自分の好きを自覚し、磨いていくこと
「子どもの頃から『並べること』が好きだった」
「僕にとって並べることは、飽きることのない楽しい癖」
これは本書に登場する清水恵介さん(クリエイティブディレクター/アートディレクター)が、自分のデザインの原点として語った言葉だ。デザイナーとして働き始めて数年たった頃に「清水くんがつくるデザインの価値って何?」と問われ、幼い頃から「並べること」が好きだったということを思い出したという。
「石を等間隔に並べたり、法則のある並べ方をしてみたり、とにかくいろんなものを並べて、ひとり遊びをしていました。大人になってからも、インテリアの家具や小物の配置がしっくりくるまで何回も並べ直したり、洗濯物をどう並べて干すかを考えていたり」。
さらに、「並べること」についての考察は続く。
「独自のルールで並べて数がある程度揃うと、イレギュラーも生まれ、個性が際立って見えてくる。そして、全体の秩序が見えることで、創発が生まれるデザインフレームになっていく」。
清水さんは影響を受けたものにBernd & Hilla Becher夫妻の『TYPOLOGIEN INDUSTRIELLER BAUTEN』(Schirmer/Mosel、2003)を挙げた。「給水塔や溶鉱炉のような『産業用構造物』をひたすら同じ条件で撮り続けた写真をグリット状に配置」して見せた本だという。
なるほど、清水さんは並べることで個性と秩序の交点を見つけていて、それが彼にしかできないクリエイションに繋がっているのか。「THE FIRST TAKE」の発明もそういうことだったのかと納得させられた。
清水さんの「並べること」に対する視点は彼ならでは。洗濯物の干し方、並べ方を考えるのが楽しいなんて、ちょっと普通じゃない。
ここに登場する50人のクリエイターの視点や方法論は、それぞれに独特で、学びや刺激そのものである。とはいえ、それに触れたからといって、そのデザインの方法論が手に入れられるもの、身につけられるものではないのかもしれない。
クリエイターたちが紹介しているアートや本、できごと、全てではないが自分も出会ったものがいくつかある。だが、彼らと同じように感銘を受けたり、影響を受けたりしたかというと、そういうわけでもない。それは、その人が出会ったから、その人だから響く、その人ならではのものなのだ。
結局のところ、自分の好きなことを自覚し、磨いていくことでしか、突出したクリエイションにはならない。
つまり、創造の源はその人らしさ。その人らしさとは、他の人とは違うその人の「普通」のこと。そこに自分では気付かない偏りや変態性が潜んでいるのだ。それに気付けるか、自覚できるか。自分で理解できたなら、後はそれにピュアに従うだけ。自分の普通を突き詰めていけばいい。
清水さんをはじめ、並んだクリエイターたち、その人にとっての普通が自分にとって普通じゃないことがよくわかった。普通が一番普通じゃない。それが何より面白い。
「デザインの見方」の見方
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○編集:月刊『ブレーン』編集部
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