カンヌライオンズ2024、エンタメ&クラフト関連部門発表

フランス・カンヌで開催中の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル2024」。2日目はエンターテインメント、クラフト関連部門の発表が続いた。Entertainment部門、Entertainment for Gaming部門、Entertainment for Music 部門、Entertainment for Sport部門、Industry Craft部門、 Digital Craft 部門、Film Craft 部門、Design 部門のグランプリ作品をレポートする。

Entertainment部門(応募数762点)

WhatsApp「We Are Ayenda」
(Creative X+Modern Arts)

「We Are Ayenda」は、タリバン政権の抑圧下で、WhatsAppを活用して国外逃亡に成功した女子サッカーチームのドキュメンタリームービー。

2021年に、イスラム主義組織のタリバンが政権を握ったアフガニスタンにおいて、女性や少女はスポーツへの参加を禁止された。そこでアフガニスタンの女子ユース代表のサッカーチームは、拘束されるリスクを負いながらも国外に逃亡を図ることに。その過程で彼女らを助けたのが、WhatsAppのチャットやボイスメッセンジャー機能だ。

逃亡の過程を追ったムービーは、2023年に開催されたサッカー女子ワールドカップの最初の1週間、Amazon Prime Videoで配信。ライフラインやセーフティスペースとしてのブランドの役割を提示した。

実データ グラフィック WE ARE AYENDA

Entertainment for Gaming部門(応募数407点)

Xbox Games Pass「The Everyday Tactician」
(McCann London)

イングランドのプロサッカー1部リーグであるプレミアリーグがデータ活用に強く戦術に長けた人材を確保できるのに対し、ナショナルリーグ(5部相当)のチームはなかなか難しい。

そこでXboxはサッカーゲーム「Football manager 2024」のローンチに合わせ、ゲームのプレイヤーを、実在するナショナルリーグのサッカーチーム「ブロムリーFC」の戦術担当として雇う試みをした。

「Football manager」はプレイヤーがサッカーチームの監督となりチームの成長を目指すシミュレーションゲーム。時間もお金もとことんつぎ込みチームづくりに熱中するゲームプレイヤーたちとっては、実際のチームで戦略を練れるのは願ってもない機会だろう。

ゲーム上の大会を勝ち抜き、ビデオ審査、面接などを経て選ばれた一人に、「ブロムリーFC」での5カ月の仕事を提供。データを活用した戦略によって、チームに過去一番の好成績を残し、リーグ内で最も黒星の少ないチームとなった。

一方、Xbox の「Football manager」のプレイヤー数も190% 増加。シリーズ史上最もプレイされたゲームとなった。

実データ グラフィック The Everyday Tactician

Entertainment for Music 部門(応募数442点)

Diageo「Errata at 88」
(AlmapBBDO)

ボサノヴァという音楽ジャンルが世界に紹介されたのは、1962年、ニューヨークのカーネギーホールで開催された演奏会だと言われている。しかしその舞台に立ったのは白人男性ばかり。「ボサノヴァの母」と呼ばれるアライデ・コスタは、黒人であるためにそこに招待さえされなかった。

そこでブランドの精神に「KEEP WALKING」を掲げているウイスキーブランド「ジョニーウォーカー」は、歴史を正しく書き換えるべくキャンペーンを開始した。

まずブラジル最大の新聞の広告枠を2ページ分購入し、ボサノヴァの生みの親の一人として彼女の功績を称え、若い世代に彼女を紹介する広告を展開。

その後、2023年に、1962年当時のコンサートを祝うべく再度カーネギーホールにて記念コンサートが開かれることが判明。しかしアライデはまたしてもそこに招待されていなかった。そこでジョニーウォーカーはアライデをスポンサードし、舞台に立たせることに成功。会場には3分以上のスタンディングオベーションが鳴り響いた。

実データ グラフィック Errata at 88

その後アライデに対する評価は一変。メジャーなテレビ番組でヘッドライナーを務めたり、インタビューを受けたりと、本来の功績が認められつつある。

Entertainment for Sport部門(応募数665点)

Orange「WoMen’s Football」
(Marcel)

フランスの大手電気通信プロバイダーのOrange は、 フットボールの歴史的なスポンサーでもあり、男子と女子の両方のサッカー代表チームをサポートしている。しかし、女子サッカーはファンの間で性別による偏見に直面していた。Orange はこの偏見に立ち向かい、2023 FIFA 女子ワールドカップの機会を利用して世界的な話題を集めるべく動画を制作した。

