日本の「宣伝部」はどこへ行く? 広告主、広告会社、クリエイターのこれからの関係 ―60周年のサン・アドに見る、日本の広告クリエイティブの変遷(後篇)

サントリー宣伝部を母体として誕生したサン・アドが、今年の5月で60周年を迎えた。開高健、山口瞳、柳原良平、西村佳也、仲畑貴志、魚住勉といった名だたるクリエイターを輩出してきたサン・アド。その60年の歩みから、日本の広告クリエイティブ産業の変遷が見えてくるのではないか、との仮説のもと、同社・代表取締役社長の三好健二氏に話を聞いた。
※本記事は情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部の有志と『宣伝会議』編集部が連携して実施する「宣伝会議学生記者」企画によって制作されたものです。企画・取材・執筆をすべて教育部の学生が自ら行っています。
※本記事の企画・取材・執筆は教育部修了生・黒田恭一が担当しました。

 

本記事には前篇があります。

――サントリーの宣伝部が前身の制作会社のサン・アドが2024年で60周年を迎えました。社長の三好さんは、サントリーの宣伝部も経験し、今の立場に就かれました。ここ数年で広告業界に起きた変化を踏まえ、いまの環境をどう見ていますか。

三好:やはり急激なデジタル化の影響は大きかったですね。皆がスマホを見る時代になって、大きくはマスから個へのコミュニケーションにシフトしたわけですが、多くの人が接触する媒体の種類はあまり変わっていません。でもスマホに接触する時間の比率が増えているのは明らかで、そこに対して広告をうつ。でもスキップされ届いている感覚がない。一方40代以上の方々は、まだそれなりにテレビを見ているのでTVCMがなくなることはないと思います。どちらにせよ人の心を揺さぶらないと、長期記憶に蓄積されません。そのためには衝撃的な、記憶に留まる位の刺し方をして、深い情動を揺さぶるしかありません。それは時代が変遷しても全く変わらないので、心を揺さぶる広告クリエイティブの要諦はあまり変わっていないと思います。

また、企業がクリエイティブやクリエイターに期待することとして、単にグラフィック広告やテレビCMをつくることだけでなく、長期のブランディングなど、企業価値を高める提案を求められるようになっていると感じます。

ロゴや広告物などのアウトプットに至る前段階、例えば自社のパーパスやミッション・ビジョン・バリューを見直したいという依頼も増えています。

――広告の目的が、目の前の課題から上流に遡った議論になっているということでしょうか。

三好:はい、まさに、上流に向かっている感じです。課題の解決というよりも、一緒に課題を発見したいというご要望が増えています。対外的なものだけではなくて、社内に対するパーパスの啓蒙ムービーをつくりたいというご依頼も増えています。

――70周年に向けての展望をお聞かせください。

三好:人の心を動かさない限り、広告は機能しませんので、心に響くクリエイティブを愚直につくりつづけるしかないと思っています。クライアントの「見えない利益をつくる」ことにお役立ちしたい。そして、長期視点で「ブランドの顔を作っていく」仕事をお手伝いし続けたいと考えています。この2点については、60周年の今も、これからの10年も変わりません。サステナブルに成長していくためにはクライアントからのご支持の継続が欠かせませんので、いい仕事をし続けるしかありません。

ユニークな強みをさらに伸ばしていく、弱みを克服して強みに変えていく、の2本立てでこれからも取り組んでいきます。その途上で、不得意な分野は、他社と協業して補っていけばよいと思っています。最終的にはこちらから売り込まなくても指名が絶えないような会社にしていきたいです。

それと人材育成ですね。当社の財産は人ですので、社外との積極的な交流や社内外勉強会を通じて、才能を開花させるための投資を意欲的に進めていきます。

写真 人物 取材風景。写真右が、三好氏。

取材風景。写真右が、三好氏。

三好 健二氏

サン・アド 代表取締役社長

香川生まれ。奈良育ち。神戸大学卒。1991年サントリー入社。輸入、営業、秘書を経て、2001年宣伝部。PEPSI・BOSS等食品、角ハイ・プレモル等酒類の宣伝部課長、RTD部課長を経て、2014年食品宣伝部長。2021年にサン・アド社長就任。

【取材を終えて】
学生時代からサントリーの広告、コピー、CMに感動していた者にとって、聖地であるサン・アドを訪問し、三好社長に直接インタビュー出来たという経験は何物にも代えがたい経験となりました。設立の精神、DNAが深く刻み込まれた同社の広告は、これからも世の中に「役に立つ」ものとして語り継がれていくに違いないと感じました。

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