どのような示唆があるか?4つの観点から分析
続いて、今回の行政処分から受け取れるメッセージを考えていきましょう。
処分対象には、消費者庁が、消費者にとってどのようなステマがより有害だと考えているか、というメッセージが込められているはずだからです。
1)現場はGoogleマップ
今回問題となったステマの現場は、有名インフルエンサーを使った施策でもなく、クチコミ施策で定番のXやInstagramでもなく、Googleマップでした。
Googleマップのクチコミは、Googleアカウントさえあれば、誰でも投稿できる地図サービス上のクチコミ機能です。クチコミの星評価が投稿できるのは地図上に表示されている店舗や企業などに対してですが、その一方で、店舗や企業のオーナーは、「Googleビジネスプロフィール」という機能を使うことで、場所を正確に表示したり、写真や公式情報を提供したりして集客に役立てています。
しかし、第三者のクチコミはオーナーには変更・削除が基本的にはできません。このクチコミが集客に影響を与えることは、すでにビジネスオーナーにとっても強く意識されてきています。
最初の行政処分がGoogleマップのクチコミに対して行われたことは、いわゆるSNSの場だけでない、また著名なインフルエンサーによるものではなく一般の方のクチコミについても消費者庁は注視しているよ、というメッセージと言えるでしょう。
Googleビジネスプロフィールは、郵送物確認などでビジネスオーナーと確認されれば無料で利用できる。出典:https://www.google.com/intl/ja_jp/business/
2)対価は550円と少額でも規制されている
「ステマ規制」では、クチコミの対価がいくら以上だとダメ、といった線引きは運用基準でも明確には示されていませんでした。個別の案件に応じての判断、となるからだと思われます。
今回の対価は550円とかなり少額でした。ここには、「高額の対価でなくても規制の対象となり得るんですよ」というメッセージが感じられます。
では、対価のないお願い(指示)ならば大丈夫なのかと思われる方もいるかもしれませんが、対価を支払っていなくても、将来的な仕事に関わる可能性を感じさせることなどによって、事業者の表示だと判断されるケースがあり得るため、グレーな行為となります。
一方で、「依頼・指示」が無くとも、対価・無料提供などがあることで規制対象となり得る、ということも忘れてはいけません。
たとえば、試供品(サンプル)の範囲を超えるような高額な商品やサービスの提供といったものなどは、景表法の「ステマ規制」では「表示内容の決定に関与した」、すなわち「事業者の表示」と判断されることもあると考えられるからです。
3)投稿内容の指示はクチコミの★評価
処分対象になったクリニックでは、過去に大量の★1評価が投稿されています。営業上の評判を気にして、今回のようなステマを指示してしまったのかもしれませんが、良いクチコミ(★4や★5など)を指示することはアウトです。
「ステマ規制」において、第三者のクチコミに対しクチコミの内容や文面を指示すれば、事業者の表示となります。今回のように文面を指示しておらず、評価の★の数を指定しているだけでも事業者の表示となることにも注意しておきましょう。
消費者庁の規制内容からは話が逸れますが、そもそも、Googleマップのユーザー投稿コンテンツに関するポリシーの「禁止および制限されているコンテンツ」として、「企業が提供するインセンティブ(支払い、割引、無料の商品やサービスなど)が誘因となって投稿されているコンテンツ。」にあたり、このような虚偽のエンゲージメントは削除対象です。
投稿内容を見ただけでは偽装行為かどうかの判別がつかないものもあるため、実際にはGoogleが偽装行為の全ての削除をしているわけでもないのですが、プラットフォーム側としても違反行為なのです。
Googleマップのユーザー投稿コンテンツに関するポリシーから。
出典:https://support.google.com/contributionpolicy/answer/7400114
4)クチコミの内容がどのように発見・確認されたかは不明
今回ステマに該当するクチコミは45件とありましたが、このクリニックには数多くのクチコミが投稿されていました。消費者庁がすべてのクチコミの投稿者に裏取りをしたでしょうか? それはわかりません。
しかし、ステマに該当するとされたものがステマでないと事業者側も証明できる状況ではないことも問題です。いわゆる誇大広告や薬機法違反の広告などを取り消しするのとはまったく異なる対応が求められてくることがわかってきました。
実際のところ、どのように表示の取り消しを完了し、消費者への周知徹底が完了とされるのか、まだクリニックの対応が完了していないことから、未知の部分も多くあります。
次回は、実際に措置命令を受けた企業はどのような対応が求められるのか、という点について考えていきたいと思います。