企業のスポーツ応援の効果 社会的価値の数値化で重要性を再確認、キリンHD

サッカー応援活動を通じてCSV経営を実現

キリンホールディングス(HD)は、スポーツの応援が生み出す社会的価値を数値化した。1978年からサッカー日本代表を応援している同社は、「社会的投資収益率」(SROI)という指標を用いた測定を実施。サッカー日本代表戦である「キリンチャレンジカップ」と、障害の有無や年齢を問わずウォーキングフットボールを楽しむ「キリンファミリーチャレンジカップ」の2つの価値を金額に換算したところ、「キリンチャレンジカップ」は実施にかかった費用の8倍、「キリンファミリーチャレンジカップ」は1.4倍の価値を生み出したことが分かった。スポーツ応援はCSV経営やブランド価値の向上にもつながるとしており、同社のマーケティング戦略部とCSV戦略部に狙いを聞いた。

写真 人物 マーケティング戦略部の井上氏(左)とCSV戦略部の山田氏(右)

サッカー応援を通じてCSVパーパスの実現を目指すマーケティング戦略部の井上氏(左)とCSV戦略部の山田氏(右)

SROIとは1990年代後半に、アメリカの「Roberts Enterprise Development Fund」によって開発された、社会的価値の定量的な測定・評価手法。社会活動が生み出した経済的な事業価値や社会目的価値を加え、事業の実施にかけた費用を除算することで決定する。費用に対してどの程度便益が創出されたか倍率で示すことができる。

キリンHDは「CSVパーパス」において、「酒類メーカーとしての責任」を果たし、「健康」「コミュニティ」「環境」の3つの社会課題に取り組むことを掲げており、サッカー応援活動が人と人とのつながりで前向きな力を創り出す「コミュニティ」に対してもたらす効果を把握する狙いがあった。

同社は2023年に日本サッカー協会(JFA)の「オフィシャルトップパートナー」として契約を結んだ。これまでのように日本代表を応援するだけでなく、日本サッカー全体を盛り上げていくため、サッカー応援の価値を数値化したい思惑もあった。社会全体でESGなどに関連する非財務活動がされつつあることも、このタイミングでの計測理由としている。

「キリンチャレンジカップ」「キリンファミリーチャレンジカップ」について、経費と生み出した社会的価値の比率を算出。経済的、環境的、社会的な変化について、試合の観客など影響を受けたステークホルダーに対してアンケートやスマホなどの調査でデータを収集し、分析結果を社会共通の価値に置き換えて定量化した。生み出した社会的価値は、政府が公開している統計情報など様々な係数をかけて算出した。

サッカーの応援活動がどのような人に、どのような価値を届けているのかについて整理し、重要な要素を選別して計測を行った。「キリンチャレンジカップ」では、過去の開催分も含めてアンケート内容を作成し、観戦の手段なども確認。測定の結果、「キリンチャレンジカップ」は「人・社会のつながり」の輪の広がりや前向きな気持ちへの変化、明日への活力につながるモチベーションへの社会的インパクトが大きく、「8.0」となった。「キリンファミリーチャレンジカップ」は家族や仲間との絆の深まりや、年齢や性別による違いを受け入れる多様性などの価値が高く、「1.4」となった。

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