小さな声に耳を傾け、世に送り出す最初のきっかけになり得る 自治体広報の仕事(北本市・秋葉恵実さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムはリレー形式で、「自治体広報の自分の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。埼玉県本庄市の高柳一美さんからバトンを受け取り、登場いただくのは、埼玉県北本市政策推進部市長公室主任の秋葉恵実さんです。

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秋葉 恵実氏

埼玉県北本市役所 市長公室
シティプロモーション・広報担当 主任

平成30 年から広報担当。デザイン・編集経験ゼロからスタートし、令和3年度に広報紙の内製化を開始。最終的に編集委託予算600 万円の削減に成功する。令和4年埼玉県広報コンクールで特選(一枚写真)、一席(広報紙)に選ばれ、令和5年に全国で内閣総理大臣賞受賞、令和6年も全国入選。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

はじめまして!埼玉県北本市役所の秋葉と申します。

最初に、北本市のことを簡単に紹介させてください。

埼玉県のほぼ中央に位置する北本市は、面積19.82平方キロメートルに人口約6万5,000人が暮らす、非常にコンパクトなまちです。

都心から電車で約1時間という好アクセスでありながら、住宅街には雑木林や地元農家さんの直売所などが非常に多く点在し、市内を流れる荒川沿いには昔ながらの里山の風景が残されています。埼玉県唯一の「森林セラピー基地」として認定を受けており、森の生き物や鳥の声などを五感で楽しむセラピーツアーには市外から参加する方も多くいらっしゃいます。

写真 人物 森の生き物や鳥の声などを五感で楽しむセラピーツアーの様子

また、大宮台地の高台にあり、地盤が非常に安定していることから水害や地震にも強く、住宅情報誌の「災害に強いまちランキング」で紹介されたこともあります。市内には縄文時代に1,200年間続いた集落遺跡「デーノタメ遺跡」があり、北本はこの時代から人々が安心・安全に暮らせるまちだったのかもしれません。

私は、この魅力豊かな北本市で広報業務全般を担当しています。具体的には、毎月1回発行する「広報きたもと」の企画・取材・編集(撮影もデザインも全部自前です!)、市公式SNSの更新、市ホームページの管理、報道機関へ向けたプレスリリースの作成などを行っています。

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

私が所属する市長公室シティプロモーション・広報担当では、広報業務のほか、シティプロモーションやふるさと納税、「市長への手紙」といった広聴業務を所管しています。

シティプロモーションでは、「今、北本に住んでいる人」のまちへの愛着醸成を目的に、市役所芝生広場で定期開催する「&green market」、市民の皆さんに北本の魅力をSNSで発信していただく「みどりと広報部」、市民有志と一緒に作り上げるイベント「みどりとまつり」の開催などを行っています。

ふるさと納税業務では、地域の事業者さんの魅力をふるさと納税返礼品として発信するほか、「団地に賑わいを作りたい」といった市民提案のプロジェクトを「ふるさと納税型クラウドファンディング」で支援しています。

写真 市役所芝生広場で定期開催する「&green market」の様子

このように、地域に関わりたい人たち、やりたいことがある人たちとつながる事業を展開するシティプロモーションと広報が同じ担当にあり、連携しやすいことが、北本の広報の強みの一つだと思っています。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

私は、自治体広報の目的は「市民の皆さんと行政の間に信頼関係を築くこと」だと考えています。こう考えるようになったのは、静岡県島田市の「広報しまだ」を長年作り続けてきた、鈴木克典さんの「日ごろから広報が市民の皆さんに信頼されていなければ、災害などの非常時に命に関わる情報を届けることもできない」という話を聞いて、衝撃を受けたのが大きなきっかけでした。

このために、常に意識しているのが「一度関わった市民の皆さんとは、その後もつながり続ける覚悟を持つこと」。その例として、全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞した、広報きたもと令和4年9月号の特集「ここがわたしの居るところ」を少しご紹介します。