映像で流れるのは、フランスの男子サッカーチームのスーパープレー。その最後には「この感動を与えてくれるのは、Les Bleus(フランス男子代表の愛称)だけ」というメッセージ。それに続き、「あなたたちが今見ていたのは彼らではない」というメッセージが出た後、映像は逆回転する。

すると、これまで見ていた男子選手が、実は女子選手のディープフェイク映像であることが明かされる。つまり数々のテクニックを披露したスーパープレーは女子選手たちによるものだった。そして、最後に男性名詞の「Bleus」から女性名詞の「Bleues」へと書き換えられ、「Orangeはles Bleuesを応援します」というメッセージが流れる。

本作は今年のThe ONE SHOWにおいても最高賞を受賞している。

Design 部門(応募数927点)

Sol Cement「Sightwalks」
(Circus Grey)

実データ グラフィック Sightwalks

視覚障害者誘導用ブロック、通称点字ブロックは、視覚に障害のある人が歩道を歩く際にサポートするものだ。線状のブロックは突起の方向に進めるという「誘導」を表す。点状のブロックは「警告」を示し、横断歩道や階段や障害物などの前に配置されている。

しかし点字ブロックだけでは目的地に行くには不十分で、補助者の助けが必要だという声もあった。道順は示しているが、その周囲にどんな施設があるかまではわからないのだ。

そこでペルーの大手セメントブランド・SOL.は、視覚障害を持つ人々の団体と協力し、点字ブロックの機能をより高めることに。シンプルなデザインシステムを生み出した。

それはブロックの上下に横線を入れ、間に入れる縦線の数で、目的地となる施設を伝える仕組みだ。レストランは1本、銀行は2本、スーパーマーケットは3本、といった具合で、日常に不可欠な10種の施設を示すことができる。

完成後、使い方についてのセミナーを開いたほか、点字の説明書や説明音声をつくるなどし、普及に貢献。オープンソースのプロジェクトであり、世界中に普及させることを目指している。

Film Craft 部門(応募数1552点)

Hornbach D.I.Y. /Home Improvement Stores「The Square Meter」
Heimat\TBWA

ドイツのホームセンターチェーン「HORNBACH」による、1平方メートルのスペースの可能性を描いたムービー。

一人分のベッドルームに縦長のキッチンやダイニング、小さな卓球場。限られたスペースにも無限の可能性があることを表現した。

写真 撮影セット

撮影セット

Digital Craft 部門(応募数552点)

Spotify「Spreadbeats」
FCB New York

Spotifyによる、広告主やマーケター、広告会社などをターゲットに据えたBtoBキャンペーン。

Spotifyは音楽ストリーミングプラットフォームとして認知されているがゆえに、動画広告が流せることはあまり知られていない。

そこでメディアプランナーへの営業活動の際に使用しているExcelファイルに、ASCII、ユニコード、条件付き書式などの機能を使って直接ミュージックビデオをコーディング。ファイルを開くと中毒性のある映像と音楽が流れる仕組みをつくった。

音楽は米国のDJジョン・サミットによる楽曲『Shiver』を起用し、映像では「E7」セルが徐々にカラフルな3Dキャラクターになるまでを描いている。音楽と映像の相乗効果で、動画広告にも強みを持つ媒体としてのSpotifyを印象付けた。

Industry Craft部門(応募数1001点)

Frankfurter Allgemeine Zeitung「The 100th Edition」
(Scholz & Friends)

実データ グラフィック The 100th Edition

1949年に創刊されたドイツの新聞「Frankfurter Allgemeine Zeitung」が展開する名物キャンペーンに「Brilliant Mind」というものがある。時代を象徴する人物が、その人を表現する場所で新聞を読む様子を撮影したグラフィックで知られている。しかし広げた新聞紙に隠れて、その人物の顔は見えない。これまでオスカー俳優やノーベル賞受賞者、スポーツ界の英雄などが登場し、99回続いてきた。

そして100回目のアイコンとして選ばれたのは、102歳のホロコーストの生存者 マルゴット・フリードレンダーさん。写真の撮影はヴィム・ヴェンダース監督により、ベルリンにあるホロコースト記念碑で行われ、2024年1月27日の「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」の同紙に掲載された。

本部門の審査委員長は木村健太郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル ファウンダー ECD /Hakuhodo International チーフクリエイティブオフィサー)が務めた。

写真 人物 個人 木村健太郎

木村健太郎氏(博報堂 執行役員/博報堂ケトル ファウンダー ECD /Hakuhodo International チーフクリエイティブオフィサー)。現地時間18日、カンヌ現地でのIndustry Craft部門の贈賞式にて。

3日目にはCreative B2B部門、Creative Data部門、Direct部門、Media部門、PR部門、Social & Influencer部門が発表されている。

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