未来のファン層を巻き込む施策のポイントと「リアルユーザーとの接点」の重要性

新しく顧客やファンを開拓していくため、マーケターらはニーズやインサイトを探り、その深層心理にマッチしたアプローチに日々取り組んでいる。2024年7月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024夏 in 名古屋」でトヨタ・コニック・プロの岸上康一郎氏がインスタグラムでファンを広げた取り組みについて、アルゴエイジの成田穂高氏がユーザー起点でのコミュニケーションによる効果的な手法について語った。

インスタグラム施策「#トヨタグラム」

トヨタの宣伝機能も担うブランドマーケティング事業、モビリティ領域の新規事業開発、この2つを併せ持ったトヨタ・コニック・プロで、主に前者のマーケティング事業に携わる岸上氏は、ユーザー発信のインスタグラム施策「#トヨタグラム」が実現する双方向コミュニケーションについて、どのような考えのもと、どのような取り組みをおこなってきたか事例を紹介した。

トヨタ・コニック・プロの岸上氏。UGCの良い点として、「企画次第で低コストでリーチを獲得できる」「共感が生まれやすい」「リアルな意見や評価が集まる」「マーケティング活動に活かせる」ことを感じたという。

「#トヨタグラム」はオーナー層をターゲットに2017年、「自分ごと化でき、自然と広がるハッシュタグ」をコンセプトにして立ち上げた。フォロワーの中でも熱量が高く、中心となる「車好き」のユーザーから能動的なシェアを狙って、車にこだわりのない層や若年層へと広げ、トヨタの情報に触れる接点や機会を増やし、共感度向上を目指したのだ。投稿数は約80万件。その中で岸上氏は、インスタグラム特有の、たとえば「#車好きな人と繋がりたい」などではなく、「#fjの繋がりに感謝」といった車種にちなんだハッシュタグが出てきたことが発見としてあったといい、UGCの良い点として、「企画次第で低コストでリーチを獲得できる」「共感が生まれやすい」「リアルな意見や評価が集まる」「マーケティング活動に活かせる」ことを感じたという。

立ち上げ時の「#トヨタグラム」は、カタログ素材流用やイベントレポートを投稿することからスタートした。ところが運営していくと、フィードがマンネリ化し、投稿素材も減って頻度が下がってしまう。するとエンゲージメントも低下しまうという悪循環に。そこで企画として打ち出したのが、絶景×クルマをテーマに日本各地をドライブする「グランツーリング企画」。クルマの色や形、向き、写真に対するクルマの大きさ、それらと日本各地の絶景との組み合わせは無限大。「安定した投稿を確保することができ、高いエンゲージメントを獲得できた。また、この投稿を見たユーザーの『ここへ行ってみたい』という態度変容スコアも向上した」と岸上氏は語る。

安定した投稿の確保と高いエンゲージメントの獲得について学ぶべきことが多い。

ところが各地に出向いて撮影するには、「継続的な制作コスト」が課題となった。また、インスタグラムのアルゴリズムの変化により、以前はフォロワーを集めることが目的だったのが、いいね!やシェア、保存、いかに良質なコメントを集めるのか、ということに動向が変わってきた。そこで、ソーシャルらしい企画・活用とは何だろう?と原点に立ち返り、当初のコンセプトに加えて、「ユーザーごとの興味関心を細分化し、見える化を推進」「ユーザーの熱量を巻き込んでいく、継続性のある企画」をコンセプトに加え、「ユーザーの承認欲求をくすぐる、やってみたいをサポートする」を最重要ポイントとした。

ユーザーの興味関心を細分化し、熱量を巻き込む

また、ユーザーハッシュタグを起点として、各プラットフォームの役割を明確に定義した。「#トヨタグラム」のユーザー投稿を、インスタグラムのトヨタ公式アカウントで素材収集。トヨタのオウンドメディアではユーザー投稿の見える化をし、Xでは情報を拡散・収集、LINEではこれらの活動をさらに広げる促進や利活用を視野に入れた。

