参考記事
フランス・カンヌで開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2024」。4日目にはBrand Experience & Activation 部門、今年新設されたLuxury & Lifestyle部門、Innovation部門、Creative Effectiveness部門、Creative Strategy部門、Creative Business Transformation部門、Creative Commerce部門が発表された。各賞のグランプリ作品を紹介する。
Brand Experience & Activation 部門(応募数2262点)
Pop-Tarts「The First Edible Mascot」
(Weber Shandwick)
「ポップタルト」は薄いタルト生地に甘いフィリングが挟まれたお菓子で、アメリカでは“朝ごはんの定番”として知られてきた。若い世代にもブランドへの愛着を高めてもらうために、今度は“お菓子の定番”を目指すことに。
そこで、米国中の注目が集まる大学アメリカンフットボールの大会「カレッジフットボール」にスポンサード。プロモーションの常套手段は試合会場にブランドキャラクターの着ぐるみ(マスコット)が登場して試合を盛り上げることだが、60年の歴史を持つクラシックなポップタルトは、それだけでは目立てないと考えた。
そこで2023年末に開催されたブランド名を冠す大会「ポップ・タルト・ボウル」で登場したのが「食用マスコット」。「ストロベリー」と名付けられたそのマスコットは、試合中はディスコ調の音楽に合わせて踊ったり会場で自由にはしゃいだりと観客を大いに盛り上げたのち、勝敗の決定後には自ら巨大トースターに滑り込んだ。
「夢は本当に叶う」という看板を掲げて自らを犠牲にした彼は、勝利チームの景品として、トースターの下部から実際に食べられる「ポップタルト」として登場。身を挺して勝利したチームを祝福する姿はネット上で拡散され、大幅なインプレッションや売上の増加に繋がった。
Luxury & Lifestyle部門※新設(応募数188点)
LOEWE「LOEWE x Suna Fujita」
(LOEWE)
今年から新設されたLuxury & Lifestyle部門の初のグランプリは、ロエベによる「LOEWE x Suna Fujita」が受賞に至った。
ロエベと京都に拠点を置く夫婦の工芸家ユニット スナ・フジタのコラボレーションアイテムの発売に伴うキャンペーン。鍵となる5つの陶器の世界観を服や小物に落とし込んでいった。ストップモーションムービーを制作したほか、パッケージやポップアップストア、OOHなどにも展開。伝統的な職人技と現代的なデザインを融合させると共に、文化の持続性にも寄与した点が評価された。
Innovation部門(応募数231点)
KVI Brave Fund 「Voice 2 Diabetes」
(Klick Health)
インドは世界で2番目に糖尿病患者が多い国だが、患者の半分以上は、距離やコスト、リソース不足などの理由から血液検査が受けられず、正式な診断がされないままの状態であるという。
「Voice 2 Diabetes」はそうした課題に対して開発された、音声データを元にAIを活用して二型糖尿病を診断できるツール。患者の声には、人の耳には感知できないような微妙な変化があり、それを検出して診断することが可能だという。インドのMayo病院で267人の患者の協力を得て1万8465の音声が分析され、ピッチや強弱の変化などの特徴など、14の特徴を特定した。女性では89%、男性では86%の精度で二型糖尿病患者を特定できる。
実際に病院とパートナーシップを組み、実用化への模索が進んでいる。より精度が高まり世界中で導入されれば、約330億ドルのコストをカットできる可能性もあるという。
Creative Effectiveness部門(応募数306点)
Heinz Ketchup「It Has To Be Heinz」
(Rethink)
5年にわたって続けられてきた、トマトケチャップブランド「ハインツ」の「It Has To Be Heinz」シリーズが受賞に至った。
2020年にはコロナ下の在宅期間を楽しんでもらうために、一面赤色の570ピースのパズルを販売したり、
2021年には「ケチャップと言えばHEINZだ」と証明するために5つの国の人々に「ケチャップを描いてください」と依頼し、ほとんどの人がハインツのケチャップに酷似した絵を描いたことから、その絵自体を広告展開したり、
2022年には「AIでさえ、ケチャップと言えばハインツであることを知っている」ということを証明するために、消費者にAIを用いて「ケチャップ」の画像を生成し投稿するよう、SNSなどで消費者に呼びかけたり……。
参考記事
一連の取り組みを経て、ハインツはこの5年間で米国での小売売上を50%近く伸ばし、2023年の売上は8億5100万ドルに達したという。
Creative Strategy部門(応募数814点)
KPN「A Piece of Me」
(Dentsu Creative)
昨今若者にとって、スマホなどで性的なメッセージのやりとりをする行為は珍しくない。ただ、限られた相手にのみ送っていたはずのものを、受け取り手が誰かに転送したりすることで、ネット上で大勢の目に晒されてしまうという危険性もはらんでいる。そしてその被害者は、心を病んでしまうことも少なくない。
オランダの大手通信会社KPNは、そうした被害者の行動を責めるのではなく、転送をしたいわば加害者側の行動を変えるきっかけをつくるために、オランダの人気歌手MEAUを起用して楽曲『A Piece of Me』とミュージックビデオを制作した。そこで描かれるのは、とあるカップルの男性が、彼女が送ったプライベートな写真を転送してしまうことで、彼女の人生が崩壊してしまうという悲劇的なストーリー。
実際のミュージックビデオ。
ミュージックビデオはYouTubeの音楽トレンドで2位になったほか、オランダのSpotifyでランキングのトップ3 に。楽曲的な成功だけでなく、MVが学校で教材として使われるなど、社会課題としての問題提起に繋がった。
Creative Business Transformation部門(応募数271点)
Phillips「Refurb」
(LePub)
フィリップスによる再生(Refurb)製品の認知向上と普及を目的としたキャンペーン。
ECで購入したものを返品するのが容易になった昨今、ECにおける返品物の廃棄量は大幅に増えている。返品されたものを再度検品、包装、再送するよりも、新品を送ってしまった方がコストがかからないからだ。
「新品=良いもの」という固定観念を覆し、「(再生商品は)新品より良い」というイメージを打ち出すべく、フィリップスは返品後に検品されたRefurb商品のみを扱う自社ECサイトを立ち上げた。
そのプロモーションとして、イタリア発のアート雑誌『TOILETPAPER』とコラボレーションし、返品された商品の山を映し出すARフィルターを制作。そこからフィリップスのECサイトに誘導し、再生商品の購入を促した。
取り組みにより、5万2000点の再生商品が売れ、推定185トンの廃棄物を減らせたという。
Creative Commerce部門(応募数551点)
Renault「Renault – Cars To Work」
(Publicis Conseil)
フランスでは国民の40%が、公共交通機関のないエリアに住んでいるとされる。そうしたエリアに住む人々が仕事に就くためには車が不可欠だが、そもそも車を買うためのお金が用意できず、職に就けないという堂々巡りの状況になってしまう場合があった。さらにフランスでは就職にあたって3カ月の仮雇用期間があり、その期間はいつでも解雇される可能性があるうえに、銀行のローンも使えない。
そこでルノーは求職者の就職を支援するためのプログラム「Cars To Work」を立ち上げた。3カ月の仮雇用期間に車を無料で提供するサービスで、支払いは実際に就職が確定して余裕が生まれてからで問題ない。フランスの公共職業安定所とも連携し、国内の50のルノーのディーラーでサービスを提供し、初年度は6000台が提供された。