「10代、20代に知られていない」Z世代の企業認知狙うヤンマーのTikTok戦略とは?

BtoB事業をメインとする多くの企業にとって、課題となるのが生活者の企業認知を高めることです。特に、次世代のメイン消費者であり、採用候補者にもなりうる10~20代の“いわゆる”Z世代の認知獲得に注力する企業も増えています。
本記事では、10~20代への企業認知拡大を図るため、公式TikTokアカウントの運営を開始したヤンマーの事例を一部紹介します。企業に対する驚きや意外性があるコンテンツを軸に、社員を前面に打ち出す内容により再生数が増加しています。

※本記事は、『広報会議』(2024年8月号・7月1日発売予定)「企業のSNS活用 知っておきたい10のこと」 から一部を転載した内容です。

TikTokの担当部署と人数:ブランド部 コミュニケーション部の1人
開設年:2023年7月
フォロワー数:2万3000人(2024年6月20日時点)
更新頻度:週1~2回程度
その他、運用中のSNS:X、Facebook 、Instagramなど

農業機械をはじめ、エンジンやエネルギーソリューションなど幅広い事業を展開するヤンマーホールディングス(以下、ヤンマー)。年1 回、企業の認知度調査を実施する中で、同社への10代、20代の認知度が低い現状に課題を感じていた。

両年代では、ヤンマーという名前すら「聞いたことがない」とする人が半数程度もいるという状況に。そこで両世代に人気のショート動画を活用して、認知度向上を目指すことを決断。公式TikTokアカウントの運営を始めた。

「生活者との接点がない」

なぜ、若年層の認知度が低下したのか。同社はかつて、民放テレビ局で55年にわたり「ヤン坊マー坊天気予報」を放送。「ヤンマー」は生活者には親しみのある存在となっていたが、放送は2014年に終了した。

「この『天気予報』を見ていなかったのが10~20代です。またメインの事業形態がBtoBであることから、生活者との接点がないことも認知度の低下に影響しています」と、ブランド部コミュニケーション部の岡本恵里奈氏。

従来からFacebookやXを運用してきたが、若年層とのタッチポイントは十分に生み出せていなかった経緯もある。そこで同社は「隙間時間に情報収集目的で活用している」などと若年層から人気を集める、TikTokの公式アカウントを開設。SNSを担当していた岡本氏と外部の制作会社が連携してアカウントの運用を開始した。

運営方針は「ヤンマーのビジョンや会社の実態について、意外性や驚きのあるコンテンツを軸に訴求すること」だ。世間的にはヤンマー=農業というイメージが根強いが、農業だけでなく幅広い事業を展開していることを周知。また、企業の内側を見せていきたいという考えもあった。

「ヤンマーを知らない層にも『面白い』『楽しそう』『興味が湧いた』などの感情を想起させることで、企業へのファン化につなげていきたいですね。将来的には就職先の選択肢にもしてほしいという期待感も持っています」(岡本氏)。

社員を前面に押し出したコンテンツ

コンテンツ制作で意識しているのは「社員を前面に出すこと」だ。TikTokでは社員を通して、ヤンマーの魅力を伝えることを重視。企業の取り組みや製品の紹介などを中心に発信する方針の、同社のXやFacebookと使い分けている。また企業のPR色は極力排除し、エンタメ要素を入れたコンテンツ企画を意識している。

だが、最初から「エンタメ要素強め」の方針だったわけではない。運用開始から半年ほどは、企業のブランドイメージに沿ったコンテンツを発信していた。再生数が伸びたコンテンツもあり、岡本氏は「若年層とのタッチポイントが増えているから、認知度も上がっているだろう」と踏んでいた。

しかし2024年2 月に実施した企業の認知度調査でも、若年層の認知度はほぼ横ばいのまま。企業のブランドイメージを担保するのも大切だが、まずはバズらないことにはレコメンドされず、認知度アップにもつながらない。TikTok上の空気感をそう理解した岡本氏は、方針を転換。企業色を抑えて、エンタメ要素を押し出したコンテンツを企画するようになったという。

