本書は、世界のクリエイティブ事例集というよりは、クリエイティビティを題材にした比較文化論といった内容に近いです。類書が見当たらない斬新なアプローチで、特に外資系エージェンシーのクリエイティブに携わる身としては、目から鱗が落ちる内容だったので、最後まで一気に読み切ってしまいました。
ベースになっているのが、オランダの社会心理学者ホフステード博士による異文化理解メソッド「6次元モデル」と、それを発展させた「メンタルイメージ(文化圏)」というフレームワークです。例えば、「競争」文化圏には、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどのいわゆるアングロサクソン諸国が含まれ、「野心」「リスク」「決断」などのキーワードが並びます。一方、「ネットワーク」文化圏にはオランダやスカンジナビア諸国が含まれ、共通するキーワードは「協力」「幸福」「貢献」などです。このモデルを使って各国の文化を比較しながら、同じようなビール広告でもなぜアメリカとデンマークではアプローチが違うのか、なぜイギリスで通用する表現が日本では通用しないのかなどを理路整然と説明していきます。
『世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著
定価:2,420円(本体2,200円+税)
外資系エージェンシーで働いていると、グローバルのクリエイティブを日本向けにローカライズしたり、逆に日本市場向けのアイデアをグローバルの上司にプレゼンするようなことがよくあります。その際、例えばグローバルのアイデアが日本人には挑発的でオーバーで断定的な印象を与え、逆に日本のアイデアがグローバルには弱く微妙で不可解なものとして受け止められるようなことが起きます。そこで、なぜAだと日本ではうまくいかないのか、なぜBならうまくいくのかを説明しようとするのですが、白と黒だけの世界に住む相手に、グレーの無限のグラデーションを説明しようとするようなもので、議論が堂々巡りになってしまいがちです(最終的には理解してもらえるのですが)。
そうした、クリエイティブ文化摩擦が日常茶飯事である外資の日常において、理論武装の強力な助っ人になるであろう本書には大変感銘を受けたのですが、いかんせん英語版がないのです。日本赴任の外国人上司やグローバルマネジメントの意識改革を促すためにも、本書の英語版が出版されることを切に願います。ともあれ異文化広告論として、グローバルな教養書として、私がこれまで読んだ広告・マーケティング本の中で断トツに面白い本なので、ぜひ手に取ってみてほしいです。
定価:2,420円(本体2,200円+税)
『世界の広告クリエイティブを読み解く』 (山本 真郷・渡邉 寧 著)
ある国では「いい!」と思われた広告が、なぜ、別の国では嫌われるのか?そこにはどんな価値観のメカニズムがあるのか?オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士の異文化理解メソッド「6次元モデル」で世界20を超える国と地域から、60事例を分析。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターはもちろん、あらゆる人が広告を通じて「異文化理解」を楽しく学べる一冊。