広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。今回は、JR東海や日本ハムなどの広告を手がける早坂尚樹さんです。
小さい頃、母から言われて印象的だった言葉がある。
「贅沢はさせてあげられないけど、欲しい本だけは、いつでも買ってあげるからね」
あいにく、体を動かすことが好きな少年だった僕は、本をおねだりすることなく大人になってしまったが、知識や知恵というものには、値段以上の価値があることを知る、原体験になった。
だから僕は、今でも本を買うお金だけは惜しまないようにしている。もちろん、年鑑も例外ではない。正直、2万円もあれば、もっと楽しいことができるだろう。おいしいものが食べられるだろう。それでも最初の頃の給料のほとんどを、年鑑に注ぎ込んだ。
そして、その決して安くはない投資と引き換えに得られたのは、知識だけじゃなかった。
以前、磯島拓矢さんが編集委員長をされていた年鑑に、「この年鑑を、10年後、20年後に手にしている未来のあなた。2017年の日本は、こんな様子でした。」と記されていたことがある。
この本は、いつだって未来に向けられている。後輩たちに向けられている。誰もが新人だった。という事実が、あの人も苦しんでいたのだ。という痕跡が、今とは全く違う価値観が、そこには存在している。それは、ただの記録ではない。ひろがり続ける言葉の世界の中で、先輩たちがつくってくれた地図なのだ。
そんな年鑑が、今日も僕の本棚には40冊以上並んでいる。すぐ手の届く距離に、40年以上の足跡がある。
悲しいことに、この仕事はインプットした分だけ、いいアウトプットにつながるわけではない。時間をかけた分だけ、結果が得られるわけでもない。ただ、そんなことは百も承知で、今日も泥臭く、僕はその地図をたどっている。