第一次世界大戦でプロパガンダを推進「理想主義」の大統領~ウッドロウ・ウィルソン

国際連盟設立に尽力するも、評価が分かれる大統領

写真 人物 ウッドロウ・ウィルソン

ウッドロウ・ウィルソン(Thomas Woodrow Wilson、1856 – 1924)

1913年から1921年まで第28代アメリカ合衆国大統領を務めたウッドロウ・ウィルソンは、第一次世界大戦中のリーダーシップや戦後の国際連盟の設立提案で知られています。

ウィルソンは進歩主義的な政策を推進し、国内外で大きな影響力を持ちました。しかし、彼は人種隔離政策や国際連盟設立に尽力したにもかかわらず、アメリカが国際連盟には不参加となり、彼の理想主義が許容されずに孤立していくなど、ウィルソンの評価は分かれています。

このコラムでは、第一次世界大戦にアメリカが参戦した際、彼に広報委員会(CPI)設立を決断させた、ウォルター・リップマンとの関係について、ご紹介します。

広報委員会を設立しプロパガンダを実践

ウィルソン政権下で、アメリカ合衆国は1917年に第一次世界大戦に参戦しました。

戦時中、国内の支持を確保し、戦争の目的や進展について国民に情報を提供するために、広報委員会(Committee on Public Information, CPI)が同年4月13日にウィルソン大統領が発布した行政命令により設立されました。

CPIの主な目的は、戦争に対する国民の支持を得るために、プロパガンダを使用して情報を提供することでした。また、戦争の重要性や米国の戦争目的を理解してもらうために、情報を広く普及させることも目指していました。

CPIがどのようなプログラムを企画実践したかは、ジョージ・クリールの回でご紹介したとおりです。

CPIの設立には、ウィルソン大統領の政策顧問を務めていた、ジャーナリストのウォルター・リップマンが深く関わっています。

写真 人物 ウォルター・リップマン

ウォルター・リップマン(Walter Lippmann、1889-1974)

リップマンは、ウィルソンが大統領就任以降、特に外交政策に関する助言を行っており、CPIを通してこの参戦を挙国一致で成功に導くための、プロパガンダの重要性を説いていたと言われます。

またリップマンは、第一位世界大戦終了後、ウィルソンが提唱した「14か条の平和原則」にも影響を与えたとされています。

これらの原則は、第一次世界大戦後の平和構築のためのガイドラインとして提案されました。CPIの運営はジョージ・クリールが行い、リップマンはCPIには参画しなかったのですが、彼のウィルソンに対する影響力は大きかったことがうかがえます。

リップマンはウィルソンの国際主義的なビジョンを支持し、戦後の平和維持に関する議論において重要な役割を果たしました。

しかし、リップマンは後にウィルソンの理想主義的なアプローチに批判的になり、特に国際連盟の設立とアメリカの参画についての実現可能性に疑問を呈しました。


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ウィルソンの「理想主義」が掲げていたもの

ウィルソンの理想主義には、賛成・反対どちらの意見もありました。多くの人々は、ウィルソンの理想主義が国際連盟の創設につながり、後の国際連合(United Nations)の基礎を築いたと評価しています。

また、民族自決の原則は、植民地独立運動を促進し、20世紀中葉以降の多くの新興独立国家の成立に寄与しました。

その一方で、ウィルソンの理想主義は現実離れしていると批判されることもあります。

国際連盟はアメリカ自身が加盟しなかったため、効果的な機関となることができず、第二次世界大戦を防ぐことができませんでした。

また、民族自決の原則は、実際には多くの地域で紛争を引き起こし、ウィルソンの理想が完全に実現されることはありませんでした。

ウィルソンの理想主義は、国際平和と協力の促進、民主主義の普及、民族自決の尊重などの高尚な目標を掲げたものであり、彼の政策や理念は国際政治において長く影響を与え続けています。しかし、その実現には多くの課題があり、評価は時と共に変わり続けています。


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スポークスパーソン

スポークスパーソン(Spokesperson)とは、組織や団体、企業、政府などの公式な代表として、メディアや公衆に対して情報を発信する役割を担う人物のこと。

スポークスパーソンは、特定の問題や出来事についての見解を伝えるだけでなく、質疑応答を通じて情報を提供し、組織の立場やメッセージを広める重要な役割を担当する。

スポークスパーソンの役割と責任は次の通り。

  • 公式声明の発表: 重要な発表や声明を行う際、組織を代表して発言する。これには、新製品の発表、危機対応、政策の説明などが含まれる。
  • メディア対応:記者会見やインタビューを通じて、メディアの質問に答える。正確かつ迅速に情報を提供し、誤解を避けるためのコミュニケーションが求められる。
  • 危機管理:組織が危機に直面した際、迅速かつ適切な情報発信を行い、組織の評判を守るための対応をする。誤報やパニックを防ぐため、正確な情報を提供することが重要。
  • メッセージの一貫性:組織のメッセージが一貫していることを確認する。異なるスポークスパーソンが異なるメッセージを伝えることを防ぎ、組織の信頼性を維持する。
  • 公衆とのコミュニケーション:組織の方針や活動について、一般の人々に理解してもらうための情報提供を行う。透明性を保ち、信頼関係を築くことが目的といえる。

スポークスパーソンは、組織の顔として公衆やメディアと直接コミュニケーションを図る重要な役割を担っており、その言動や発表が組織全体のイメージに大きな影響を与えることがある。

河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)
河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)

かさい・ひとし/ミアキス・アソシエイツ 代表、英パブリテック日本代表。10年にわたる外資系メーカーでの国内広報宣伝部門責任者を経て、1998年8月より広報コンサルタントとして独立。以来、延べ120社以上の外資系IT企業をはじめ、ITベンチャー各社の広報業務の企画実践に関するコンサルティング業務に携わる。メーカーでの広報担当時代(1989年~)から現在まで、自身で作成・校正を手がけたプレスリリースは、2400本を超えた(2023年10月31日現在: 2421本)。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科修士課程修了(コミュニケーション学)。日本広報学会会員。米IABC(International Association of Business Communications)会員。著書に『アイビー・リー 世界初の広報・PR業務』(同友館)。

河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)

かさい・ひとし/ミアキス・アソシエイツ 代表、英パブリテック日本代表。10年にわたる外資系メーカーでの国内広報宣伝部門責任者を経て、1998年8月より広報コンサルタントとして独立。以来、延べ120社以上の外資系IT企業をはじめ、ITベンチャー各社の広報業務の企画実践に関するコンサルティング業務に携わる。メーカーでの広報担当時代(1989年~)から現在まで、自身で作成・校正を手がけたプレスリリースは、2400本を超えた(2023年10月31日現在: 2421本)。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科修士課程修了(コミュニケーション学)。日本広報学会会員。米IABC(International Association of Business Communications)会員。著書に『アイビー・リー 世界初の広報・PR業務』(同友館)。

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