マーティングは「サイエンス」に偏りがち?
こんにちは、萩原幸也と申します。
この度、タイトルの通り「広告をアップデートするアート思考とは?」というテーマで、6回にわたり私の考えをお伝えする機会をいただきました。
まずは、簡単に自己紹介をさせていただきます。私はリクルートで18年間、クリエイティブ担当者としてコーポレートやサービスのブランディングやマーケティングに携わってきました。武蔵野美術大学を卒業し、現在も同大学で美術教育に携わっています。また、SNSを通じて創造的思考を刺激する情報を発信し、総フォロワー数は10万人を超えました。
開封した時にオレオが割れていると悲しいということで、金継ぎの様にオレオを修復できるクリームを販売。 pic.twitter.com/Dv4tYAEU3H
— 萩原幸也 ®️ (@onipro) 2024年6月20日
広告の事例やアート&デザインのトピックを中心に発信。
フォロワーの皆さま、いつもありがとうございます。
さて、そんな私が最近では、こうしたマーケティングメディアでの寄稿や、カンファレンスでの登壇の機会を多くいただくようになりました。それは、ビジネス、マーケティング、クリエイティブ、アート、デザインといった複数の観点を持ちあわせているからだろうな……、と思うわけです。たぶんです。お声がけいただいた皆さん……違ったらすみません。
とりあえず、そうした自己認識を存分に活かし、これまでそういった機会をいただいた際は必ず、「サイエンスとアートの両軸を大事にするべきである」という話をしてきました。その理由は後ほどお話するのですが、私が人前に出るようになった頃、さまざまなデータが可視化され、マーケティングツールも普及し始めた時期だったので、マーケティングがサイエンスに偏重していく過渡期のように見えたからです。
ですので、自分のような人間は、逆張りでアートの話を強めにしていくべきだと思っていました。「創造性豊かな社会の実現」という個人的な信念のためでもあります。
本コラムでは、なぜサイエンスとアートのバランスが必要なのか、といった点から、アート的思考やアプローチが必要とされる理由、そしてそれが企業広告やブランドづくりにどう活用できるか・活用されてきたか、といったあたりを解説することで、読者の皆さんに少しでもアート寄りの思考を業務に取り入れることに興味を持っていただけたらと思っています。
「サイエンス」と「アート」の定義
さて、「サイエンス」と「アート」という言葉は、この連載では多く出てくるワードになると思うので、まずは定義をしておきます。
「サイエンス」の語源はラテン語の「スキエンティア」に由来し、「知識」を意味します。当初は知識全般を指していましたが、次第に自然現象、化学、物理などの学問分野を含む科学全般を指すようになりました。
一方、「アート」の語源はラテン語の「アルス」で、「技術」を意味します。もともとは人間の技術的な能力を指していましたが、後に人間の創造力や表現力によって生み出される作品や活動を指すようになりました。
サイエンスもアートもその後様々な変化が起きてきたわけですが、現代のビジネスシーンにおいて2つが交差したのは、1970年代にカナダの経営学者 ヘンリー・ミンツバーグが、ビジネスにおける組織マネジメントをサイエンス・アート・クラフトの3つの側面で捉えたことが大きかったと言えます。そして、効果的な経営にはこれら3つの要素のバランスが必要であると強調しています。
こうした変遷を経て、ビジネスシーンでは、サイエンスは「客観的かつ再現可能な方法で自然や物理の法則を探求し解を求める行為」を、一方でアートは「個人の創造性や表現力を通じて主観的な解を見出す行為」を意味するようになっていったわけです。
この2つの中に、どういった要素が含まれるかを整理してみたのが以下の図です。
こうして2つを並べると「サイエンス」と「アート」の二項対立であるかのように見えますが、そうではありません。両方が同時に大事なのです。バランスです。
サイエンス寄りのアプローチは客観的で、合理的に正解を導き得そうですが、現代は「VUCA」の時代(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の頭文字をとり、未来予測の難しい時代を指す)と言われ、そもそも正解が無い時代なのです。
たとえば、ある問いをファクトやデータを元に客観的に解決に導こうと調査をすると、顕在化している課題は表出しますが、それは誰でも辿り行き着きうる内容になりがちです。そして、真に解くべき課題が可視化されない場合があります。
フォード社の創始者であるヘンリー・フォード氏の言葉に「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」というものがあります。馬車が一般的だった時代に「より速い乗り物を」という問いを立て、既存のデータを元に調査をしても、「自動車の開発」という課題は導かれなかったのでしょう。
さて、次回以降は、より詳しく「サイエンス」と「アート」のバランスについて解説し、さらに特にアートに注目して、流行りの「アート思考」とは何なのか、ビジネスや広告にアートはどういった作用をもたらすのか? という本題をお話ししていきたく思っております。お楽しみに!
【次回に続く】