自分の好きなものと同じものが好きな人を見つけると嬉しい。「好きな食べ物」だったり「好きな服」だったり、きっかけはさまざま。私はデザイナーだから、これが「デザインの考え方」とか「作品に対する視点」だったりするとさらに嬉しい。
「デザインの見方」という雑誌『ブレーン』の中の連載が、書籍になった。
『ブレーン』の中でも「デザインの見方」は、賑やかな広告のお仕事とお仕事の隙間に静かに佇む、落ち着きのあるお部屋のようなページという印象を持っていた。こっそり誰かの屋根裏部屋を覗かせていただくような感じのお気に入りコーナー。
書籍化に際して、自分の回も収録していただけるのもとても嬉しくて、また改めて皆さんの屋根裏部屋的エピソードだけを集めて読めることも楽しみだった。結果、一流のクリエーターの見方がずらっと50人分詰まっている「感性の図書館」のような一冊に。
中でも、グラフィックデザイナー 上西祐理さんの回「ドイツ写真に込められた“違和感”」は共感とともに親近感を抱いた。
2005年に東京国立近代美術館で開催された「ドイツ写真の現在:かわりゆく『現実』と向かいあうために」という展覧会が取り上げられていた。1990年代以降の多彩なドイツ写真の「現在」を、10人のアーティストの仕事から紹介した展覧会だ。
この展示が開催されたのは、個人的には私の第1子が2歳になった頃で育児がとても大変な時にどうにかこうにか見に行ったからか、今も記憶に強く残っている。アンドレアス・グルスキーや、トーマス・デマンドなど好きな作家の作品が並んでいた。
上西さんがドイツ写真に感じた違和感とは、「スナップ写真のようにそこにあるものをそのまま撮ったとしても、カメラで切り取った時点で意図が入り込んでいる。限りなく真実でも、少しのフェイクをはらんでいると思うんです」という言葉に表れている。
それまでナン・ゴールディンやライアン・マッギンレーなどのパーソナルな写真を好んでいた上西さんが、写真の見方を変えるきっかけとなり、そこから仕事の上でのフォトディクションにも変化があった、と上西さんは話す。この「違和感」の魅力を私も以前から感じていたので、「一緒だ!」となり印象深い回だった。私は誰かの「違和感センサー」にもとても興味がある。
デザイナーの人も、デザインが好きな人も、そうでない人も。これからデザイナーになりたいと思っている10代の人も! 元々興味のあったデザイナーの意外な視点を知ってさらに理解を深めるのもいいし、ランダムに開いたページから改めてデザイナーを知るのも楽しい。さらに、次のプロジェクトで誰と仕事をしようか、考える1冊にするのもよし。
こういう思いがけない発見のある本を読んでいると、どこかで自分の感性の発見もある。読む時期やタイミングによっては、自分の新しい興味の入り口が見つかるかもしれない。常に傍に置いておきたい大切な1冊だ。
【発売中】
『WHAT IS DESIGN? デザインの見方 ~トップクリエイター50人の視点と原点~』
○登場者:浅葉球/粟辻美早/池澤樹/石井原/居山浩二/色部義昭/上西祐理/えぐちりか/大島依提亜/大島慶一郎/大塚いちお/岡崎智弘/柿木原政広/金井理明/河合雄流/木住野彰悟/北川一成/木村浩康/河野智/小杉幸一/佐々木俊/佐藤夏生/シマダタモツ/清水恵介/関戸貴美子/立花文穂/田中元/田中せり/田中千絵/田中良治/田部井美奈/丹野英之/戸田宏一郎/中野豪雄/中村至男/西岡ペンシル/西川圭/西田剛史/庭野広祐/野間真吾/浜辺明弘/菱川勢一/平野篤史/藤田重信/松田行正/三澤遥/八木義博/矢後直規/山田和寛/YOSHIROTTEN
○発行元:宣伝会議
○編集:月刊『ブレーン』編集部
○定価:2,200円(本体2,000円+税)