文:井口理(電通PRコンサルティング 執行役員&チーフPRプランナー)
毎年6月に開催される世界最大級のクリエイティブアワード「カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル」、今年はいろいろと話題も目白押しだった。昨年、広告業界に暴言を吐いて半ば決裂状態であったXのイーロン・マスクが登壇したり、また目前のパリオリンピック関連でちょうどカンヌを聖火リレーが通過したり。一方、昨年激しかった環境保護団体の活動は息を潜め、またプライド月間にも関わらずあまりLGBTQ+系の盛り上がりも感じられなかった。とはいえ、コロナ禍が明けての2年目となる今年のカンヌライオンズの参加者の熱気は例年を超えて激しく、各セミナー、授賞式も大行列の様相だった。
パリオリンピックの聖火リレーのランナーも登場。
今年2024年の総エントリー数は2万6753件で、昨年の2万6992件からわずかに減少したが、コスタリカからのエントリーが3倍に増えるなど中南米からの応募が大幅に伸びたようだ。個人的にはブラジル勢のエントリーに勢いを感じたが、実際に彼らはよい成績を残している。そんなラテン気質が今年のカンヌライオンズをさらに熱く盛り上げているのかもしれない。
また今年は全30部門の半数近くで、「ユーモアの活用」というサブカテゴリーが新設されているのもおもしろい。昨年のAI祭りからさらなるデジタル系での躍進が続くかとも思っていたが、その揺り戻しなのか「ヒューマニティ」といった言葉をそこかしこで聞くこととなった。そんな関連で人間的な温かみを感じさせる「ユーモア」といった視点が付加されたのだろうか。審査後の審査員談でもユーモアを使うことの効果と、その反面としてのリスクやそれを背負う覚悟が必要だといった話が頻繁に出ていた。
先に出版した書籍『世界を変えたクリエイティブ 51のアイデアと戦略』ではコミュニケーションのエッセンスを9つの視点で分類、解説しているが、早速今年の受賞エントリーもこれらの視点に当てはめて紹介してみたい。まずは先の「ユーモア」が最大限活かされた事例、私の主戦場であるPR部門でのグランプリともなっている「The Misheard Version」だ。