サントリー×DEAN&DELUCAに学ぶ、生活者の「LOVE」につながるコミュニケーション

生活者の愛着や共感を生み出すクリエイティブ・コミュニケーションには、どんな要素が必要なのでしょうか?ここでは「みんなに愛されるクリエイティブとコミュニケーション」をテーマにしたウェルカムの菅野 幸子氏、サントリーホールディングスの和田龍夫氏が対談した、議論の様子をレポートします。
※リポート記事は、2024年6月12日(水)に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催した「宣伝会議サミット2024(夏)東京」のセッション内容をテキスト化したものです。
写真 人物 複数スナップ ウェルカムの菅野 幸子氏、サントリーホールディングスの和田龍夫氏

写真左から、サントリーホールディングス コミュニケーションデザイン本部 チーフクリエイティブオフィサー 和田 龍夫氏、ウェルカム DEAN & DELUCA事業部 コミュニケーションデザイン ディレクター 菅野 幸子氏。

広告がターゲットとする「みんな」って誰?

━━自己紹介および会社紹介をお願いします。

和田:サントリー入社以来37年間、宣伝とマーケティングを担当し、今年からチーフクリエイティブオフィサーに就きました。サントリーには、酒類・食品・ウエルネス・コーポレートの事業会社ごとに宣伝部長がいるのですが、それらを束ねて会社全体のクリエイティブの質を向上させることが私の役割です。

サントリーには大切にしている3つのDNAがあります。1つ目は「やってみなはれ」という、失敗を恐れずまずやってみる精神。2つ目は「人間味」で、人間の喜怒哀楽に寄り添い、心に影響を与える広告作りを大事にしています。3つ目は「“Etwas Neues”(何か新しいこと)」で、誰もやっていない新しいことにチャレンジしようという精神です。

宣伝では人間味あふれるクリエイティブと、時代の半歩先をゆく斬新なコミュニケーションデザインにより、商品単体だけでなく、商品から生まれる新たな生活文化提案までしています。生活文化提案とは例えば、「金曜日にワインを飲む」提案や、ハイボールスタイルの提案、プレミアムビールの提案や最近ではリサイクルの提案も行っています。

菅野:DEAN & DELUCAを運営するウェルカムのグループミッションは「感性の共鳴 – 美しい考えは人を美しくする」で、このミッションを掲げて、食とデザインの2軸で「日常のハレ」を創り出すようなブランド事業と『虎ノ門横町』や宮下パークのホテル開発など人の集いをつくる街づくりプロデュース事業を行っています。

私は、もともとまちづくりをするコンサル会社でデザインを行っていた経歴で一軒の店の魅力が街をつくるという経験から、この会社にて新規ブランド開発や全ブランドのマーケティング統括に従事。現在はDEAN & DELUCAで食の新たな出逢いのCXを創出すべくブランドコミュニケーションにまつわるすべてを管轄しています。

━━広告・コミュニケーションをする上で、今の時代の「みんな」とは何だと考えますか?

和田:サントリーは天然水・ソフトドリンク・お酒・健康食品と、まさに「ゆりかごから墓場まで」商品があります。人々とサントリーの総接点数は100億超と、おそらく国内メーカーで最多だと思うので、「みんな」とは日本人全員と考えています。ただ、だからと言って全員に受けるクリエイティブはないため、商品の役割ごとに広告をつくっています。

例えば缶コーヒーのBOSSは、タクシードライバーや長距離運転手などのブルーワーカーが対象です。外で働いている中で、糖分とカフェインを摂りたいニーズに応えています。CM中では、「コーヒーが美味しい」ではなく、「ブルーワーカーの人たちに良いことがありますように」とメッセージを発信。これを見ると、明日も頑張ろうとか、働いている人の気持ちを分かってくれていると、生活者からの共感を得られるCMになります。

ただ、世の中の働き方が変わってオフィスで働くITワーカーが増えたことを受け、ユーザーをホワイトカラーに変えました。そこで休憩時間にきゅっと3分で飲む缶コーヒーに対して、働きながらゆっくり飲むペットボトルコーヒーの「クラフトボス」を提案。ただし、CM中ではトミー・リー・ジョーンズが「私は缶コーヒー派だが」と一言添えて、その後も缶とペットボトルの両方のCMを行うことで、缶コーヒー派も決して忘れていない姿勢を示しています。

菅野:食のセレクトショップであるDEAN & DELUCAですが、輸入品の価格高騰や食の作り手不足で大事な食文化がなくなりつつあります。

食とは、どんなときでも平等で笑顔になりえる身近なものと考えています。そのため、日々の食を大切にするすべての方々=「みんな」です。根底には人種のるつぼであるNYで誕生したこともあり、人種や宗教、食の選択がすべて違う方々へ、NOではない提案やフォーカスしすぎない視野をコミュニケーションとして大切にしています。

例えば、デリ惣菜などお肉を何かの事情でたべられない方にも満足して食べて欲しいということでビーガンではなくプラントベースという考え方でターゲットを限定しないメニューをご用意しています。また今の時代は、オンラインで注文して、手に入らないものはありません。食とは五感で感じるもの。わざわざ訪れる体験、そこでしか味わえない価値をメッセージに、地方の魅力を伝える「僕らの新しいローカリズム」という連載をはじめ、都心集中主義ではない食のひろがりや生産者たちの魅力を伝えています。

私たちのお店で販売していないものも含まれていますが、新たな食にまつわる人々のことを知ってもらい、知ってもらうことも私たちの大切な使命だとも思っています。

写真 人物 個人 和田龍夫氏

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