東京コピーライターズクラブ(TCC)が主催する、コピーの最高峰を選ぶ広告賞「TCC賞」。その入賞作品と優秀作品を収録したのが『コピー年鑑』です。1963年に創刊され、すでに60冊以上刊行されています。
広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。今回は、UQコミュニケーションズ(2022年)、Bot Express(2023年)で2年連続TCC賞を受賞した姉川伊織さんです。
「自分の中に面白さの教科書をつくりなさい」
13年前、コピーなんて書けないのにコピーライターという名刺を渡されて、嬉しさ半分、不安半分の新入社員に、師匠の栗田雅俊さんがそう教えてくれた。
先輩が面白いと思うものと自分が面白いと思うものは違う。だから、年鑑を見て自分なりの価値基準やスタンスをつくったほうがいいという意図だったと思う。
教えを守り、13年間つくってきた自分のなかの教科書が、いま仕事に効いてきている実感は確かにある。だからもし、配属ガチャや師匠ガチャに悩んでいる人がいれば、それは結構年鑑が解決してくれることかもしれない。だって、あの分厚いページの分だけ先生がいるのだから。
だけどもちろん、いいことばかりではない。
新人賞がなかなかとれず焦っているうちに、年鑑のなかに段々と同期や優秀な後輩の名前が現れはじめたりする。正直なところ、今でも悔しくて直視できない年鑑がたくさんある。
学ぶということは、自分の実力との距離を測ることでもあり、現実を認めるのはとても勇気がいることだった。それでも、だ。あの時、腐ってしまい、ページをめくることをやめていたら、いまの自分はいないと断言できる。
だから僕は今日も、勇気をだして年鑑をひらく。