広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。今回は、リクルートのAirWORK、AirPAY、タウンワークなどのヒットCMを手がける村田俊平さんです。
期末レポートの執筆に倦んできて、気晴らしに図書館の探索を始める。哲学・文学のコーナーは見飽きているから、自然と専攻に縁遠い書架に足が向いた。本の森を渉猟して、ふらふらと5階。とりわけ寂寥としてカビ臭そうな、実際はさすがにカビはないと思うけれども、なんかそれくらい陰なオーラが漂う広告関連コーナーに流れ着く。
おりしも、就職活動の時期。第一志望の在京キー局一本槍では心もとないので他のマスコミ業界に視野を広げていたところだった。眺めるとなく眺めていると、ある叢書の重厚な装丁と背表紙のバラエティが目を引いた。それが「TCCコピー年鑑」だった。
広告研究会でもない私が年鑑の何たるかを知るよしもなく、そのカタい名前から、「経済白書」や「犯罪データブック」のような文字、数字やグラフが並ぶ無味乾燥な図録のようなものを想像した。しかし、手に取ってみると、タイトルの印象に反して表紙はやたらキャッチーで、特に故・桂歌丸師匠が泡を食った表情の2006年版のテンションの高さに気を引かれた。
開くと、リアル笑点メンバーたちはまったく出ておらず、「羊頭狗肉じゃん!」と思ったが、別に笑点メンバーをそんなに見たくはない自分にも気付き、気を取り直してめくってみる。本家よろしくカラフルな着物を纏った知らないおじさんとお姉さんたちがポーズを決めるページが続く。まぁ、それが第一印象、やや恥ずかしい感じもあったんだけど、知っているおもしろCMや有名企業のよくできた広告の制作者だとわかるとなんだか「クリエイター」って感じでだんだんかっこよく見えてきた。
その即席笑点メンバーのうち、「新人賞」というのを受賞したらしい一人に私の大学・学部まで一緒のコピーライターを見つけた。なんで分かったかと言うと、今では考えられないが、住所と電話番号、なぜか学歴までが堂々載っていたのである。個人情報ガバガバの当時のその文化が私と広告業界の最初のブリッジになった。
その後、その先輩にOB訪問、興味を深めて広告クリエイティブ職を志望。広告会社に入社、CMの企画を始め、TCC会員になり、そしてなんやらかんやらで、2024年、「年鑑に載せるべきもの」の審査などをしている。
今の私があるのは年鑑のおかげである、と言ったらちょっと過言である。過言ではあるが、お世辞としてでもそれくらいは言いたいな、と思うくらいには恩を感じている。
さて、今年の年鑑もあの図書館の5階に並ぶのだろうか。