ユーザー起点のコミュニケーションによるインターネット広告成功の可能性

どの業界でもデジタルを使った顧客コミュニケーションや新規顧客を開拓するニーズやインサイトの可視化が求められる今、どのような手段をとるのが効果的か悩むマーケティング担当者もいるだろう。2024年7月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024夏 in 福岡」では、西日本シティ銀行のデジタル戦略部マーケティンググループ4代目チーフである高木英樹氏が取り組んできたことや成功したこと、アルゴエイジの成田穂高氏がユーザー起点でのコミュニケーションによる効果的な手法について説いた。

自動化プラットフォームで顧客に寄り添う

福岡県福岡市博多区に本店を置く西日本シティ銀行は2020年4月、「デジタル戦略部」を「イノベーション企画グループ」「デジタルバンキンググループ」「マーケティンググループ」の3グループ構成で立ち上げた。デジタル戦略部が発足した年に入行し、2021年12月よりマーケティンググループのチーフを任されている高木氏は、「デジタルマーケティング分野で西日本シティ銀行がこれまでどんなことをやってきたのか」、そして「それらの取り組みでうまくいったこと、失敗したこと」について語った。

写真 満員御礼の講演時の様子

満員御礼の講演時の様子

西日本シティ銀行では、デジタル戦略部を立ち上げた際に4つの領域を策定した。4つの領域とは、顧客に対してデジタルの力で業務を効率化したり売上を伸ばすことを支援する「お客様のデジタル化・DX推進」、アプリやプラットフォームの構築により顧客接点の高度化を図る「デジタルチャネルの高度化」、新たなビジネス・サービスを推進する「オープンイノベーションの推進」、管理システムにより顧客情報を一元化したり接点を拡大する「情報の利活用」。4つの領域の内、「情報の利活用」をマーケティンググループで担い、3つのチームに割り当て、運用していった。3つのチームとは、取引データを分析し、顧客に合わせたコミュニケーションの自動化を実現する「データチーム」、お客様の目に触れるクリエイティブやブログ、SNSを運用する「プロモーションチーム」、顧客情報を一元化するツールなどを構築する「CRMチーム」だ。

マーケティングチームが発足して最初に取り組んだのが「マーケティング自動化プラットフォームの稼働」だと高木氏は語る。たとえば28歳の女性が給与受け取りのため新規口座を開設したとする。用紙に記載した電話番号に3日後に「口座開設のお礼・アプリの利便性を訴求するメール」を送り、アプリをダウンロードした際にはパーソナライズされた記事を表示させ、顧客の興味関心に寄り添ったマーケティングを行うというものだ。導入から数年が経つが、成果はかなり上がっているという。

写真 人物 西日本シティ銀行の髙木氏。マーケティングチームが発足し、「マーケティング自動化プラットフォームの稼働」を最初に取り組んだ。

西日本シティ銀行の髙木氏。マーケティングチームが発足し、「マーケティング自動化プラットフォームの稼働」を最初に取り組んだ。

顧客起点でのOne to Oneソリューションの提供

次にリリースしたのが、九州の地方銀行では初となる「住宅業者向けのポータルサイトの取引開始」。それまで紙でのやりとりが多かった住宅ローン関係の申込のデジタル化を図るとともに、各種ローン申請の申込顧客の情報を一元化して、顧客起点での“One to Oneソリューション”の提供に取り組んだ。3つめとなるのが、「フルクラウド型コンタクトセンターシステムの導入」。従来の電話のみのコミュニケーションではなく、チャットやショートメールでも対応できるようにした。今後は西日本シティ銀行の基盤となる営業店のデータも一元化し、コンタクトセンターの電話・チャット・SMSによるコミュニケーションとつなげることで、さらなる“One to Oneソリューション”の提供を図りたいと高木氏は語る。

さまざまな取り組みをしてきた中でうまくいっているポイントは「WEB広告運用の内製化」。デジタル戦略部が発足した2020年4月、当時のマーケティンググループチーフは、広告会社を挟むことで費用の8割分しか出稿できないことをもったいないと考えた。その後、広告会社出身の人材を採用しながら、内製化することで広告そのものにかける費用を増やした。WEB広告にシフトする時代の流れもありWEB広告総額は約1.5倍に増加したが、CV数はそれにも増して約1.7倍になったという。内製化については人材の獲得に成功したことも好影響だったそうだ。取引があった広告会社の担当者をスカウトしたり、パートナー会社に協力を仰いだりと、自社を良く知ってくれている人が伴走してくれることが成功要因だと高木氏は振り返る。

写真 「WEB広告運用の内製化」がうまくいき、WEB広告総額は約1.5倍に増加したが、CV数はそれにも増して約1.7倍になった

「WEB広告運用の内製化」がうまくいき、WEB広告総額は約1.5倍に増加したが、CV数はそれにも増して約1.7倍になった

デジタル管理した顧客や、アプリで獲得した新規顧客に向けて効果的なメールマーケティングだが、その一方で怖い面もある。それは、フィッシング詐欺。西日本シティ銀行でも昨年相当狙われたとのことで、一時期メールマーケティングをすべて停止せざるを得ない状況にも陥ったという。現在プロモーションメールには、フィッシング詐欺について注意喚起するバナーを必ず載せるようにしているそうだ。

