カンヌライオンズ2024、マスターカードのウクライナ難民救済施策が2年連続受賞

フランス・カンヌで開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2024」。3日目にはCreative B2B部門、Creative Data部門、Direct部門、Media部門、PR部門、Social & Influencer部門が発表された。各賞のグランプリ作品をレポートする。また日本からはSocial & Influencer部門で日本マクドナルドの「スマイルあげない」が金賞を受賞している。

Creative B2B部門(応募数371点)

JCDecaux「Meet Marina Prieto」
(David)

屋外広告に強みを持つ広告会社ジェー・シー・ドゥコーがスペインで展開した、屋外広告の価値を高めるための実験的なプロモーション。2023年に地下鉄広告への投資額が大幅に減ってしまったことを背景に、同社はその本来の効果を伝えるべく「Meet Marina Prieto」キャンペーンを開始した。

そこで白羽の矢が立ったのは、当時フォロワーが28人しかいなかった100歳のインスタグラマー マリーナ・プリエトさん。彼女が植木に水をやったり、チュロスを食べたり、昼寝をしたりという日常の投稿写真計54枚を、マドリード市内の数百の地下鉄の広告枠に掲出したのだ。見ず知らずの女性で地下鉄の景色が埋め尽くされたことで、「この人は誰?」と大きな話題に。マリーナさんのフォロワーは一気に1万人以上に増え、アカウントのエンゲージメント率も大幅にアップ。14カ国でインプレッションも獲得し、屋外広告のオンライン上での波及効果も照明した。

ジェー・シー・ドゥコーはこの成果を、優れた効果を上げたマーケティング施策を評価するエフィー賞にて、世界中のCMOたちの前で発表。185の新たなブランドとの契約に繋がった。

Creative Data部門(応募数366点)

Mastercard「Room For Everyone」
(McCann Poland)

ロシアのウクライナへの侵攻を受けてポーランドへ国外退避したウクライナ難民と、その受け入れ先となったポーランドの人々、それぞれを支援する、マスターカードによる取り組みの第二弾。

第一弾はウクライナ難民のポーランドでの居住地探しを助けるプラットフォーム「Where To Settle」。2023年のカンヌライオンズにてSDGs部門のグランプリを受賞した。

ロシアのウクライナ侵攻によってポーランドに退避したウクライナ難民は約155万人で、これによりポーランドの人口は4%増加した。それに伴い、ポーランド国内の市場にも影響が。ウクライナ人が起業した新規企業の数が、ポーランド国内の新規企業数の約10%を占めるようになり、それを脅威だと感じるポーランド人も増えてきた。

そこでマスターカードは、ポーランドとウクライナの起業家それぞれのビジネスが相乗効果を生むように、店舗の出店場所探しをサポートするデジタルツール「Room For Everyone」を開設。

たとえばジュエリーショップの隣に書店があると共に繁盛する傾向にある、レストランの横に理髪店があるとよりお客さんを引き付ける、ドラッグストアの横にペットショップがあるとビジネスが成功する傾向がある、といった法則がある。これらをもとにマスターカードが保有する来店客数、取引データ、ビジネス補完データ、不動産情報などを分析し、両者にとって適切な出店場所を提案した。

40%ほどの新ビジネスのオーナーが「Room For Everyone」を活用すると共に、ウクライナ人に対する好意度も10%高まるという結果となった。

Direct部門(応募数2025点)

Xbox Games Pass「The Everyday Tactician」
(McCann London)

今年のEntertainment for Gaming部門でもグランプリを獲得した施策。

イングランドのプロサッカー1部リーグであるプレミアリーグがデータ活用に強く戦術に長けた人材を確保できるのに対し、ナショナルリーグ(5部相当)のチームはなかなか難しい。

そこでXboxはサッカーゲーム「Football manager 2024」のローンチに合わせ、ゲームのプレイヤーを、実在するナショナルリーグのサッカーチーム「ブロムリーFC」の戦術担当として雇う試みをした。

「Football manager」はプレイヤーがサッカーチームの監督となりチームの成長を目指すシミュレーションゲーム。時間もお金もとことんつぎ込みチームづくりに熱中するゲームプレイヤーたちとっては、実際のチームで戦略を練れるのは願ってもない機会だろう。

ゲーム上の大会を勝ち抜き、ビデオ審査、面接などを経て選ばれた一人に、「ブロムリーFC」での5カ月の仕事を提供。データを活用した戦略によって、チームに過去一番の好成績を残し、リーグ内で最も黒星の少ないチームとなった。

一方、Xbox の「Football manager」のプレイヤー数も190%増加。シリーズ史上最もプレイされたゲームとなった。

Media部門(応募数1888点)

Mercado Libre「Handshake Hunt」
(Gut)

アルゼンチンに本社を置き越境ECプラットフォームを運営するMercado Libreによるブラックフライデーの施策。

ブラックフライデーに向けて各社による“広告合戦”が繰り広げられるが、それは消費者にとって好ましいものではない。そこで同社は、人々が好きなテレビ番組に登場するものを広告にしてしまうという新たなCM手法を生み出した。

鍵となるのは、“良い取引”のシンボルでありMercado Libreのロゴにもなっている「握手」だ。TVネットワーク「Globo」において、握手をするシーンがテレビに映し出されるたびに、その番組に関連する商品のディスカウントを提供する二次元コードを表示させる仕組みをつくったのだ。音楽番組でゲストと司会者が握手をすれば楽器が割引に、映画の中で握手をするシーンが映ればテレビが割引なる、といった具合。1週間で50万以上の割引券が表示され、同社史上最も成功したブラックフライデーとなった。

PR部門(応募数1528点)

Specsavers/Specsavers Hearing Tests「The Misheard Version」
(Golin)

Audio & Radio部門でもグランプリを獲得した施策。

メガネの小売りチェーンであり、視覚や聴覚の検査も実施しているSpecsaversによる、聴覚検査の受診を促進するキャンペーン。よく聞き間違えられることで有名な、リック・アストリーの大ヒット曲『Never Gonna Give You Up』を、あえて聞き間違えられたバージョンの歌詞で再収録。特に説明もせずネット上にアップし、聞いた人が自分の聴力に疑問を抱き、検査を思い起こすように働きかけた。

Social & Influencer部門(応募数1769点)

Cerave「Michael Cerave」
(Ogilvy PR)

アメリカ発のスキンケアブランド「CeraVe」は、同社の商品が皮膚科医と共に開発されていることを伝えるために、スーパーボウルに初めてCMを出稿することに。当日の効果を最大化するために、約1カ月かけて下準備を行っていった。

それは俳優のマイケル・セラ(Michael Cera)の協力を得て、「CeraVeを開発したのは実はマイケル・セラだった」だという情報を広めるという手法。もちろんそれは誤情報なのだが、美容系インフルエンサーにマイケル・セラの写真が貼られた「CeraVe」の商品を送り付ける、インフルエンサーによるマイケル・セラへの直撃インタビュー動画を公開するなど、開発への関与を示唆するようなアプローチで巧みに情報を広げ、Daily MailやNew York Timesなどの新聞やポッドキャストの配信者、インフルエンサーなどを通じて話題化。スーパーボウルの開催前の時点ですでに90億のインプレッションを獲得した。

そして試合当日に放映されたのは、「『CeraVe』の開発にマイケル・セラは関わっていない」と公式が発表する動画。スーパーボウルではセレブリティが登場するインパクト大のCMで“一本勝負”をする企業が多い中、約1カ月の仕込みをすることで、それを超えるインパクトを生み出した。放映後の1週間で、「CeraVe」の売上は25%アップしたという。

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