イメージ グラフィック 広報きたもと令和4年9月号の特集「ここがわたしの居るところ」

この特集では「第3の居場所」をテーマに、北本に自分の居場所を見出したお母さん、自分たちが楽しめる居場所をマーケットに作る人など、さまざまな年代の人たちが登場します。

取材した皆さんと「今後も」つながり合う関係を築くため、まずは担当者である私自身を信頼してもらえるよう、「なぜ、あなたを取材したいのか」を説明。その人の所属や肩書ではなく、その人個人の想いや活動に共感したことを強調しました。相手が話しやすい雰囲気づくりとして、取材対象と関係性を築いている職員に同席してもらい、こちらの聞きたいことを一方的に聞くのではなく、相手が話したいことを存分に話してもらうことを重視しました(時には4時間におよぶ取材も!)。

子ども食堂を取材する際は、朝の仕込みの時間帯からお邪魔して1日過ごすなど、できる限り相手と同じ時間を共有。紙面に載せる見出しやタイトルは、皆さんの希望を可能な限り採用し、まとめの文章も入稿直前まで納得がいくまでやり取りを重ね、出来上がると一番にお届けに伺いました。その結果、紙面に登場した居場所に多くの人が足を運び、Facebookでは通常の6倍の閲覧数を記録。取材した皆さんにも読者から応援の言葉が届けられ、喜びのお電話もいただきました。

発行後も皆さんとつながり続け、「こんな活動もやってるよ」と教えてもらえれば取材や顔を出すなどし、とにかく接点を絶やさないことを心掛けました。この積み重ねがあったからこそ、広報コンクールの受賞の喜びも共有できたのだと思います。

取材した皆さんも、さまざまな場面で北本の広報を宣伝してくださるようになりました。現場で会えば、地域で面白いことをしている人たちにつなげてくださったり、特集の相談をすれば関係者を紹介してくださったり。このつながりが広がったことで、長年着手できなかった「障がい」にスポットを当て、当事者やその家族を取材した特集の掲載も実現しました。

イメージ 「障がい」にスポットを当て、当事者やその家族を取材した特集の掲載ページ

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

苦労しているのが、限られた人員・予算で広報紙、各種SNS、HPなどのメディアを運営していかなければならないこと。北本市の広報専任職員は2人ですが、広報紙を完全内製化しており、業務の大部分のウェイトを占めていることから、SNSやHPなどにかけるリソースが少なくなっていることに悩んでいました。

そこで、全国広報コンクールで受賞、入選経験の豊富な広報紙を作りながら、SNSでも効果的な情報発信を行う茨城県ひたちなか市さんを参考とすることに。広報紙への動線として各SNSを位置づけ、一回の取材で広報紙・SNSに展開する方向での運用を始めています。リプライやトレンドに乗った投稿なども行い、フォロワーの皆さんとコミュニケーションを重ねて信頼関係構築につなげていくのが最終目標。広報紙でも、SNSでも、目指すところは同じなのです。

イメージ SNS投稿画面

自治体広報としてのやりがいは、ほかのメディアでは取材できないような人や活動に光を当てられること。障がいのあるお子さんを持つママたちや、北本に自分の居場所を見つけられず悩んでいた人、先輩たちの伝統を受け継ぐお囃子の名人、40年近く統計調査員として北本を見守り続けた人など、市井の人たち一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、それにこたえることができるのが大きな強みだと思います。

イメージ 市民の方へのインタビューページ

「まさか自分が取材されるなんて」と遠慮がちに話していた市民の方が、広報紙の反響を通じて新聞社から取材を受けて前向きに話しておられる姿を見たときは、これ以上に嬉しいことは無いなと思いました。

小さな声に耳を傾け、世に送り出す最初のきっかけになり得るのが、わたしたち、まちの広報担当者。そこに誇りを持って、これからも新しい出会いとつながりを求めて現場に出続けていきたいと思います。

【次回のコラムの担当は?】
ひたちなか市企画部市長公室広報広聴課の米川裕太郎さんです。

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