「女性活躍推進」から「全社員が力を発揮する」組織へ サワイグループ、ID&Eの取り組み

沢井製薬を中核とするサワイグループが、女性リーダー層の育成に挑んでいる。社内の意識改革に向け、未来のリーダー候補の成長支援はもちろん、経営幹部から宣言を行ったほか、女性を部下に持つ管理職の研修なども実施予定。組織全体を巻きこむ取り組みはどのように生まれたのか。
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二出川 真由美氏(にでがわ・まゆみ)

サワイグループホールディングス
グループ人事部 ID&E推進室長
兼 沢井製薬 信頼性保証本部
メディカルコミュニケーション部長

病院勤務の薬剤師を経て2002年に製薬会社へ転職。2007年沢井製薬に入社し、医薬品情報センターの立ち上げに参画。2017年同センター長。2022年女性活躍推進体制の強化を目的とした「S-Wingプロジェクト」に参加。2024年4月から現職。

企業の持続的成長のカギを握るのは、女性活躍。意思決定の場に多様な視点が必要─。そうした認識は広まりつつあるが、実際に働く人々の意識を変えることは簡単ではない。性別への固定観念から、無意識に役割や行動を期待してしまうこともある。性別に関係なく、適性のある人財がマネジメント職を志望できる環境を整えるには、丁寧な社内コミュニケーションが必要になる。そうした中、社内でのアクションを活発化させているのがサワイグループホールディングスだ。

プロジェクト発足、経営陣に提言

2030年に向けた長期ビジョンに「ID&E(インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ)の推進」を盛り込む同社。グループ社員の約3分の1は女性だが現状は「女性管理職比率15%以上」の目標には届いていない。こうした状況を改善するため、社内プロジェクトが立ち上がったのは2022年7月。招集されたメンバーは10人。そのうち女性が9人だった。

メンバーのひとり、現在ID&E推進室の室長を務める二出川 真由美氏は、女性登用を加速させるためのプロジェクトチームに「男性が1人しかいない状況に違和感を覚えました」と振り返る。「目指したいのは、女性かどうかに関係なく、意欲や能力にあふれる人が、活き活きと働けるようになること。私自身、上司に恵まれており、仕事において女性社員としてではなく『一社員』として見てもらえたからこそ今があると思っています」。そうした思いから、メンバー総意でプロジェクトのゴールを「女性活躍」から「全社員活躍」に拡大させた。性別の偏りなく意見を取り入れるため、社員有志をプロジェクトのアンバサダーとして新たに募集。女性管理職比率の低さに問題意識を持つ人、男性育休を取得した人、自身のキャリア形成に関心のある人など、幅広い年齢層の人たちが集まった。

アンバサダーとプロジェクトメンバーが対話する社内イベントを開き、全社員活躍の進め方や、解決すべき課題などについて意見交換。また、社員意識調査の分析では「女性のキャリア形成」について男性側も課題意識を持っている傾向が見えてきた。

「プロジェクトで議論を重ね明らかになったのは、全社員が活躍するためには人財育成が要になること。そして、公平にチャンスが与えられるだけでなく、管理職がその機会をサポートする環境をつくることも大切です。こうした考えをもとに、アクションプランをまとめました」と二出川氏。2023年3月、プロジェクトチームは経営陣に対して、全社員活躍を推進する専任部署の設置や、経営陣を含む社内研修の実施などを提言。同年10月、人事部にID&E推進室が誕生することになった。

プロジェクト終了から新組織が発足するまでの約半年間、二出川氏は、2週間に1度、イントラネットに記事を公開してきた。「インクルージョンを知っていますか?」といった用語紹介や、社内プロジェクトの歩みなどについて継続的に発信。その結果、「私も課題に感じていた」といった社員からの投稿も見られ、社内の機運醸成につながっている。

