リアルとデジタルを駆使した顧客接点づくりやファン開拓のポイント

新しい顧客をどう開拓したらいいのか、また今後顧客になりえるユーザーのニーズやインサイトをどう探ればいいのか、悩むマーケターも多いだろう。2024年7月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024夏 in 大阪」では、サンスターグループ(以下、サンスター)福垣 恭子氏と高橋 哲也氏がリアルとデジタルを駆使して取り組んできたことや成功例について、アルゴエイジの成田 穂高氏がユーザー起点でのコミュニケーションによる効果的な手法について説いた。

ポップアップストアで消費者のもとへ

サンスターの福垣氏と高橋氏が所属する専門チャネル統括部 コンシューマー営業部 顧客接点開発グループとは、BtoC通販の営業において新規顧客開拓を目指すグループ。通販においては新聞広告やウェブ広告などさまざまな手法があるが、サンスターでは時差なく顧客と対話し、接点を持つような営業スタイルを続けてきた。そのなかで注力してきたのが「ポップアップストア」と「ライブコマース」だという。なぜこの2つに注力することになったのか。それには3つの背景がある。「ブランド認知が弱い」「競合増加、マス広告での差別化困難」「主力商品頼み、新製品への投資課題 」というもの だ。

サンスターの福垣氏。メーカー自らが消費者のもとに出向いて、対話をしたり味見をしてもらったりしたうえで購入につなげようとポップアップを始めた。

サンスターの製品は、オーラルケア製品で 大きな売上があったものの、通販で取り扱っている化粧品や健康食品の認知が低かった。 新聞やウェブでは競合製品の広告が乱立しているため埋もれてしまうのだ。そして、福垣氏らがメインで扱う美容飲料については法規制により効果効能を唱えることができず、素材をアピールして宣伝するには莫大な費用を要するという。そこで、メーカー自らが消費者のもとに出向いて、対話をしたり味見をしてもらったりしたうえで購入につなげようと始めたのがポップアップストアだ。

最初はその場での定期成約は難しいだろうと考え、サンプリングのみのポップアップストアを実施し、その後電話による定期成約をねらう計画だったのだが、想定したような結果にはならなかった。8000人を超える来場者に対して、実際に定期申込があったのは274人。目標には全く届かず、社内からも「イベントでCPOが合うのか?」「媒体として拡大できるのか?」「定期のごり押しはメーカーのイメージを損なうのではないか」などの声が上がったという。そんななか5~10年かけてPDCAを回し続け、期待値以上の成果を得る ことができた。 その秘訣について福垣氏は「ポップアップストアは変数がいっぱいあるんです」と語る。

5~10年かけてPDCAを回し続け、期待値以上の成果を得ることができた。その秘訣はポップアップストアの変数の多さ。

開催する場所や曜日でも反応は異なり、スキルのある配置スタッフを置いたり 、気づきを与えるための体験 を行ったりと、ポイントを自在に変えることで改善を図っていった。2023年度は年間1000日開催し、5000人以上の定期成約 を獲得。社内でもポップアップストアが1つの媒体として確立できたという。
ポップアップストアの最大の魅力について福垣氏は「認知から購買まで、その場で15~20分で済んでしまうこと」だと語る。消費者に興味関心を持たせ、欲しいと納得のうえで購入に至る。ここには時間も気持ちもロスがない。また 「機能性と柔軟性」もポップアップストアならではの魅力だという。アプローチをしたい消費者に合わせて自由に場所を選択したり、セールストークを変えたりできることで、効果的にファン層を拡大できるのだ。

コロナ禍でライブコマースに着手

ポップアップストアに注力してきたサンスターがライブコマースにも手を広げたきっかけは、コロナ禍にあったという。「対面での営業活動ができない状況となり、始めたのがYouTubeのライブ配信」だと高橋氏は語る。

出張ライブは、表情によって会話を変えるなど、持ち時間の1時間をみんなで楽しく過ごすことができたのが結果につながったのではと高橋氏は推測する。

新しい部署で予算もなかったため、社員2人で立ち上げ経費のかからないYouTubeチャンネルを始めたが、集客に苦戦した。やはりプロを起用した ほうが良いかと考え、社内の管理栄養士にも入ってもらったが、これもまた苦戦。そこで集客にお金をかけようと奮起し、テレビ番組の出演者 や有名飲食店のシェフに登場してもらったが、視聴者数は上がったもののコンバージョン率は上がらず、出張ライブに方向性を切り替えることにしたという。

双方向で楽しく共感体験があってこそ

出張ライブとは、既にあるコミュニティに出向いて製品をおすすめし、購入につなげる活動だ。Zoomによる実施だったという。コミュニティの規模はそれぞれで異なるが、高橋氏が驚いたのは成約率の高さ。話す内容はYouTubeライブと変わらないが、大きく異なったのは互いの顔が見えるという点だ。表情によって会話を変えるなど 、持ち時間の1時間をみんなで楽しく過ごすことができたのが結果につながったのではと高橋氏は推測する。2年ほど運営して実感した成功のポイントは「双方向で楽しく共感体験があってこそ」ということだ。

