カンヌライオンズ2024、ユーモア、ヒューマニティ、そして地域文化の理解と尊重へ(前編)

2 REMEMBRANCE 「追憶」

Callen-Lorde、Metropolitan Transportation Authority、NYC LGBT Historic Sites Project「In Transit」(Area 23)

日常に溶け込んだお馴染みのものが突然違うものに置き変わっていたら、みなどう感じるだろうか。自身の記憶を辿り、以前のものがどんなものだったか考え込んでしまうのではないか。そんな普段は気にもしない当たり前にスパイスを加え、深く考えさせるきっかけを与えたのが「トランスジェンダー可視化の日」に行われた「In Transit」キャンペーンだ。

写真 グラフィック Callen-Lorde、Metropolitan Transportation Authority、NYC LGBT Historic Sites Project「In Transit」(Area 23)

ニューヨークは多様性と進歩性で知られる世界的な文化の中心地だが、トランスジェンダーの人々は地下鉄などの公共スペースを移動する際に不安や心配に直面することがある。なぜなら地下鉄は多様性のるつぼであると同時に、差別や嫌がらせが起きやすい場でもあるからだ。毎日、地下鉄を利用する乗客にとって、トランスジェンダーが乗っていることは日常生活の一部であり、当たり前のこととして感じてもらいたいという課題があった。

一方、研究によると、トランスジェンダーの人を個人的に知っている人は、その人々全般を受け入れ、支援する傾向が高いという。そこで起用されたのが、最近トランスジェンダーとしてカミングアウトしたバーニー・ワーゲンブラスト氏だった。実は彼は20年前にニューヨークの地下鉄の音声案内を吹き込んだ人であり、地下鉄利用者なら誰もがその特徴ある声を知っている、言わばみんなの共通の知人のような存在というわけだ。

そして3 月 31 日のトランスジェンダー可視化の日を挟んだ 1 週間、地下鉄では以前の彼のアナウンスとトランスジェンダー女性として新たなアイデンティティを得た彼女の声の両方を使い、地下鉄のアナウンス、また彼女の性転換についての個人的なメッセージが至るところで流された。これにより通勤者全員にとって、毎日耳にするバーニー氏の声の親しみやすさは、トランスジェンダーに対する共感と理解を育むきっかけとなった。

このキャンペーンは、メトロポリタン交通局(MTA)、Callen-Lorde(ニューヨークの代表的なLGBTQ+ヘルスケア組織であり、トランスジェンダー医療サービスの最大手プロバイダー)、およびNYC LGBT Historic Sites Project(ニューヨークのLGBTQ+の歴史と歴史的場所を記録している非営利団体)と共同で実施されている。

Heinz Ketchup「Heinz AI Ketchup」(Rethink)

AI絡みのセッションは少なくなったものの、各エントリーにおいてはすでにAIを組み込んだ施策も多く、またその使い方もバラエティに富んでいた。ハインツが毎年行う「ケチャップと言えば…」という人々の第一想起にあがるポジショニングをアピールするシリーズでは、昨年はいろいろな人にケチャップを絵に描いてもらいそれを集めて提示していたが、今回は同様の仕掛けをAIを相手に実験している。そして「人々の記憶」だけでなく、「AIの第一想起」でも「ケチャップはハインツ」なのだと証明しているのだ。

実際の内容はとてもシンプルで、AIイラストツールの代表格であるDALL-E 2で「ケチャップ」と入力すると、生成されるその画像は例のハインツのボトルとなっているというもの。「ルネッサンスケチャップ」とか「ストリートアートケチャップ」とか少し修飾語を足してもたいていがあのボトル、あのラベルを描き出してくる。すなわちAIの理解でも「ケチャップと言えばハインツ」なのだという主張だ。そしてそこに描き出されたイラストをOOHなどの広告素材として展開していく。そのキャッチコピーは、「This is What Ketchup Looks Like to AI(これがAIが考えつくケチャップの姿です)」。単純だが、「なるほど」と思わせるアイデアである。

実データ グラフィック Heinz Ketchup「Heinz AI Ketchup」(Rethink)

同じくAI活用の事例だが、有用な使い方の一方でAIが引き起こす不具合について警鐘をならし、その対処に取り組む案件もあった。それが毎年、女性の美のあり方を問うDoveの最新キャンペーン、「The Dove Code」だ。

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