*サワイグループでは、ダイバーシティ(多様性)推進の基盤として、インクルージョン(包括性)が重要であり、その上でエクイティ(公平性)の考え方も必要だと考え、「ID&E」としている。

実データ グラフィック 社内プロジェクトKV

ID&E推進室を生んだ社内プロジェクト
「S-Wing(スウィング)」と名付けた社内プロジェクトでは、キャリア形成やジェンダーの壁に関する社員の意識調査の結果を分析。さらには社員との対話イベントを行い、全社員活躍に関する経営陣への提言をまとめた。プロジェクトの経緯や調査結果、提言したアクションプランはウェブで公開している。

研修後、行動に変化が

現在、ID&E推進室では、全社員が活き活きと活躍できる環境を整えることを目的に、女性管理職比率などを指標にしながら様々な研修メニューを組み立てている。特筆したいのは「経営幹部向け研修」、「女性の管理職候補者向け研修」と「女性社員を部下に持つ管理職向け研修」、そして「全社員向け研修」だ。

経営幹部向けの研修では、外部講師を招き、なぜ今、女性活躍が重要なのかについて理解を深めた。部門別の女性管理職比率をデータで可視化し、女性が意思決定の場に参画することで男性も仕事がしやすくなった事例も共有。研修の直後には、各参加者が今後の目標を宣言した。その様子を動画で撮影しイントラネットに公開している。

「研修を受けた方自身の言葉で宣言することが何より大事だと考えました。今後、どういったことに力を入れていくのか具体策を宣言した方もいます。真剣に考えていることが伝わってくる内容なので、動画を見た事業部門のメンバーにも『自分たちのことを見てくれている』という期待感が生まれたと思います」と二出川氏。研修を受けて、事業部門で独自に女性活躍に関する座談会を開き、障壁となっていることを明らかにしようとする動きも見られ、社内の行動変容が起きている。

「女性の管理職候補者向け研修」は2024年からの開催を計画している。「マネジメント職なんて無理」と考えている管理職候補者の意識を高め「できるかもしれない」と自信をつけてもらうことが狙いだ。その裏側で「女性社員を部下に持つ管理職向け研修」も行う予定。こちらは、管理職候補者をサポートし昇格させていくための環境づくりをすることが狙いだ。

「管理職の側が女性社員に遠慮してしまうケースはよくありますが、話をしてみると、実は無用な配慮だったりします。男女問わず、部下に対して『ここに期待している、ここを伸ばしてほしい』といったコミュニケーションを積極的にとれる人を増やしていきたいと考えています」。

「全社員向け研修」として「アンコンシャスバイアス」をテーマに25分の動画の配信も行っている。「えっ?」と思わせ視聴したくなる工夫も施す。「動画視聴に入る前に、1枚イラストを見てもらいました。一見すると、女性が並んでいるように思える絵ですが『今これを見て、女性だと思った方は、アンコンシャスバイアスがあるかもしれません』と問いかけて、考えるきっかけをつくっています」。

今後ID&E推進室では、エクイティ(公平性)に関する取り組みとして、個人の能力に応じた「公平・公正な評価」について強化していきたい考えだ。「社員にとっては、どうしても見えにくい側面がある人事評価ですが、そこで丁寧なフィードバックができる管理職の育成をすること、そして社員同士の横のつながりを増やすことで、多様な角度から、その人の強みを見つけられる組織にしていきたいです」。

写真 人物 複数スナップ ワークショップ
写真 人物 複数スナップ ワークショップ

経営幹部が女性活躍推進の研修を受けて宣言
幹部向け研修では、外部講師を招きワークショップを実施(写真)。なぜ今、女性活躍推進が必要なのかを整理した上で、研修後には各幹部が「いつまでにどんなことに取り組むのか」を宣言。その動画はイントラネットで全社員が視聴できるようにしている。

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お問い合わせ

サワイグループホールディングス株式会社

住所:〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原5丁目2-30
Webサイト:https://www.sawaigroup.holdings/

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