カンヌライオンズ2024、ユーモア、ヒューマニティ、そして地域文化の理解と尊重へ(後編)

7 IMAGINATION 「想像」

Minderoo Foundation「The Plastic Forecast」(M&C Saatchi Australia)

あらゆる課題啓発において、その実態を可視化することは大切だ。どんなに劣悪な状況にあろうとも、目前に晒されなければ自分ゴト化は進まない。特に数字はやっかいだ。その数値のポジションが平均なのかまあまあなのか、あるいは劣悪なのかを瞬時に理解することは難しい。そんな難しさを異なる角度から提示し、理解促進したのが「The Plastic Forecast」だ。

イメージ グラフィック  Minderoo Foundation「The Plastic Forecast」(M&C Saatchi Australia)

プラスチックの生産量は 2060年までに現在の3倍になると見込まれている。毎年4億トン以上の新しいプラスチックが生産され、リサイクルされるのはそのうちのわずか 9%だ。世界経済フォーラムは、2050年までに海中のプラスチックの量が魚の量を上回るとも予測している。

活動主体のMinderoo Foundationはオーストラリアを拠点とする慈善団体で、同財団の「海洋イニシアチブ」は、海洋を汚染のない健全な状態に戻して、将来の世代のために保護することに取り組んでいる。ちょうどパリではプラスチック問題を協議する国際的なサミットが開催されるところだったが、ロビイストの妨害もあり、世間における話題化も期待できそうにない状況だった。そこで立ち上げたのが世界初の「The Plastic Forecast(プラスチック予報)」だ。この予報は、毎日の降雨量に含まれるプラスチックの量を測定するもので、大気中のプラスチック研究に関する画期的なデータとリアルタイムの気象データを組み合わせて、毎日の「プラスチックの雨」の量をキログラム単位で推定する。そこらに捨てられているプラスチック廃棄物が目に留まらなかったとしても、雨と共に100Kg単位のプラスチックが降ってくるとなれば、それはパリ市民も気になるはずだ。

活動のアンバサダーとして、著名なテレビ天気予報キャスターであり、気候活動家/ジャーナリストでもあるクロエ・ナベディアンに協力を仰ぎ、報道やメディアイベントでの紹介や、フランス最大のニュースネットワークでのプラスチック予報を毎日の天気予報に取り入れてもらった。その後、世界初のプラスチック条約が起草され、30カ国が生産量削減に新たな取り組みを宣言するに至っている。

新しい視点、新しい評価軸で現存のものを見てもらい価値転換を図るという意味では、見る側の意識転換がベースとなるわけだが、次の事例は自身がこれまでの長年のポジションを超え大きく変身することで、その存在価値を大きく向上させるという痛快な仕掛けを見ることができる。先のChange Policyとは異なり、現状の法律をうまく活用し自身に優位に取り込んでしまうとんちの効いたやり口だ。


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