなと思いましたが、いかがですか?

堀切:はい、マガジンの次は秋くらいに発行する予定で、今後も出し続けていこうと考えています。終わりはなく、これからも変化していくものと捉えています。それは「完成しないスタジオ」というコンセプトを持つ、このCLAYスタジオと同じで、一生完成しないんです。夢は、このマンガがコミックになり、それがさらにはアニメで配信されること(笑)。そんな風に考えていくと、楽しいじゃないですか。

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