企業の不正を追及した女性ジャーナリストの先駆者、イーダ・ターベル

スタンダード・オイル社の独占的なビジネス慣行を暴露

写真 人物 イーダ・ターベル

イーダ・ターベル(Ida Tarbell、1857 – 1944)

イーダ・ターベル(アイダ・ターベルとの表記もあります)は、アメリカ合衆国の著名なジャーナリスト、伝記作家、歴史家です。彼女は、マックレーカー(不正の追及に特化して取材する記者)の先駆者として知られており、スタンダード・オイル社の独占的なビジネス慣行の暴露記事で有名です。

大学で学士・修士号を取得後、1894年に『マクルーア・マガジン(McClure’s Magazine)』誌に採用されたターベルは、エイブラハム・リンカーン大統領に関する連載を始めました。

この連載によって、同誌の購読数を2倍にしたといわれており、1900年に『エイブラハム・リンカーンの生涯』として出版されました。ターベルは、編集記事の執筆と同時に、調査報道に取り組むようになり、いわゆるマックレーカーとして数多くの暴露記事を執筆します。

写真 ターベルのリンカーン大統領の連載

ターベルのリンカーン大統領の連載は、『マクルーア・マガジン』誌の購読者数増に貢献したという。

彼女と同時期に活動していた他の有名なマックレーカーには、リンカーン・ステフェンズ、アプトン・シンクレア、レイ・スタナード・ベイカーなどがいます。第一次世界大戦に参戦した米国政府が立ち上げた「広報委員会(CPI)」の責任者を務めたジョージ・クリールも、マックレーカーのひとりでした。

20世紀初頭以降に活躍したジャーナリストの中には、マックレーカーとして活動していた者が多かったようです。これらのジャーナリストたちの努力は、社会改革や反トラスト法の施行、労働条件の改善など、多くの重要な変革をもたらしました。

アメリカでの反トラスト法(独占禁止法)執行に影響を与えた

ターベルの最も有名な調査記事は、ジョン・D・ロックフェラーが創設したスタンダード・オイル社の独占的なビジネス慣行を暴露した一連の記事です。

これらの記事は、彼女の友人であるマーク・トウェインからスタンダード・オイル社取締役のヘンリー・ロジャースを紹介してもらったことから取材が始まったものです。ロジャースはスタンダード社の当時の悪評を抑えるために、ターベルの取材に応じたとも思われ、極めて正確で公平な情報を彼女に提供したといわれています。

ターベルの暴露記事は、マクルーア・マガジンに1902年から2年間にわたって連載され、その後『The History of the Standard Oil
Company』(1904年)として出版されました。この著作は、現代の調査ジャーナリズムの基礎を築き、公正なビジネス慣行の確立に大きな影響を与えました。

ターベルが、スタンダード・オイル社の暴露記事執筆に注力したのは、マックレーカーとしての意地もあったでしょうが、彼女の父親が経営する石油会社が、ジョン・ロックフェラーとサウス・インプルーブメント社(スタンダード・オイルの前身)によって倒産・買収に追い込まれたことも、その一因だったと思います。

1906年にマクルーア・マガジンを去ったターベルは、暴露記事から伝記の執筆にその仕事を切り替えていきました。男性が大多数を占めるジャーナリズムの世界で成功を収めた先駆的な女性です。彼女の成功は、多くの女性がジャーナリズムや他の専門職に進出する道を開きました。

写真 女性ジャーナリストを記念する一連の4枚の切手シリーズ

2002年9月14日にアメリカ合衆国郵便公社は、女性ジャーナリストを記念する一連の4枚の切手シリーズの一部として、ターベルの記念切手(右上)を発行した。

ターベルの調査報道は、アメリカでの反トラスト法(独占禁止法)の成立と執行に大きな影響を与えました。

また、マックレーカーの名付け親でもあるセオドア・ルーズベルト大統領は、マックレーカーの記事を元に、反トラスト法に基づいて独占企業にさまざまな制裁を科し、自身に対する国民の支持獲得に利用しました。スタンダード・オイル社に対する訴訟や解体は、ターベルの報道が大きな役割を果たしたといえるでしょう。


広報豆知識(Public Relations Tips)~普段使っている専門用語の由来を知る

マックレーカー

マックレーカー(Muckraker)は、20世紀初頭のアメリカで活動した調査報道記者や作家を指す用語。彼らは、企業や政府の腐敗、不正、社会の不公正を暴露し、社会改革を促進することを目的としていた。

「マックレーカー」という言葉は、セオドア・ルーズベルト大統領が1906年に使ったもので、ジョン・バニヤンの「天路歴程」に登場する肥溜め(muck)をかき回す人物に由来する。

ルーズベルトは、この言葉を使って、社会の悪事を暴露することに執着するジャーナリストたちを批判する意図があったが、彼らの暴露記事を利用して、反トラスト法による独占企業の取り締まりに活用した。一方、マックレーカーたちはこの表現を誇りに思い、自らの活動を続けた。

マックレーカーの報道は、アメリカでの反トラスト法の施行、労働条件の改善、食品安全法の制定など、多くの社会改革を促進した。

また、新聞・雑誌の普及によって、マックレーカーたちの暴露記事が一般市民に企業や政府の不正を知らしめ、社会の透明性と公正性を高める役割を果たしたといえる。

マックレーカーたちの活動は、現代のジャーナリズムにおける調査報道の礎を築き、民主主義社会における報道の重要性を強調するものだと位置づけることができる。

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河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)
河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)

かさい・ひとし/ミアキス・アソシエイツ 代表、英パブリテック日本代表。10年にわたる外資系メーカーでの国内広報宣伝部門責任者を経て、1998年8月より広報コンサルタントとして独立。以来、延べ120社以上の外資系IT企業をはじめ、ITベンチャー各社の広報業務の企画実践に関するコンサルティング業務に携わる。メーカーでの広報担当時代(1989年~)から現在まで、自身で作成・校正を手がけたプレスリリースは、2400本を超えた(2023年10月31日現在: 2421本)。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科修士課程修了(コミュニケーション学)。日本広報学会会員。米IABC(International Association of Business Communications)会員。著書に『アイビー・リー 世界初の広報・PR業務』(同友館)。

河西 仁(ミアキス・アソシエイツ 代表)

かさい・ひとし/ミアキス・アソシエイツ 代表、英パブリテック日本代表。10年にわたる外資系メーカーでの国内広報宣伝部門責任者を経て、1998年8月より広報コンサルタントとして独立。以来、延べ120社以上の外資系IT企業をはじめ、ITベンチャー各社の広報業務の企画実践に関するコンサルティング業務に携わる。メーカーでの広報担当時代(1989年~)から現在まで、自身で作成・校正を手がけたプレスリリースは、2400本を超えた(2023年10月31日現在: 2421本)。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科修士課程修了(コミュニケーション学)。日本広報学会会員。米IABC(International Association of Business Communications)会員。著書に『アイビー・リー 世界初の広報・PR業務』(同友館)。

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