カンヌライオンズ2024、ユーモア、ヒューマニティ、そして地域文化の理解と尊重へ(後編)

6 ARTIFICE 「技巧」

Frankfurter Allgemeine Zeitung「The 100th Edition」(Scholz & Friends)

伝えたいことをいかにストレートに、インパクト強く残せるか。情報氾濫の時代のコミュニケーションではデコラティブでなくシンプルなほどメッセージ性は強くなるのかも知れない。ドイツの新聞「Frankfurter Allgemeine」が定期的に行っている自社広告“Brilliant Minds(偉大な思考)”の記念すべき100回目のクリエイティブ「The 100th Edition」はまさにそれを体現しているのではなかろうか。

同紙はこれまで、さまざまな著名人が同紙を読み込んでいる様子を写真で切り取り、自社紙面に掲載してきた。そこに登場するのはアカデミー賞受賞俳優や政治家、実業家など多岐に渡るが、その記念すべき100回目に登場したのは、102歳のマルゴット・フリードレンダーという一般女性である。実はフリードレンダー氏は、今ではドイツ国内に数えるほどしかいないホロコーストの生き残りであり、彼女の人生観や言葉を後世に残すべく100人目に選ばれたのだ。

イメージ グラフィック Frankfurter Allgemeine Zeitung「The 100th Edition」(Scholz & Friends)

写真の撮影はベルリン市内にあるホロコーストメモリアルで行われ、アウシュヴィッツが解放された1月24日に公開された。同社の「その背後には必ず素晴らしい頭脳がある」という主張を忠実に伝えるため100回のシリーズが同じ様式で継続されている。ビジュアルは壮大なワイドショットで、102 歳のホロコースト生存者が、ヨーロッパの虐殺されたユダヤ人のための記念碑である荒涼としたコンクリートブロックが並ぶ中にポツンと映っている。小さな人間が巨大な非人道性に直面し、人種差別と反ユダヤ主義の危険性に対する希望と寛容の象徴となっているのだ。

紙面にはないのだが、ケースフィルムで彼女が語っている「私にとって一番大切なのは人間であること。クリスチャンやムスリム、ユダヤ人なんて関係ない。みな人間の血が流れていて、なにも違いはない。私たちはみなただの人でしかない。みなが善良でいようとしても無理。でも人間でならいられる。人を憎むより尊敬する方がよっぽど簡単でしょ」の言葉に胸が詰まった。

カンヌのアイデアでは物事を異なる視点から見せることで、その本質を理解させるという手法も結構多い。昨今言われるアンコンシャスバイアス(無意識の差別)などはなかなかどうして矯正が難しく、ならばこれに置き換えて考えてみたらどうかしらという提示は、その意識転換にはかなり効果的なのだ。今回も気候変動等、環境への取り組みはいくつもあったが、このような指標の置き換えもまたゾッとするなと感じてしまったのが「The Plastic Forecast」(プラスチック天気予報)だ。

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