ライブコマースのKPIは売上ではなく、リピーター視聴者を増やすこと」だと身をもって語る。

そのポイントをもとに、ライブコマースをサンスター独自で立ち上げた。最初は集客に悩み、インフルエンサーとのコラボに挑戦するも、一時的な視聴者増にはつながってもリピート視聴には至らなかった。そんなとき、ひょんなことから調味料メーカーのオタフクソースに声をかけた。「サンスターの野菜ジュースを使ってもらい、健康なお好み焼きを作ろう」という企画を実施し、視聴者数が1000人を超えるライブとなったのだ。そこからは怒涛のコラボを続ける。相手企業からもライブコマースという新しいチャレンジができること、説明しないと伝わらない商品の認知拡大に活用できることが喜ばれ、両社両想いのコラボとなっている。高橋氏は「ライブコマースのKPIは売上ではなく、リピーター視聴者を増やすこと」だと身をもって語る。今後はライブコマースの利点とポップアップストアの利点をつなぐところで、新しいチャレンジができないか、と課題を掲げている。

ファーストパーティデータの次なる時代は…

成果報酬型のチャットボットを運営するアルゴエイジの成田氏は、インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。インターネット広告が始まった1996年頃まで遡り、アフィリエイト広告、リスティング広告、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、動画広告と手法が変化してきたことを説明。2010年頃からサードパーティクッキーを代表とするテクノロジーの進化のおかげで、インターネット広告市場は3兆円にまで達してきたのがここ25年ぐらいの動きだと話す。

さらに、インターネット広告の歴史を大きく2つにわけたのが、2020年までと2020年以降。2020年まではさまざまな企業がDSPやアドネットワークを開拓し、媒体数が増えていったいわゆる「発散の時代」。2021年頃からはアドテク事業者の淘汰が進み、大手に運用をまるごと任せれば自動で調整してくれる、そんな「収束の時代」だと成田氏は考える。

アルゴエイジの成田氏。インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。

2000年からアドテク事業者が増え、さまざまなサービスが台頭した背景には、サードパーティデータの活用技術の進化、とくにサードパーティクッキーの活用が後押ししたことが大きいと成田氏は推察。しかし、ここ5~10年はファーストパーティデータをしっかり作っていきましょうという話が頻繁にされるようになった。そもそもサードパーティデータ、ファーストパーティデータとは何か。サードパーティデータは第3者が収集したデータのこと、ファーストパーティデータは、自社サイトでユーザーの行動を収集したデータのことだ。

なぜ、サードパーティデータがファーストパーティデータに移行しているのか。多くの人が知ってのとおり、プライバシー保護の観点から、サードパーティデータはたびたび廃止予定が発表されてきた。海外ではかなり厳しく取り締まれている状況といったところなので、いつ日本で廃止されてもおかしくない。そんななか、サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない、というのが現在の世の流れである。

サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない。

CVしてくれないユーザーの言語化がポイント

成田氏がその先に見据えているのは「ゼロパーティデータ」の時代。講演の冒頭で「コンバージョンしてくれていないユーザーのニーズとインサイトを言語化できていますか」と問いかけた成田氏だが、その答えがここにある。

ゼロパーティデータとはユーザーが企業に対して自発的に共有するデータのこと。SNSやアプリで質問したアンケートデータや、SNSのコメント、クチコミデータなどが該当する。ファーストパーティデータでは自社サイトにおいてのユーザーの動きは分析できるが、比較検討して離脱したユーザーが外でどういう行動をとっているのか、どういうことに興味関心を持っているのかを把握することはできない。そこで、離脱した人の動きを可視化するのに役立つのがゼロパーティデータというわけだ。

アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用している。証券会社がクライアントだと仮定すると、証券会社のランディングページを離脱しようとしたときにユーザーのスマートフォンにポップアップが表示され、クリックすると公式LINEアカウントにつながる。そこで「投資スタイル診断」と題し、投資を始めようとしたきっかけは何か、希望の取引方法や運用方法は何か、投資するうえで最も重要視することは何か、などのQ&Aを繰り返していきながら、おすすめの銘柄を提案する。その会社のサイトには欲しい情報がなく離脱しようとしたが、証券取引には興味のあるユーザーをつなぎとめるのだ。

これだけでも、これまでの事例からCV数で10%のリフトが見込めるが、ただ10%増にするだけではただのツールベンダーに成り下がってしまう。そこでアルゴエイジではユーザー調査を徹底的に行っている。まずは、インタビューツールを使ってユーザーの抱えるニーズとその裏側にあるインサイトを抽出する「定性調査」、そしてChatGPTとアクセス解析ツールを使い、クライアントのランディングページやクリエイティブに加え、競合他社の情報もふまえて行う「定量調査」。ユーザーのニーズやインサイトをしっかり理解できていれば、醸成したい心理が見え、CV熱量を上げるコンテンツを作ることができる。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

スタート時点ではあくまで仮説に基づいたコミュニケーション設計であるため、リリース後は6カ月かけてインサイトデータをもとに最適化していき、100%を110%まで押し上げる。また、LINEで収集したデータは離脱ユーザーのインサイトとなるため、LINEだけに留まらず、ディスプレイ広告の訴求軸にしたりと、マーケティング全体にインパクトを与えられる施策にもなりえる。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

お問い合せ

株式会社Algoage

URL:https://chatboost.dmm.com/cv/

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