9 TEAM UP 「仲間」
Xbox Games Pass「The Everyday Tactician」(McCann London)
誰を仲間にし、課題解決に向かうのか。各種のロールプレイングゲームでも学んだが、チーミングはとても成果を獲得する上でとても重要な要素だ。そしてその組み合わせの顔ぶれも昨今大きく変わってきている。大企業、大組織だけが頼りになるわけではなく、実は個人の専門的な知識やスキルが大きく貢献することもある。しかしその才能をどう発掘、仲間に引き入れるかが難しい。そんな有能な個人を見つけ出し、結果を出したのがゲームを通じてリクルートをしたX Boxの「The Everyday Tactician」だ。
サッカーシミュレーションゲーム「Football Manager 2024」は、リアルなサッカークラブのデータを分析しながら最強のサッカーチームを作り上げる醍醐味が人気だ。実はこのゲームは各種のゲームプラットフォームに提供されている。Xboxはゲーマーの第一選択肢としての地位を確立するために、「あなたの夢を実現する」ブランドとしての活動を始めた。それはゲーマーがリアルなサッカー業界で仕事をすることを応援、実現するというもの。そこでBromley FCという中堅クラブに白羽の矢を立て、ゲーム内で豊富な経験を積み重ねてきた一般人ゲーマーをそのチームの戦術担当としてリアルに起用する求人募集を行ったのだ。この千載一遇の大チャンスに多くのゲーマーが参戦する。
そして数多くの応募者の中から最終的に1人の男性が採用された。彼のサポートの下、Bromley FCは当該シーズンにおいて着実にその順位を上げ、とうとう130年の歴史の中で最高の成績を残すこととなる。これらの経緯をドキュメンタリー的に情報発信していくことで一連のキャンペーンは15億を超えるインプレッションを叩き出し、Football Manager 2024のプレイヤー総数も190%上昇したという。まさかのゲーム経由のリクルートでこんな逸材をゲットしてしまうとは…。そしてその勇気にも脱帽だ。ちょっと視点を変えたチーミングの閃きが奏功した事例と言えよう。
Coca-Cola「Thanks For Coke-Creating」(VML)
仲間づくりの事例を、もうひとつ。ブランドの多くは、統一の書式を大切にするのはご存じの通りだ。そのロゴには強い誇りを持ち、グローバルのどこに行っても一糸乱れぬよう細かなレギュレーションが規定されている。しかし「ブランドを生活者に預け、それぞれの見解を大事にする、あるいは共有していく」という姿勢、PRで言えばナラティブを大切にする動きがここにも出てきているようだ。
コカ・コーラが実施しているこの「Thanks For Coke-Creating」プロジェクトは、世界中の雑貨店やミニマーケット、個人商店でよく見られる「非公式のコカ・コーラロゴ」への積極的関与だ。それは非公式なものを正すということではなく、認め、賞賛し、共有していくという方針。代表的な市場であるオーストラリア、インド、インドネシア、南アフリカ、ブラジル、メキシコなどの国で数多く展開されるそれらの非公式バージョンロゴは、既に土地に根付き、重要な文化的関連性を生み出していると言える。そのため一概にそれを否定するのではなく、受け入れていこうということ。これはこれまでのブランドの意志からは考えられないほどの寛容さと言えるだろう。
さらにはこれらのショップと協力し、彼らのアートワークをOOHに使ったり、また製品にプリントして提供したり、デザインブックとしてまとめたりと共創の活動を拡げている。実際のところ、本社がロゴ違反に目をつり上げるよりも、地元のショップが自らPOPを描き、商品の存在をプロモーションしてくれることに感謝した方が小売店との関係性は強くなるだろう。いわばB2B的なアプローチ。そしてこのイニシアチブは商店側のコカ・コーラへの信頼感を高め、また包摂性を感じさせることとなり、ブランドが多様なオーディエンスの共感を得ることに繋がっている。商売相手でありながら、しかし同じ側の「仲間」でもあることを相手に伝え、パートナーとして「共生」していく姿勢を示す事例が今年は傾向として多くあったように感じた。