企業広報の戦い方を左右する「3つの風」の読み方~広報は桶屋であれ

「向かい風」の戦い方:V字回復のストーリーを描こう

逆に「追い風」の真逆である「向かい風」のときはどうでしょうか。

「向かい風」とは、一時期業績が良くて注目された会社、あるいは業界が、市場・競争環境の変化や、インシデントなどの影響により一転して業績悪化の一途を辿ったり、業界全体に対してネガティブな印象を持たれて消費者の支持を失い成長が鈍化してしまったりするケースなどがこれに該当します。

一見すると広報的にはやりづらいように見えますが、良くも悪くも脚光を浴びた会社が、一旦沈んで、そこから再浮上していく、というV字回復のターンアラウンド(事業再生)ストーリーはメディアや世間の関心を集めやすいものであります。

前提として「過去に急成長して話題になった会社」という共通認識があるからこそ取れるアプローチではありますが、これを逆手に取って、その復活劇を「追い風」に転換させていく、というものです。

代表的な例としては、期限切れ鶏肉の使用問題や食品への異物混入などのイシューにより業績悪化した日本マクドナルドの復活劇などはその典型でしょう。

もちろん業績のV字回復にあたっては、人件費を含めたコストの見直しや商品・サービス改善など、広報だけでなく全社一丸となって取り組むべき問題であり、時間軸の長い話ではあります。

しかしながら、広報として業績回復に向けたトライアンドエラーを含め、そのプロセスを継続的に情報提供・情報開示していくことにより、メディアや消費者はもちろん、ステークホルダーからの共感を得る機会にしていくことは有効なアプローチではないかと思います。

逆に、「向かい風」の状態から、業績回復に向けた「次の一手」が打ち出せないと、いつの間にか世間からは忘れ去られ、”過ぎ去りしブーム”として「オワコン」(終わったコンテンツ)化の一途を辿ることになるので、こういうときこそ社内外に対して改革のスタンスを示すよう広報から積極的に経営陣に働きかけることも大事です。

また、先に挙げた暗号資産の例のように、業界全体に対する信頼が揺らいでいる場合においては、個社での対応だけでなく、業界団体などを通じ信用回復に向けて業界一体となって自主ルールを策定する、啓発活動に取り組むといったアプローチも必要かもしれません。

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矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)
矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)

早稲田大学卒業後、ネットベンチャー立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINE株式会社)入社。検索サービス「NAVER」・コミュニケーションアプリ「LINE」の広報・マーケティングを統括。2017年10月にメルカリに転職。グループ広報責任者として現金出品問題などのリスク対応や東証マザーズ上場、新規事業立ち上げ、大型業務提携/M&Aなどの広報を統括。2023年3月末にメルカリを退社し、7月に独立し戦略広報マネジメントに特化したPRコンサルティング会社「はね」を設立。

矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)

早稲田大学卒業後、ネットベンチャー立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINE株式会社)入社。検索サービス「NAVER」・コミュニケーションアプリ「LINE」の広報・マーケティングを統括。2017年10月にメルカリに転職。グループ広報責任者として現金出品問題などのリスク対応や東証マザーズ上場、新規事業立ち上げ、大型業務提携/M&Aなどの広報を統括。2023年3月末にメルカリを退社し、7月に独立し戦略広報マネジメントに特化したPRコンサルティング会社「はね」を設立。

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