『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、ARENCEアートディレクター/クリエイティブディレクター 八木彩氏が、『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』を紹介します。
本の著者である三島邦彦さんと私は、1985年生まれの同い年です。同じ会社で約15年間働いていましたが、他のクリエーターの考え方を深く知る機会は多くはありませんでした。本を通じて三島さんのコピーの裏にある思想を知ることができ、共感する部分がたくさんありました。
最近はAIの進化が激しく、広告を通じて学びを深めてきた「伝える」ための仕事が、AIに置き換わってしまわないかと不安になることがあります。でも、本書にあるように、人間には意志がある。「世の中をよくしたい」「誰かを救いたい」「もっと美しいものを見たい」。このような意志を可視化していく仕事は、むしろさらに必要になるのではないか。AIが普及し、情報の量産が進めば進むほど、そこに「意志があるか」が大切になってくるはず。言葉の力を信じて、その道を追求する三島さんの姿に、とても勇気づけられました。私もデザインを通じて、未来をよりよくしたいと願う人たちの、力になりたい。
また、この本の読後感として、ヒリヒリとした焦燥感が残りました。若手の頃は一つ一つの仕事を、絶対にいい仕事にするのだと思い、過剰なほどの情熱で仕事に向き合っていました。あの時と同じ熱量を三島さんは15年間持ち続けて仕事に取り組まれている。私も今取り組んでいる仕事に、この熱量で取り組めているだろうか。この本を時々読み返して、自分を律したいと思える本でした。
『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』
三島邦彦著
定価:2200円(税込み)
この本に書かれているのは、「コピーライター」という名刺を持った日から現在に至るまで、「コピーライティング」について三島氏が考え、実践してきた数々の「思考のかけら」。「言葉を考える」「言葉を読む」「言葉を書く」「そして、言葉を考える」という4つの章から構成されています。これらについて、三島氏は日頃考えていることを惜しみなく書き綴りました。しかし、そこに書かれているのは、コピーライティングの作法でも手法でもありません。さらに言うならば、書き方の技術でもありません。コピーライターとして16年のキャリアを積んだ現在の三島氏ならではのフォーム、そして言葉に向かうときの心構えです