ヒューマンエラーによるリスク管理を徹底

最後に高木氏は失敗事例についても明かした。「忘れもしません、2021年11月18日の木曜日、アプリプッシュ通知の誤送信事故というのがありました」と高木氏。「残高不足により登録口座の引き落としができませんでした」という文言をすべての顧客に送信してしまったというものだ。担当者が作業中に一時保存ボタンと送信ボタンを間違えたことによる誤送信。以降そういったヒューマンエラーが起こらないようにするためのシステム改修とルール整備をおこなったうえ、毎月18日を「リスク認識の日」と定め、デジタル戦略部全員が集まってデータ流出事案や不祥事などの情報を共有することにした。デジタルに伴うリスクを常に念頭に置き、いざというときに迅速にリカバリーできるよう訓練をおこなっているそうだ。

ファーストパーティデータの次なる時代は…

成果報酬型のチャットボットを運営するアルゴエイジの成田氏は、インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。インターネット広告が始まった1996年頃まで遡り、アフィリエイト広告、リスティング広告、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、動画広告と手法が変化してきたことを説明。2010年頃からサードパーティクッキーを代表とするテクノロジーの進化のおかげで、インターネット広告市場は3兆円にまで達してきたのがここ25年ぐらいの動きだと話す。

さらに、インターネット広告の歴史を大きく2つにわけたのが、2020年までと2020年以降。2020年まではさまざまな企業がDSPやアドネットワークを開拓し、媒体数が増えていったいわゆる「発散の時代」。2021年頃からはアドテク事業者の淘汰が進み、大手に運用をまるごと任せれば自動で調整してくれる、そんな「収束の時代」だと成田氏は考える。

写真 人物アルゴエイジの成田氏。インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。

アルゴエイジの成田氏。インターネット広告の歴史を紐解き、「ゼロパーティデータ」の可能性を提唱した。

2000年からアドテク事業者が増え、さまざまなサービスが台頭した背景には、サードパーティデータの活用技術の進化、とくにサードパーティクッキーの活用が後押ししたことが大きいと成田氏は推察。しかし、ここ5~10年はファーストパーティデータをしっかり作っていきましょうという話が頻繁にされるようになった。そもそもサードパーティデータ、ファーストパーティデータとは何か。サードパーティデータは第3者が収集したデータのこと、ファーストパーティデータは、自社サイトでユーザーの行動を収集したデータのことだ。

なぜ、サードパーティデータがファーストパーティデータに移行しているのか。多くの人が知ってのとおり、プライバシー保護の観点から、サードパーティデータはたびたび廃止予定が発表されてきた。海外ではかなり厳しく取り締まれている状況といったところなので、いつ日本で廃止されてもおかしくない。そんななか、サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない、というのが現在の世の流れである。

写真 サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない。

サードパーティデータに依存するマーケティング戦略はリスクが高く、ファーストパーティデータをしっかり見据えていかなければならない。

CVしてくれないユーザーの言語化がポイント

成田氏がその先に見据えているのは「ゼロパーティデータ」の時代。講演の冒頭で「コンバージョンしてくれていないユーザーのニーズとインサイトを言語化できていますか」と問いかけた成田氏だが、その答えがここにある。

ゼロパーティデータとはユーザーが企業に対して自発的に共有するデータのこと。SNSやアプリで質問したアンケートデータや、SNSのコメント、クチコミデータなどが該当する。ファーストパーティデータでは自社サイトにおいてのユーザーの動きは分析できるが、比較検討して離脱したユーザーが外でどういう行動をとっているのか、どういうことに興味関心を持っているのかを把握することはできない。そこで、離脱した人の動きを可視化するのに役立つのがゼロパーティデータというわけだ。

写真 アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用。

アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用。

アルゴエイジでは、ランディングページを離脱しようとするユーザーに対してポップアップを表示させてLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとりながらウェブサイトに再誘導するといったチャットボットを運用している。たとえば、証券会社がクライアントだと仮定する。証券会社のランディングページを離脱しようとしたときにユーザーのスマートフォンにポップアップが表示され、クリックすると公式LINEアカウントにつながる。そこで「投資スタイル診断」と題し、投資を始めようとしたきっかけは何か、希望の取引方法や運用方法は何か、投資するうえで最も重要視することは何か、などのQ&Aを繰り返していきながら、おすすめの銘柄を提案したりする。そこの会社のサイトには欲しい情報がなく離脱しようとしたが、証券取引には興味のあるユーザーをつなぎとめるのだ。

これだけでも、これまでの事例からCV数で10%のリフトが見込めるが、ただ10%増にするだけではただのツールベンダーに成り下がってしまう。そこでアルゴエイジではユーザー調査を徹底的に行っている。まずは、インタビューツールを使ってユーザーの抱えるニーズとその裏側にあるインサイトを抽出する「定性調査」、そしてChatGPTとアクセス解析ツールを使い、クライアントのランディングページやクリエイティブに加え、競合他社の情報もふまえて行う「定量調査」。ユーザーのニーズやインサイトをしっかり理解できていれば、醸成したい心理が見え、CV熱量を上げるコンテンツを作ることができる。

写真 CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

スタート時点ではあくまで仮説に基づいたコミュニケーション設計であるため、リリース後は6カ月かけてインサイトデータをもとに最適化していき、100%を110%まで押し上げる。また、LINEで収集したデータは離脱ユーザーのインサイトとなるため、LINEだけに留まらず、ディスプレイ広告の訴求軸にしたりと、マーケティング全体にインパクトを与えられる施策にもなりえる。

CVしたユーザーだけでなく、CVしていないユーザーの言語化にこそ、今後のインターネット広告の成功の未来があると成田氏は改めて語った。

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