すべてを任せるのではなく、AIと自分のアイデア出し合戦を楽しむ時代に

本コラムでは、さまざまな領域の方にAIの活用について聞いていきます。対談の3回目はヘーベルハウス、トヨタ自動車「こども店長」、ENEOS「エネゴリくん」などのクリエイティブディレクター・コピーライターとして知られる石川英嗣さんにインタビューしました。
 
聞き手:石川隆一(電通デジタル)
写真 人物 集合 石川英嗣氏(左)と石川隆一氏(右)

石川英嗣氏(左)と石川隆一氏(右)

広告制作のプロセスにおいて、AIをどこでどう使うか

石川隆一(以下 隆一):今日はクリエイターとして大先輩であり、僕の父であるコピーライターの石川英嗣に来てもらいました。

石川英嗣(以下 英嗣):親子ではあるのですが、普段からほぼ仕事の話しかしておらず…今日もその延長線のような感じかな、と。

隆一:せっかくなので、今日の対談にタイトルをつけるとどうなるのか、Chat GPTに書いてもらったものを持ってきました。

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英嗣:いや、ChatGPTはかなり大それたことを言っているな…。

隆一:こういうつくり方も含めて、今日はいろいろと話ができたらいいなと思っています。ちなみにAIについて、どんな印象を持っていますか。

英嗣:最近、AIでコピーを書くという話を聞きますが、僕は基本的に否定する気持ちはないんです。時代に抗っても仕方がないというか(笑)。自分の身近に生成AIというものがあって、それがコピーをつくる上で役立ちそうだということであれば、それを活用するのはごく自然な流れじゃないかなと思っています。個人的には興味があるけれど、自分自身がコピーを書く際にそのニーズはいまのところ感じていません。

隆一:今年の宣伝会議賞にAIでつくったコピーを応募したチームがいるのですが、そのコピーを見たCDは「結構いいかもしれない」と言っていました。残念ながら、入賞はしなかったけれど。

英嗣:僕は詳しくはわかっていないけれど、AIが質の高いコピーを生み出せるのか、と言うのは少し疑問に感じています。というのも、チェスや将棋のようにコピーを書くことにはルールや法則性があるわけではない。それぞれのコピーライターが長い経験の中で身に付けてきた技や知見から出てくるものなので、それは「こういうルールで」と言葉で説明できるものではない、つまりファジーな世界のものだと思います。だから、AIは何を学習し、判断して、そのコピーを生み出しているのか。そのプロセスがまったく想像できないんです。そういう部分で、逆にすごく興味があるんですけどね。

隆一:いまの生成AIは点と点で学習させているわけではなくて、世の中のあらゆるものを学習した上で、全部がつながっている。それゆえに、人間の思考プロセスに近いと感じることも多々あります。指示の出し方次第では、いいところを出してきてくれる。

前の対談でも話しましたが、海外のアート系コンテストではAIがつくったことを隠して出品したら入賞した、なんてことも起きています。人間がつくるものより、AIがつくるものの方がいいと思ってしまった人が少なからずいた、ということですよね。

僕は一時期、ブレスト相手としてAIを活用していたのですが、それを続けているうちに、自分自身で思考する時間が極端に少なくなったように感じてしまったんです。つくり手として大事にするべき思考の時間が減ってしまうのは、いいことなのか、悪いことなのか。逆に言えば、効率化が図れたとも言える。AIを活用する上で、いまそういうところが気になっています。

英嗣:コピーをつくるというプロセスの初期段階では、質よりアイデアの切り口が求められます。その段階では、アイデア一つひとつを吟味するというよりも、いかに多くの切り口を出せるかが大事になってくる。AIは量産することが得意なのだから、その部分でブレスト相手として使うのはいいかもしれません。ただしAIにすべてを任せるんじゃなくて、自分でも同時並行で考える。AIとのアイデア出し合戦を楽しむ時間にすればいいんじゃないかと思いました。確かに深く考える時間は減るかもしれないけれど、逆にいい意味で競い合うことで幅が広がることのほうにメリットがあるような気がします。

でも、それで宣伝会議賞を受賞してしまったら、AIがどういうコピーの勉強をしたのか、すごい気になりますね…。

写真 人物 個人 石川英嗣

隆一:コピーライターであれば、新人よりもやはりある程度キャリアがある人がAIを使ったほうが、よりポジティブに活用できるんじゃないかと思っています。思考力もあるし、よしあしの判断基準もできる人にとっては、競い合いもうまくいくかもしれない。でも逆に新人は最初からその環境に慣れてしまうと、コピーライターとしてちゃんと育つのかなと心配になります。若手のうちからAIに頼りすぎてしまうと、確実にクリエイティブ力が退化していきそうだし、自分の身に付くものが少なくなりそうな気がしています。それは広告業界のクリエイティブとして本当にいいことなのか、どうか。

英嗣:AIの活用によって、人間の能力が下がるかもしれないという懸念。それは今後活用していく中で、絶対に忘れてはいけないことだと思います。

AIを使ってコピーを量産できたとしても、次は有象無象の中からピックアップして、実際に使えるのか使えないのかを判断していくプロセスになる。コピーライターであればコピーを書くだけではなく、そこからヒントを得たり、選び出す能力は絶対に必要になってきます。僕らの世代はコピー年鑑を読んだり、100本ノックをやることで、AIに近いことをやってきたわけです。まさに「昭和!」の時代のやり方だと思うけど。

でも、一人でコピーを何百本も出すのは、本当につらい作業なんです(笑)。例えばある商品のコピーをつくるとなったときに、最初は商品特性から入って、どうすれば魅力的に伝えられるかを考え始める。それから、言葉遊びでバリエーションをつくったとしても、20本くらいで行き詰り、新しい切り口や視点を探し始める。例えばそれを使う人がどういうシチュエーションにいるのか、使うときにどういう気持ちのなるのかと想像して書いたりするわけですが、それもせいぜい20~30本で終わってしまう。じゃあターゲットを広げようと、次は社会の中でその商品はどういう位置づけにあるのかと考えだしたとしても、全部で50~60本程度。そうなると、あとはもうまったく違うところから考えるしかなくなってくるわけです。「江戸時代の人がその商品を使ったら」みたいな奇想天外な方向で。そうやって1人でコピーを大量に書くのはかなりしんどい作業なんです。でも、それは若手コピーライターにとってはトレーニングになるし、後々振り返ってみると、それは自分にとって役立つものになる。

というのも、自分自身がやったことは自分の中に蓄積するから、別の仕事にとりかかったとき、「あ、これはあの切り口でいけるかもしれない」とパッとひらめいたり。行き詰ったときに打開するようなアイデアが見えてきたりするんです。コピー100本ノックという体験は、今振り返っても無駄ではなかった。AIがコピーを出してくれる時代になったとしても、若手は100本ノック的なことをはやはりAIの活用と同時にやった方がいいような気がするんです。

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石川隆一
石川隆一

2018年電通デジタルに中途入社。音楽大学卒業後、レコード会社勤務を経て、AIエンジニア/プランナーとして入社。データ分析、画像処理、自然言語処理などにおけるAIのクリエイティブ応用を研究している。日本に200人しかいないkaggle Masterの一人。

石川隆一

2018年電通デジタルに中途入社。音楽大学卒業後、レコード会社勤務を経て、AIエンジニア/プランナーとして入社。データ分析、画像処理、自然言語処理などにおけるAIのクリエイティブ応用を研究している。日本に200人しかいないkaggle Masterの一人。

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