「著作者人格権」って何? 漫画実写化で、編集者が知っておくべきリスクと対応(前篇)

――実写化を担う制作者の立場で言えば、原作者に対してどのような配慮を持ったコミュニケーションをとるべきでしょうか。

まずは、原作者が有する著作権法などの権利をきちんと理解することが必要です。ただ、特に著作者人格権に関する判断や運用は難しいと感じています。映像化に際しては、必然的にある程度の演出が加わりますが、原作者の受け止め方は、原作や演出によって異なることもあり、著作者人格権の侵害となるか否かについて、白黒付けづらい面もあるからです。
また、原作者が比較的細かく監修する場合もあれば、原作者による監修が制限される場合もあります。

制作者としては、原作者が大切にしている価値観の理解に努めることが重要だと思っています。状況次第ではありますが、制作者が、原作者に対して、映像化への方針や変更する部分などを伝えておくこともあり得ます。逆に、原作者も、制作者に対して、原作の制作意図、大切にしているポイントなどを伝えておくことも有益かもしれません。

――岡本先生はエンタテイメント領域で、弁護士として著作・創作に関する相談に多く、関わっていらしたと思います。実際に、コンテンツ制作の現場で、どのように関わっているのでしょうか。

弁護士としてコンテンツ制作に関与する主な場面は、作品の完成前と後に分けられます。作品の完成前の段階でいえば、契約書の作成などのほか、プロットや脚本、映像表現の確認を行うこともあります。問題表現や権利侵害となり得る部分などを確かめるためです。
ちなみに、望ましくはありませんが、実務上、契約書の締結は、作品の完成後となることもあります。

完成後に関わる場合には、制作過程で関係者間のコミュニケーションが上手くいかず、また、作品の公表後に権利侵害が発覚するなど、トラブルに発展した場合が典型です。こうした場合には、必要に応じて契約書などを確認しつつ、権利侵害に関連する各種問題に対応します。

――近年、国内でも制作物に関する権利に対する意識が高まっているように感じます。

そうですね。以前と比べて、最近は、制作者側も、権利侵害の有無などを比較的慎重に検討するとともに、「ここは権利侵害の可能性があるから、予め対応しておこう」という姿勢が多いように思います。

その主な要因の1つとして、SNSの普及が挙げられるように思います。誰でも権利侵害や表現の問題について感じたことがあれば、容易にSNSで発信でき、場合によって拡散されることもあります。中には誤った投稿もありますが、権利侵害などの問題が発見され、多くの人の目に触れやすくなったほか、その結果、作品のイメージなどにも影響を与える可能性があります。

後篇に続く

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岡本健太郎氏

(骨董通り法律事務所 弁護士 NY州弁護士 証券アナリスト)

ロイター通信社(日・英)などを経て、国内外のアート、エンタテインメント、デザイン法務に従事。神戸大学大学院客員教授、Japan Contents Blockchain Initiative 著作権流通部会 部会長、アカツキ社外監査役なども兼務。趣味はリズムタップ、音楽鑑賞(70’s Soul)と茶道(松尾流)。

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