「お米離れをゼロにする」という理念が共感を呼びパートナーを巻き込む
神徳:ブランドとして付加価値をどう付けるか、かなり意識しています。八代目儀兵衛というロゴや看板を見てお米の美味しさをいかに想起してもらうか。そのために京都という地の利が非常に有効に働いています。ミシュランの星付き料亭やレストランなどに米を卸し、京都の目利きの方に選ばれることで間接的に付加価値を上げられていますね。
最近では、セブン-イレブンさんで八代目儀兵衛監修のおむすびを販売していただいていますがこの際にも、社名のロゴをパッケージに入れさせていただきました。年商20億規模の当社ではなかなかCMは打てないので、こうした露出の機会をつくっていただくことができ、すごくありがたかったですね。
実はこのコラボ以前、儀兵衛の認知率は10%以下でした。しかしコラボの1年後、認知率は60%以上にまで向上しました。毎日21,000店舗のセブン-イレブンさんのおにぎり棚に名前が載る効果は絶大です。
京都らしい見た目や地の利の話もしましたが、根本は品自体に一番注力しています。当社の代表が非常にこだわって全国から米を目利きし、味を引き出す精米をし、ブレンドしているので、そこが評価されてブランド力を押し出した広告をつくっていただくことができました。
当社の「お米離れをゼロにする」という理念が共感を呼び、パートナー企業を巻き込めている部分も大きいです。日本一多くのお米を使い、おにぎりを売るセブン-イレブンさんにも今回のコラボを通して、お米は実は美味しいのだと広めていただけました。
また、我々もプロモーションだけでなくプライスの部分でのブランドらしさを意識しています。通販や取引先の飲食店に対して絶対に値引きはしないことで、ブランドの価値を価格で体感してもらっています。
“何のために”ブランドを構築するのか?
――それぞれ会社が実現したい理想が明確で、それに周囲が共感して賛同を集めていると感じます。改めて会社の理念やMVVを教えてください。
川嵜:最上位の経営理念は「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」です。これを対外的にコーポレートメッセージに変換したのが「あらゆるLIFEを、FULLに」。社是、つまり根底にある価値観には「利他主義」を掲げています。目の前の人を幸せにした瞬間に、自分自身も幸せになる価値観を持って行動しようということですね。そして具体的な行動規範として、「真理を探究し続ける」や「社会課題を解決し、公明正大に利益を追求する」といった10のガイドラインを設定。このように社員に対して理念を理解してもらうことで、ブランドらしさを体現した行動ができるようにしています。さらに「ガイドライン評価」といって、ガイドラインをどれだけ達成できたかが、半期ごとの人事評価にも反映されています。
神徳:当社の経営理念は「八代目儀兵衛を通した感動体験を増やすことでお米離れをゼロにする。」です。パンや麺などの食の多様化で米の消費量が減っている中で、さすがに消費量を増やすことは難しいので、お米の美味しさに気づいていただき、お米への価値観を変えていきたという理念を掲げています。
――マーケティング部門、マーケターがブランド構築にかかわることの意味は何だと考えますか。
川嵜:生活者から選ばれる価値をつくるために、ブランドには大きな意味があります。LIFULLはインターネット事業が中心なので、類似サービスがどんどん出てきます。そんな中、生活者から選ばれる価値としてブランドを構築することで、結果的に企業の存在意義を深め、生活者選ばれる理由につながると考えます。
加えて、コロナ禍以降ますますSNS社会化が進み、生活者が自身の価値観を表明するようになったことで、企業の価値観と自分の価値観が合うかという視点でモノを選ぶ時代になりつつあります。だからこそ、企業と価値観の合う生活者のコミュニティをつくり、ファンになってもらうためにブランドが機能すると考えます。
神徳:そもそも八代目儀兵衛は、お米の付加価値を付けるためにブランドを必要とする考えが創業当初からあるので、ブランド構築の意味を厳しく問われない環境にあります。また、八代目儀兵衛と同様の事業をしている米の会社はないので、ブランドをつくりやすい環境にもある。特に当社は社長がクリエティブも含めてマネジメントし、自分がマーケティングという住み分けをしているので、社内でブランド投資に関して調整を求められることも比較的ありません。ただ、これは会社規模が比較的小さいからこそ成り立つことだと思います。