もしも自社やクライアント案件で措置命令が下ったら?
ひるがえって、この記事を読んでいる広告関係の読者の勤務先や、自社が担当している得意先企業に同様なことが起こった場合はどうなるでしょうか。まとめとして考えていきたいと思います。
●件数が多すぎたり身元が特定できず削除しきれなかったりする可能性
今回の該当件数は45件と比較的少なめの数でした。これがもしも大規模な施策で何千、何万といった数になっていたらどうでしょうか。
数が多くなれば、対応コストは甚大となります。常識的に考えてすべてのSNS投稿を完全に削除することは極めて困難だと言えるでしょう。
また、削除をお願いした投稿者がインフルエンサーなどの場合、自分の信用に関わるからとステマであることを否定して削除に応じないかもしれません。
それでもインフルエンサー自身には規制は及びませんので困るのは事業者のみです。あるいは、一般の消費者でも、「削除のためには100万円払え」などと脅迫めいたことを言ってくる人もいると考えられます。それらに一つひとつどのように対応していけばいいのでしょうか。
SNS施策では、相手が特定できなくなってしまう可能性もあります。ギフティングなど誰に送られたのか、追えない場合もままあります。
大半のクチコミがステマと無関係な好意的な第三者が占めるなかで、一部のステマだけを削除しなければならないとしたら、砂糖の壺のなかに混じったひとつまみの塩を取り除くような作業です。
このひとつまみの塩のために、公式アカウントを削除したり、キャンペーン全体を取りやめたりしなければならなくなる可能性もあります。
最悪のシナリオでは、対応が難しくなった結果、措置命令に従わない・あるいは現実的に従えない場合、事業者が「刑事罰」を受ける可能性があります。
措置命令(速やかにとりやめなければならない)に従わない場合、個人に対して2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(改正前の景表法第36条)が、事業者には3億円以下の罰金(第38条1項)が科される可能性あります。その可能性だけでも契約を失うことは大いにありえますし、広告に関わる企業では自社の評判の失墜も免れないでしょう。
SNS投稿企画の手軽さに比べ、ステマ規制の行政措置への対応の困難さと発生時のダメージははるかに大きいことがおわかりいただけると思います。
今一度考え直してほしい「#PRは付けたくない」という軽い考え
ここまでいろいろと述べてきましたが、見た目が悪いからなどの理由で「#PRは付けなくてもいいのでは」と考えている人が、一部にまだいるかもしれません。また、インフルエンサーからそう言われてしまったという経験もあるかもしれません。
しかし、今回の具体的な措置が出たことで、あらためて「#PRをつけたくない」と気軽に言うことの怖さを認識すべきです。
事業者の表示、事業者の表示であると考えられる場合は、その投稿にはわかりやすい表記として「#PR」などを付けることを徹底していくことだけで、このような大損害を与えるようなダメージを受けるリスクはなくなるのです。
なおWOMJでは6月28日、消費者庁表示対策課の方を講師に招いたセミナーを会員限定で開催し、今回の行政措置の発表を受けた解説もお話しいただく予定です。
それに先がけて、本コラムでは2回にわたり本件の問題点などを解説しました。今後も引き続き、動向を注視していきたいと思います。