投稿ハードルを下げるため、「クルマのかっこいい撮り方」などのフォト講座でレクチャーすることもある。

「全体的にいえるポイントが、ユーザーの参加促進。そのために参加ハードルをいかに下げるか」だと岸上氏。それを体現した施策の1つめが「みんなのトヨタグラム」という企画だ。サイト内で、インテリア、お気に入り、思い出などジャンルごとに「好き」を見つけることができるもので、運営するなかでクルマが単なる移動手段ではなく、愛着のある空間であり、大切な家族の一部。だからこそみんなに見せたい、そういったニーズがあるという気づきが得られたという。

運営の手法についても岸上氏は明かした。まず、インスタグラムで「#トヨタグラム」を付けて投稿してくれたユーザーに対して、公式アカウントから「いいね!」をし、その中でキュレーションしたい投稿に関しては公式アカウントに載せていいかどうかの許諾をメッセージでやりとりする。OKの返事をもらったらサイトにも自動反映するといった仕組み。その際のポイントとして、SNSに限らず他の媒体や広告、パンフレットにも載せる可能性があると先に伝えておくことで、後々いろんな場に広げられるし、ユーザーからも媒体で取り上げられることを喜んでくれたり、SNSで話題にしてくれたりといった効果が得られるという。また投稿ハードルを下げるため、「クルマのかっこいい撮り方」などのフォト講座でレクチャーすることもある。ただし注意が必要な点もある。たとえば、違法改造しているクルマや、道路交通法違反の撮影をしている写真をキュレーションしてしまうと炎上リスクがあることだ。そのため、「チェックリストを用意して、担当者の知識レベルを上げたうえで実施するのがポイントだ」と岸上氏は語った。

『#トヨタグラム』に関しては2017年にスタートし、4~5年かけて日の目を浴びるようになってきた。UGC施策は長期的にみていかないといけないと語る。

リアルユーザーに取材することで発見がある

2つめの施策として、リアルなカーライフを徹底取材するような企画も立てている。実際に赤いプラドを愛用しているファッションスタイリストに取材。クルマを選んだ理由としてデザイン性もあるが、ヒアリングするなかで80人分の衣装が乗ることがわかった。そして、その80人分の衣装を取り出すのに、「リアウインドウが開くから屋外でもすこぶる衣装が取り出しやすい」という話が聞けたという。そういった発見もメリットの1つ。取材を続けていくなかで、20代を中心にちょっと古いクルマがいいよね、といった「ヤングタイマー」という言葉が話題になっていることも発見としてあったという。

また、集めた情報を活用する場として役立っているのがLINE。ドライブスポットマガジンのバナーをタップすると、行きたい場所やカテゴリーからユーザーに合ったドライブ先を見つけることができる。「#トヨタグラム」では、インスタグラム、サイト、X、LINEの特性を生かして、ファンの満足度を上げている。最後に岸上氏は「UGC施策は長期的にみていかないといけない。『#トヨタグラム』に関しても2017年にスタートし、4~5年かけて日の目を浴びるようになってきた。時間がかかっても、リアルなユーザーを見に行くこと、取材することは、結果いい切り口を作ってくれる」と締めくくった。

ファーストパーティデータの次なる時代は…

成果報酬型のチャットボットを運営するアルゴエイジの成田氏は、インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。インターネット広告が始まった1996年頃まで遡り、アフィリエイト広告、リスティング広告、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、動画広告と手法が変化してきたことを説明。2010年頃からサードパーティクッキーを代表とするテクノロジーの進化のおかげで、インターネット広告市場は3兆円にまで達してきたのがここ25年ぐらいの動きだと話す。

