パーパスは無理なく楽しく、続けていくもの 富士フイルムホールディングス執行役員 堀切 和久氏インタビュー

パーパスは具体化されてこそ実現へ

齊藤:パンドラの箱は堀切さんをはじめとするプロジェクトチームによってついに開けられたわけですが、デザインに関わってきた堀切さんが、今回のパーパス策定を牽引することになった経緯はどのようなものだったのでしょうか。

堀切:僕が役員に任命されたのは6年前。当時のミッションは、デザインは好調なので、今度は会社の「ブランド」をやってほしいということでした。写真フィルムはもうメインじゃないのに、富士フイルムというブランドでいろんな事業をやっている、それらを紡ぐことをしなきゃいけないねって。

齊藤:ブランドをやる、つまり、わたしたちの言う、「パーパス・ブランディング」ということですよね。パーパスを軸に、会社全体をブランティングし、改革していく。

堀切:パーパスって、言葉で遊んでいくのではなくて、具体的じゃないですか。デザインも同様に、頭の中でふわっとしているものを ユーザーが使えるものに落としこんでいく作業なんです。パーパスの文言が入った名刺を持つこと、パーパス策定ストーリーを語ったパーパスマガジンを見ること、こうして社員にパーパスが浸透してブランドができあがっていくというのは、デザインと同じじゃないかなと。

齊藤:全部つながっているわけですね。

堀切:具体的なものがあるとないとでは 全然違いますからね。パーパスがWebサイト上に企業理念としてただおいてあるんじゃなくて、名刺やパーパスマガジンのように、生きたものとして、具体的な活動として落とし込んでいくんです。手元に残るもの、手を抜いていない、本気さがちゃんと見てる人に伝わるもの。それを渡すことで、受け取る人の笑顔の回数を増やしていく。それがまた自分にかえっていくと良いですよね。

齊藤:笑顔になってもらうだけじゃなくて、笑顔の循環ですね!

堀切:パーパスの主人公は、社員の皆さんだと思うんです。社員がそれぞれアンバサダーになって、まわりの人たちに素敵な会社だと伝えていくことから始まって。一番身近なところでは家族や同僚、そして製品を使う人、それぞれの笑顔を作っていく。B2Bであっても、富士フイルムと一緒にビジネスをしたら自分たちも笑顔になれよね、と思ってもらう。そして、それを通じてまた自分たちも笑顔になる。そんな笑顔の循環をつくっていきたいという思いがパーパスには込められていて。笑顔を手にする喜びとか幸せ、富士フイルムの現れとしての「笑顔」― すごくいいパーパスだと思うんですよね(笑)。

齊藤:本当に!写真を撮ったり見たりすると自然と笑顔になるという、これまでやってこられたことがそのままパーパスになっている。

堀切:しかも、ちょっと硬い感じの、地に足ついたこの真面目さが、富士フイルムっぽくていいなと(笑)。今回のパーパスは90年という節目に、富士フイルムが紡いで蓄積してきたことを改めて眺めて、それを試す時だと思うんです。そのときに、決して無理をしない、ということが大事だと。パーパスって目標的な部分もあるけど、とかく人って目標を立てると、無理しちゃってどうにもいかない時がありますね。

齊藤:ありますあります…辛くなりますよね(笑)。

堀切:そういう意味で、今まで大切にしてきたことを改めて掲げているこのパーパスは、無理をしていない気がするんです。まだイントロダクションの段階ですけど、これからも、ずーっとやりつづけるものだと思うので、楽しくね。

齊藤:楽しく続けていくのが一番ですね!社内も変わってきていますか?

堀切:思った以上に積極的な感じがありますね。社長も含めて一斉に、マラソンでザワザワってスタートして走りだしちゃった状態(笑)。だけど自然にそれぞれで走り出しているのを見ると、皆こういうものを求めていたんだなと思います。

個々の志(マイ・アスピレーション)と会社のパーパス

写真 人物 堀切氏、齊藤氏
 

堀切:事業部、グループ会社、国内も海外も…パーパスに水をあげて育てるのはそれぞれの部門で独自に落としていただいたらいいなと思って、この前このCLAYスタジオで約70人の役員・部門長でワークショップをやったんですよ。自分事化して自分の言葉でパーパスを語ってもらうための会。パーパスはひとり一人が志をもって実現を目指してこそだよねと、グラレコなんかも取り入れてディスカッションしてもらい、個々の”マイ・アスピレーション”を書いて言葉にしてもらったんです。いつもは数字のことばかりの人たちも、いい笑顔でね(笑)。

写真 富士フィルム雑誌
 

齊藤:この素敵な会場でやるのがまた良いですよね!

堀切:このスタジオのコンセプトが、眠ってたものを呼び覚まし、デザイナーを覚醒させる、なんですよ。パーパスってクリエイティブなことだと思うんです。思想とクリエイティブ、表裏一体なんで、こういう場所によってクリエイティブのスイッチを入れて、仕事のこともリセットして向き合っていく。

写真 人物 堀切氏
 

齊藤:場所って大事ですよね、本当にそう思います。その後や反応に関してはいかがですか?

堀切:ワークショップを通じてパーパス自分ごと化してもらうという目的は達成したと思いますね。そのあと、このワークショップをそのまま実施した部門もあったり、ミニチュア化したりアレンジしてやりたいという要望も届いています。

齊藤:すべての要素が加わって目的を見事達成されたわけですね。今後の展開についても楽しみです。

堀切:パーパスって生き物だと思うんです。フレンチの名店とかで“変わらぬ味”と言われるシェフも、実は同じことをやり続けるのではなくて日々進化させているわけです。我々も、最初だけ盛り上がって尻すぼみにならないように、やり続けないといけない。“2024年にそういうのやってたよね”じゃなくて、楽しくやり続けないとだめで、このバトンをもらった人が面白く昇華させる、そのお手伝いをするのが僕らのチーム。まだまだ一歩踏み出したばかりの状態ですが、すでに来年に向けて楽しい企画も進んでいるので、乞うご期待です。

齊藤:ぜひ、追ってまたインタビューさせていただけたらと思います!今日はありがとうございました。

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写真 人物 堀切氏、齊藤氏
 

堀切 和久(ほりきり・かずひさ)

(富士フイルム株式会社 執行役員 デザインセンター長)

1985年に富士写真フイルム(当時)に入社。デザインセンターにて初代チェキのデザインなどを手掛ける。デザインセンター長就任後「富士フイルムをデザインする」を掲げ、2017年にCLAYスタジオを開設させ、2018年にはデザイナーとして初めて執行役員に就任。2022年に富士フイルムホールディングスにデザイン戦略室を新設。富士フイルムグループ全体のデザイン及びブランドマネジメントを管掌する。

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