カンヌライオンズ2024で感じた既視感 正体は「ミーム化」?

ミーム化するカンヌライオンズ

「ミーム」とは、「ネットを通じて面白い映像や画像が広がっていく」ことを意味するワード。いまやSNSインフルエンサーやYouTuberの鉄則は、オリジナルをつくることよりも流行っていることを真似ること。

バズった動画と同じものをみんなが真似しあうことを「ミーム化」と呼び、誰かが生み出した面白いネタはすぐに真似され、改良され、世界中で共有される。私たちはもはや「元ネタ」を知らないことも多い。

近年のカンヌでも、受賞作(というか応募用のアワードムービー)が、課題の設定や、アイデアのギミックも展開方法も、ビデオの見せ方もとても上手に分かりやすくつくられていたのだが、今年はその集約と学習、模倣までが世界規模で加速していることを強く感じました。

背景にあるのは、
「わたしたちが常日頃見て、笑って、考えて、悩む、社会的イシューや表現方法が、SNSを通じて全世界で均一化してきている」ということだと思います。世界で同じようなものを見て、いいね! やハートを押しているうちにどんどん感覚が近くなってきている。だから社会の見方や課題の捉え方がみな似ていて「わかりやすい」ものとなった。

最近は広告会社内で企画を持ち寄る際も「これSNSで話題になっていたんですけど」と国を越えたネタや過去の作品をみなで共有し、プレゼンの場でも「他社でもこういう成功事例(リファレンス)があるから大丈夫です」と通しやすくすることが増えている気がする。 なんなら広告主の担当者の方から「このネタで」と依頼があるケースもあると聞く。

応募時に説明用に添付するアワードムービーにおいても、広告会社内での成功ケースのシェアが進み、「1分25秒あたりでAIを使ったシーンをいれておこうか」「ナレーションをアナウンサー風にしてパブリシティを獲得した感じにしておこう」など、過去の受賞作のアワードムービーをオマージュした仕上げも多く見られた。

要するに、我々人間がSNSを通じて繋がり、そこからAIのように学習しすぎたことで、全世界的にわかりやす〜い土台ができていたのが今年のカンヌだった(気がする)。

※誤解無きように言うと、表現が類似しているとかではありません。デコン(分解)したときの組み立て方が類似しているという意味です。

「異常値」をつくろう

では、世界中の人が似たようなものを見て企画する時代に、受賞した作品は何が違ったのか?
 
 
ヒントになりそうなものは3つある。

  • 1、真似できない狂気(愛)でやりきる(Madness or Love)
  • 2、真似できない規模でやりきる(Execution)
  • 3、「ブランドならでは」を見つけ、続ける(Branding)

今回は、1の「真似できない狂気(愛)でやりきる(Madness or Love)」について事例と共に紹介する。

1、真似できない狂気(愛)でやりきる(Madness or Love)
「普通そこまでやらないでしょ」、を徹底的にやりきること。
ブランドとして勇気をもって踏み込み、過剰で、やり過ぎなところまで行うこと。

たとえば、今年グランプリ1つ(Social & Influencer)、ゴールド3つ(Health & Wellness、Media、Social & Influencer)、と大暴れした、スキンケアブランド「Cerave(セラヴィ)」の施策「Michael CeraVe」。

Cerave「Michael CeraVe」。Social & Influencer部門グランプリ、Health & Wellness、Media、Social & Influencer部門でゴールドを受賞。

インフルエンサーなどに働きかけ、「実はCeraveを開発したのは俳優のMichael Ceraだった」という陰謀論を流布。1カ月かけて真偽についてネット上で意見が白熱する中、米国中の注目が集まるスーパーボウルのCMでその説を否定。「Ceraveは皮膚科医と共に開発してきた(信頼のおける)ブランド」だと印象付けた。

安全と品質が第一の基礎化粧品カテゴリーで、ネットにおける陰謀論文化をうまく活用し、インフルエンサーを絡めてスーパーボウルでCMを出稿する大胆さは言うまでもないが、エージェンシーとブランドが4週間ずっと情報をコントロールしていたという気合いや緻密さにも驚かされた(チタニウム部門の現地プレゼンでもそう言っていた)。
 
 
また、「ハイネケン」の受賞シリーズにあるように、特定のものへの愛(ハイネケンだとパブとサッカー)を貫き、徹底的にやり切ることで、誰にも真似できないマーケティングを生み出している。イギリスの老舗パブを守るために、パブを美術館として登録することをサポートして、税金面でのケアを行った「Pub Museums」や、

ハイネケン「Pub Museums」。Creative B2B ・Direct 部門ゴールド、Brand Experience & Activation部門・Outdoor部門ゴールド・シルバー、Audio & Radio部門シルバー受賞。

女子サッカーの視聴数アップのため、OOHのデジタルサイネージで試合を放映した「Out of Home Matches」などがわかりやすい事例だ。

ハイネケン「Out of Home Matches」。Media部門シルバー受賞。

長くなってしまいましたが、前篇は以上です。

「コスパ(効率)」の対極にある考えは「愛と狂気」だと思う。過剰にやる、無駄を恐れない、その姿勢が他のブランドが真似できない何かをつくり出し、結果として一番効果を生み出すのかもしれない。

〈後篇に続く〉

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