アルゴエイジの成田氏。インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。

2000年からアドテク事業者が増え、さまざまなサービスが台頭した背景には、サードパーティデータの活用技術の進化、とくにサードパーティクッキーの活用が後押ししたことが大きいと成田氏は推察。しかし、ここ5~10年はファーストパーティデータをしっかり作っていきましょうという話が頻繁にされるようになった。そもそもサードパーティデータ、ファーストパーティデータとは何か。サードパーティデータは第3者が収集したデータのこと、ファーストパーティデータは、自社サイトでユーザーの行動を収集したデータのことだ。

なぜ、サードパーティデータがファーストパーティデータに移行しているのか。多くの人が知ってのとおり、プライバシー保護の観点から、サードパーティデータはたびたび廃止予定が発表されてきた。海外ではかなり厳しく取り締まれている状況といったところなので、いつ日本で廃止されてもおかしくない。そんななか、サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない、というのが現在の世の流れである。(※本記事は、7月17日に行われた講演内容を基に制作されています)

ファーストパーティデータをしっかり見据えていく戦略への示唆に関心度が高かった。

さらに、インターネット広告の歴史を大きく2つにわけたのが、2020年までと2020年以降。2020年まではさまざまな企業がDSPやアドネットワークを開拓し、媒体数が増えていったいわゆる「発散の時代」。2021年頃からはアドテク事業者の淘汰が進み、大手に運用をまるごと任せれば自動で調整してくれる、そんな「収束の時代」だと成田氏は考える。

CVしてくれないユーザーの言語化がポイント

成田氏がその先に見据えているのは「ゼロパーティデータ」の時代。講演の冒頭で「コンバージョンしてくれていないユーザーのニーズとインサイトを言語化できていますか」と問いかけた成田氏だが、その答えがここにある。

ゼロパーティデータとはユーザーが企業に対して自発的に共有するデータのこと。SNSやアプリで質問したアンケートデータや、SNSのコメント、クチコミデータなどが該当する。ファーストパーティデータでは自社サイトにおいてのユーザーの動きは分析できるが、比較検討して離脱したユーザーが外でどういう行動をとっているのか、どういうことに興味関心を持っているのかを把握することはできない。そこで、離脱した人の動きを可視化するのに役立つのがゼロパーティデータというわけだ。

アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用。

アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用している。たとえば、証券会社がクライアントだと仮定する。証券会社のランディングページを離脱しようとしたときにユーザーのスマートフォンにポップアップが表示され、クリックすると公式LINEアカウントにつながる。そこで「投資スタイル診断」と題し、投資を始めようとしたきっかけは何か、希望の取引方法や運用方法は何か、投資するうえで最も重要視することは何か、などのQ&Aを繰り返していきながら、おすすめの銘柄を提案したりする。そこの会社のサイトには欲しい情報がなく離脱しようとしたが、証券取引には興味のあるユーザーをつなぎとめるのだ。

これだけでも、これまでの事例からCV数で10%のリフトが見込めるが、ただ10%増にするだけではただのツールベンダーに成り下がってしまう。そこでアルゴエイジではユーザー調査を徹底的に行っている。まずは、インタビューツールを使ってユーザーの抱えるニーズとその裏側にあるインサイトを抽出する「定性調査」、そしてChatGPTとアクセス解析ツールを使い、クライアントのランディングページやクリエイティブに加え、競合他社の情報もふまえて行う「定量調査」。ユーザーのニーズやインサイトをしっかり理解できていれば、醸成したい心理が見え、CV熱量を上げるコンテンツを作ることができる。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

スタート時点ではあくまで仮説に基づいたコミュニケーション設計であるため、リリース後は6カ月かけてインサイトデータをもとに最適化していき、100%を110%まで押し上げる。また、LINEで収集したデータは離脱ユーザーのインサイトとなるため、LINEだけに留まらず、ディスプレイ広告の訴求軸にしたりと、マーケティング全体にインパクトを与えられる施策にもなりえる。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

お問い合せ

株式会社Algoage

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