50人のデザイナーたちの「衝撃」と「影響」 書籍『デザインの見方』の見方(田中元)

月刊『ブレーン』の人気連載「デザインの見方」が、『WHAT IS DESIGN? デザインの見方 ~トップクリエイター50人の視点と原点~』として書籍化しました。ここでは書籍に登場するデザイナーの方々が、読みドコロを紹介。今回は電通のアートディレクター 田中元さんが、粟辻美早さんの回の“見方”を紹介します。

「衝撃」とともに「影響」を与えたものは、順繰り巡る

街を歩いていたり、ページをめくったりしていると、こちらに向かってレーザーのように鋭い光を放ってくるものがあるんです。それが後に、自分の人生に影響を与える作品だったりするんですが、このような「影響」の前にはまずレーザーのような「衝撃」が来るんです。

この本に登場する自分を含む50人が、「影響を受けた作品」に出会った時。「すごい」「やられた~」「悔しい」「好き!」など感情はさまざまですが、なんだか皆どこか歓びに溢れています。

悩んでいる時や行き詰まった時に、最初は鋭い光だった「衝撃」が暖かい光となって、自分の進むべき道を照らしてくれる。作者の本当の意図は分からなくても、自分にとって素敵な師匠として心に置いておける。目を凝らせば周りには、そんな師匠になりえる作品がたくさんあるのだなと思わせてくれます。

本書を先日、美大に通う娘に読ませたところ、アートディレクターの粟辻美早さんの考えにとても共感していました。粟辻さんに影響を与えたのはアメリカのファッションブランド「ESPRIT(エスプリ)」のデザインです。

写真 誌面 『ESPRIT’S GRAPHIC WORK 1984ー1986』

『ESPRIT’S GRAPHIC WORK 1984ー1986』(ESPRIT、1987)

粟辻さんが美大生の頃は、広告デザインが全盛期で大キャンペーンが躍動し、その道を目指す学生が多かった時代でした。その道にどことなく違和感を抱いていた粟辻さんは「私にとってデザインは、ポスターのように情報を発信するものではなく、もっと生活に根付いていたもの」と気付き、「自分がやりたいのは、人の生活の中で小さな幸せを与えるようなデザインであると確信」した、と続きます。

その部分に娘は「ハァ〜この考え同じだぁ」と僭越ながら唸っていました。粟辻さんはエスプリのデザインに出会って作品だけではなく生き方まで影響を受けてしまった。ものすごく素敵な出会いだと思います。エスプリというビームを浴びて自分の生き方を発見した粟辻さんのお話で、今度は僕の娘が影響を受けている。衝撃とともに影響を与えたものは、順繰り巡るものなのかもしれません。

ちなみに僕のページでは、新人の頃に原宿駅で出会った、大貫卓也さんのとある広告を挙げています。本書にはまだまだ沢山の発見が詰まっています。行先に光が見えず、迷っている若い方々にも読んで欲しい一冊です。

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田中元(たなか・げん)

アートディレクター/クリエーティブディレクター

武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒、1993年電通入社。東京ガス「火ぐまのパッチョ」キャラクターデザイン、PARCO「グランバザール×マツケンサンバ」キャンペーン、バスケットリーグ「富山グラウジーズ」ブランディング、貞子3D 「貞子増殖 渋谷」イベントなど。ADC賞、朝日広告賞グランプリ、メセナアワード優秀賞、カンヌライオンズ メディア部門ほか受賞多数。

【発売中】

『WHAT IS DESIGN? デザインの見方 ~トップクリエイター50人の視点と原点~』

○登場者:浅葉球/粟辻美早/池澤樹/石井原/居山浩二/色部義昭/上西祐理/えぐちりか/大島依提亜/大島慶一郎/大塚いちお/岡崎智弘/柿木原政広/金井理明/河合雄流/木住野彰悟/北川一成/木村浩康/河野智/小杉幸一/佐々木俊/佐藤夏生/シマダタモツ/清水恵介/関戸貴美子/立花文穂/田中元/田中せり/田中千絵/田中良治/田部井美奈/丹野英之/戸田宏一郎/中野豪雄/中村至男/西岡ペンシル/西川圭/西田剛史/庭野広祐/野間真吾/浜辺明弘/菱川勢一/平野篤史/藤田重信/松田行正/三澤遥/八木義博/矢後直規/山田和寛/YOSHIROTTEN
○発行元:宣伝会議
○編集:月刊『ブレーン』編集部
○定価:2,200円(本体2,000円+税)

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