「『内容が面白いから見ていたけれど、実はヤンマーという会社のTikTokだったのか』という流れで認知してもらえるのが理想ですね」(岡本氏)。

「細かすぎて伝わらん」ニッチな動画に共感続出

企画において、バズる投稿を生み出すために意識しているのが、「TikTokトレンドの型」をオマージュすること。ユーザーが見慣れているからこそすんなり受け入れられる「トレンドの型」の上に、ヤンマーらしい独自色を乗せていくのだ。このため企画は、TikTokのトレンドを随時チェックしながら、制作会社と協議のうえ検討。同社らしさを落とし込めそうなものは、積極的に撮影に取り入れる。乗り遅れることのないよう、常にタイミングを見計っているという。

中でも反響が大きかったコンテンツは、「嬉しい瞬間、悲しい瞬間」という動画。もともとTikTok上で流行っていた「型」に、工場への勤務経験者しか分からないようなニッチな“あるある事例” をはめ込み、クスっと笑える仕上がりとした。社員のドヤ顔アップなど細部にもこだわった。

イメージ 再生数が高い動画「工場の嬉しい瞬間」。

再生数が高い動画「工場の嬉しい瞬間」。TikTok上でトレンドとなっているフォーマットに、工場勤務の経験者にしか分からないニッチな「嬉しい瞬間」を載せて投稿。成功後の出演者のドヤ顔と相まって「めっちゃ分かる」「細かすぎて伝わらん」などコメント数が増加、多くの再生につながった。

複数のパターンを投稿しているが、いずれも反応が良く、「めっちゃ分かる」「細かすぎて伝わらん」など、ニッチな場面を切り取ったからこそのコメントが数多く寄せられている。

一方、社員に1日密着する様子を30秒にまとめた「広報社員の1日」も再生数を伸ばしている。テーマとしては“企業色がやや強め” だが、隠し撮り風のカメラワークを採用。密着されていた社員が動画の締めで「(撮っていることは)バレてるで」と言うお決まりのパターンなど、エンタメ要素も施されている。

イメージ 社員に1日密着する様子を30秒にまとめた人気のシリーズ。

社員に1日密着する様子を30秒にまとめた人気のシリーズ。密着された社員が動画の締めで「(撮っていることは)バレてるで」と言うお決まりのパターンも特徴的で、エンタメ要素も随所に入れ込みコメントしたくなる内容に。

社員に1日密着する様子を30秒にまとめた人気のシリーズ。密着された社員が動画の締めで「(撮っていることは)バレてるで」と言うお決まりのパターンも特徴的で、エンタメ要素も随所に入れ込みコメントしたくなる内容に。

岡本氏は「カジュアルな雰囲気の中で、社員や業務の様子を覗き見している感覚を得られることも再生回数につながっているのでは」と分析する。また「働きやすそう」「オフィスがキレイ過ぎ」といったコメントも多く、企業へのポジティブな反応にも寄与している。

ヤンマーのアカウントの中で、最もフォロワー数が伸びた動画は…

 
 

続きは、『広報会議』(2024年8月号・7月1日発売予定)「企業のSNS活用 知っておきたい10のこと」 からお読みいただけます。

本特集では、このほかにも様々な企業のSNS活用事例を掲載しています。ぜひ、自社のSNS活用に役立ててください。

広報会議 2024年8月号


特集 SNS活用 知っておきたい10のこと
1 データで見るSNS活用法
若年層のSNS利用実態と価値観に迫る
工藤永人 電通
 
2 Z世代のSNS活用のリアル
好感を抱く企業アカウントの投稿とは?
大学生4人に聞いた、SNSの使い方
 
3 フェイク情報の脅威と備え
SNSで「偽情報」が拡散
その時、広報担当者が取るべき行動とは?
小笠原盛浩 東洋大学
 
世界で広がるフェイク情報の被害
対策の現在地と企業にできること
楊井人文 日本公共利益研究所
 
4 生活者の声に向き合う姿勢が企業イメージに
「フライパンをご提供いただけませんか」
味の素冷凍食品のあの返信の裏側に迫る
 
5 人気アカウント、転機はどこに?
軌道にのった投稿と思考法
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木村鋳造所/金津屋
 
6 投稿事例に学ぶ
「採用」「企業・商品認知」に好影響
SNSを使ったアプローチとは
コクヨ/ヤンマー/オリバーソース
 
7 コンテンツを絶やさない極意
キャラ際立つ面白投稿が続々、デュオリンゴ
 
COLUMN
海外メディアにLinkedInでアプローチ
焼酎の魅力を広げる、濵田酒造
 
8 必要な専門スキル
SNS担当に向いている人は?
三陽工業/タニタ/タビオ/ニュー・オータニ
 
9 SNS運用の体制づくり
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