自分が感動したコピーを書いたのがAIだったら?
英嗣:岸田総理やテイラー・スイフトのフェイク画像が出たり、著作権の問題だったり。新しい技術の登場時にはどうしても通らざるを得ない関門も出てきていますね。自分ではそこについてはまだあまり想像ができないんだけれど。
隆一:いずれはコピーライターも含めてさまざまなクリエイターの権利を守る方向になっていくのではないかと思っています。
英嗣:どこから著作権に抵触するのかという話は難しいところですね。
僕らが若い頃、カンヌライオンズで話題になった広告は何度も見て研究していたわけですが。テレビを見ていると、あれ、どこかで見たことがあるようなCMが流れている、なんてこともありました。「似ているかもしれない」という懸念は僕らが持っているだけで、テレビを見ている人は誰も気づきはしない。さらに言えば、海外のCMを見て勉強したものが自分の中で消化されて、あらためて出てきたものだから別もの、という考え方もある。
おそらく僕らコピーライターも、コピー年鑑を見て、好きな人のコピーを写経したりしているうちに、自分が意識しないところで何かそれに近いものを書いていたのかもしれないわけだし。そこについては何とも判断が難しいところです。
隆一:僕も海外の広告賞はかなりの量をチェックしています。そういうプロセスを経ているから絶対に影響を受けているし、もしかすると似たアイデエーションが出てしまうこともあると思います。一方でAIの生成は、その労力、努力のようなものが一切無くて、いきなり結果がポンっと出てきてしまうのは、やっている人からするとモヤモヤするし、不思議な感覚ではありますね。
英嗣:人間じゃなくて機械だから、違和感があるのかな。実際にクリエイティブの現場では、生成AIをもうかなり使っているんですか?
隆一:上の世代の方は人によると思いますが、若手は結構使っているかもしれません。コピーをつくるということだけではなくて、例えば文章の添削もできるので、それによって工数削減につなげたり。僕は文章力がないので、自分で添削するより、ChatGPTに添削してもらったほうが圧倒的にいいし、そういう点では効率化が図れた部分もあると思います。
英嗣:コピーライターは若干左右されそうですが、CDはAIにはあまり左右されない気がします。そのクリエイティブを本当に世の中に出してよいのか、本当に効果があるのか、それをジャッジするのは、現状のAIにはまだ難しいのでは。
隆一:確かにCDは自分が書くというより、判断することが大きな仕事ですしね。
デジタル広告は何回クリックされたかとか、数字が明確に出てしまうので、大量につくってもらうことの効率化を図るのはいいと思うのだけれど。例えばカンヌライオンズの受賞作品を全部学習させて、その最適解をAIが出し始めるようになったら、クリエイティブって何なの?ということになってしまいそう。
英嗣:人間はどうしても楽な方を選ぼうとするからね。そこに頼るようになると、成長は止まってしまいますよね。
隆一:実際に広告でも、ビジネスでも、いろいろなかたちでAIが使われ始めているので、2024年はもっといろんなクリエイティブが出てきそうな気がします。
でも、いいコピーだなと思って、誰が書いたんだろうと調べてみたらAIだった…となったら、ちょっと悲しくなるかもしれないです(笑)。自分が感動したものをつくったのがAIだったら……それが悲しい気持ちになるのか、驚きなのか、実際にどんな気持ちになるのか、まだ想像しきれていませんが。
英嗣:もしかすると、それは新しい体験になるかもしれませんね。