カンヌライオンズ2024、ユーモア、ヒューマニティ、そして地域文化の理解と尊重へ(前編)

4 TRUTH 「真実」

UN Women 「Child Wedding Cards」(Impact BBDO)

「真実」はそれそのものだけでは意味をなさず、それに対する評価があってこそ成り立つ。それが良き真実なのか、それとも悪しき真実なのか。「Child Wedding Cards」は真実がそこにありながらも、ただの真実として放置されていた問題を可視化、顕在化させ議論のきっかけを生み出した事例だ。

写真 UN Women 「Child Wedding Cards」(Impact BBDO)

パキスタンは18歳未満で結婚する少女が世界で6番目に多い国だという。幼い少女が半ば強制的に結婚させられてしまうというのがパキスタンの状況であり、ユニセフによると約1900万人の児童婚の少女がおり、国連児童基金は約460万人が15歳未満で結婚し、1890万人が18歳未満で結婚したと推定している。実は児童婚は女性の健康に非常に有害であり、妊娠や出産から生じる合併症は15~19歳の少女の主な死亡原因の一つともなっている。すなわち児童婚を減らすことは、何百万人もの少女や女性、そしてその子供たちの健康を守ることにもつながるのだ。

女性の地位向上を目的とする国連の組織UN Womenはこの状況を知らしめ、その問題について議論を巻き起こすべく動いた。それは実際に5歳から15歳の少女たちに結婚式の招待状を手書きで作ってもらい、それを国会議員や有力な指導者へ送りつけるというもの。パキスタン特有の文化的側面として、ゲストを招待するウェディングカードは直接手渡すことになっており、また招待状を受け取らないことは失礼なこととしてみなされるため、この受け取りは拒否できないというのが戦略だ。悪しき習慣とその状況を聞いてはいるものの、実感できていなかった人々に、実際に婚姻させられる少女たちの手書きの招待状という形で強烈なインパクトを作りだしたわけだ。

この招待状を受け取った国会議員たちはほぼ即座に反応し、結婚式の招待状を手に声明を発表、他の議員たちにも児童婚反対の闘いに加わるよう呼びかけた。数十人の議員が運動に加わり、実際の国会のセッションでも結婚可能な最低年齢を18歳に引き上げる法律を制定するよう要求した。これにより、児童婚の問題をめぐる議論が社会やテレビで活発化、慣習法を施行する国内最高宗教裁判所である連邦イスラム裁判所は、イスラム教における結婚最低年齢を18歳とする画期的な法令を発表することとなった。

後編に続く

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