地図をたどる(文・早坂尚樹)

東京コピーライターズクラブ(TCC)が主催する、コピーの最高峰を選ぶ広告賞「TCC賞」。その入賞作品と優秀作品を収録したのが『コピー年鑑』です。1963年に創刊され、すでに60冊以上刊行されています。

広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。今回は、JR東海や日本ハムなどの広告を手がける早坂尚樹さんです。

小さい頃、母から言われて印象的だった言葉がある。

「贅沢はさせてあげられないけど、欲しい本だけは、いつでも買ってあげるからね」

あいにく、体を動かすことが好きな少年だった僕は、本をおねだりすることなく大人になってしまったが、知識や知恵というものには、値段以上の価値があることを知る、原体験になった。

だから僕は、今でも本を買うお金だけは惜しまないようにしている。もちろん、年鑑も例外ではない。正直、2万円もあれば、もっと楽しいことができるだろう。おいしいものが食べられるだろう。それでも最初の頃の給料のほとんどを、年鑑に注ぎ込んだ。

そして、その決して安くはない投資と引き換えに得られたのは、知識だけじゃなかった。

以前、磯島拓矢さんが編集委員長をされていた年鑑に、「この年鑑を、10年後、20年後に手にしている未来のあなた。2017年の日本は、こんな様子でした。」と記されていたことがある。

この本は、いつだって未来に向けられている。後輩たちに向けられている。誰もが新人だった。という事実が、あの人も苦しんでいたのだ。という痕跡が、今とは全く違う価値観が、そこには存在している。それは、ただの記録ではない。ひろがり続ける言葉の世界の中で、先輩たちがつくってくれた地図なのだ。

そんな年鑑が、今日も僕の本棚には40冊以上並んでいる。すぐ手の届く距離に、40年以上の足跡がある。

悲しいことに、この仕事はインプットした分だけ、いいアウトプットにつながるわけではない。時間をかけた分だけ、結果が得られるわけでもない。ただ、そんなことは百も承知で、今日も泥臭く、僕はその地図をたどっている。

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早坂尚樹(はやさか・なおき)

(2019年TCC入会)

電通 コピーライター・CMプランナー。2015年入社。最近の主な仕事に、花王「家族と愛とメリット」JR東海「会いにいく、が今日を変えていく。」日本ハム「シャウエッセン断髪式」日清食品「カップヌードル」「日清焼そばU.F.O.」トヨタ自動車「クラウン」「カローラ」など。

東京コピーライターズクラブ(TCC)
東京コピーライターズクラブ(TCC)

東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体。毎年、前年度に実際に使用された広告の中から、優秀作品を選出。その制作者を「TCC賞」受賞者として発表し、受賞作品のほか優秀作品を掲載した『コピー年鑑』を発行している。TCC新人賞審査に応募し、新人賞を受賞することで入会資格が得られる。

東京コピーライターズクラブ(TCC)

東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体。毎年、前年度に実際に使用された広告の中から、優秀作品を選出。その制作者を「TCC賞」受賞者として発表し、受賞作品のほか優秀作品を掲載した『コピー年鑑』を発行している。TCC新人賞審査に応募し、新人賞を受賞することで入会資格が得られる。

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