放送から通信の移行で、データドリブンになっていく日本のコンテンツ創作(ストライプインターナショナル×サッポロ不動産開発)【前編】

データドリブンなマーケティング、さらには経営の必要性が問われる中で、クリエイティビティが重視される企業のモノづくり、さらにはエンタメコンテンツづくりにも影響を与えるようになっています。それではデザインやコンテンツ制作などの仕事にかかわるクリエイターは、今日的なマーケティングにどう向き合えばよいのでしょうか。
サッポロビールでデータ利活用を推進し、直近では「ヱビスブランド」のファンコミュニティ「ヱビスビアタウン」の仕掛け人としても知られる福吉敬氏がホストとなり、企業内でデータ利活用を推進するマーケターと対談する本連載。
今回はマーケティングがデータドリブンにシフトしていく時代のクリエイターの仕事のスタイルについて、サッポロ不動産開発の福吉敬氏がインタビュアーとなって、ストライプインターナショナルの今泉純氏に話を聞きました。
※本記事には後編があります。

「これからはデータ通信の時代になる」 広告会社から通信会社に移籍して確信

福吉:今泉さんは外資系広告会社から京セラ、NTTデータを経て、複数のアパレル企業でDXプロジェクトを推進した後、現在はストライプインターナショナルに所属しています。アナログな世界から、デジタル、データの世界に移行してキャリアを重ねている印象を受けますが、どのような気づきがあって今のようなキャリアに至ったのでしょうか。

今泉:広告会社から京セラに移籍したのは、コンテンツビジネスの仕事に携わるためでした。当時、京セラの稲盛和夫さんは、「これからはデータ通信が基本の時代になる」ということを見抜いていました。それでコンテンツをつくる会社と、ネットワークを構築する第二電電(DDI)、端末は京セラでつくるという三段構造のビジネス確立を目指していたのです。この構想の中で、僕はコンテンツ配信を担っていて、例えば当時、生まれた通信カラオケは、データ通信で実現した最初の音楽配信だったといえると思います。

福吉:放送から通信に移行する中で、コンテンツづくりも変わりますよね。

今泉:はい、やはり放送と違い通信では視聴データが顧客データとセットで詳細に取得できるので配信後の視聴動向を分析して、次のコンテンツづくりに生かすようなことをしていました。今は、こうした取り組みがもっと簡単にできるようになりましたよね。

ただ、日本のコンテンツ産業は当時からあまりデータ分析という文化はありませんでした。しかし、当時からすでにハリウッドなどの状況を調べると、かなりデータを基にした戦略があってコンテンツをつくっていることはわかっていました。市場規模やどれくらいの収益が見込めるかをロジカルに分析したうえで、コンテンツづくりの意思決定を行っていたのです。海外のエンタテインメントはクリエイションの妥当性、市場性を確認する目的で、マーケティングを使っているのだということを知り、日本は遅れているとショックを受けたことを覚えています。逆に言うと、論理的な積み上げがあるからこそ、クリエイターは思い切ってジャンプできる。クリエイターたちに、より自由に能力を発揮してもらうためにマーケティングがあるのだと思いました。

写真 人物 写真左からインタビュアーのサッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏、ストライプインターナショナルの今泉純氏。

写真左からインタビュアーのサッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏、ストライプインターナショナルの今泉純氏。

人の役割を最大化するための道具としての「テクノロジー」

福吉:市場もターゲットもよく、わからないままではコンテンツづくりのチャレンジはできないですよね。

今泉:そうですね。いま、私たちストライプインターナショナルでは3D CADシステムの導入など、モノをつくり始める前段階でアイデアの妥当性を議論できる環境整備を進めています。クリエイティブは量をこなさないと質は生まれないとは思うものの、アナログ的に量を求めると、非生産的な作業になりかねません。私が広告代理店に在籍した当時は、クリエイターの仕事は、アナログに量を求めていた気がします。こうした状況に陥るのを防ぐためにテクノロジーやマーケティングの役割があると思いますし、AIやデータは自問自答するための道具だと考えています。

福吉:単にAIに「コピーを書いて」と頼むだけだと、量は出せるけど、今の段階では質の低いものしか出てこない。最初の要件定義は人の役割。何をどこまで機械に期待するかを確認しておくことが重要ですよね。

今泉:はい。そのうえでPDCAを回してやり直すことを覚えれば、もっとチャレンジングなクリエイションもできるはずです。

福吉:そうして出てきたアイデアをスモールスタートでアジャイルに回したいのに、経営判断を経ると、話が大きくなってしまうことも多い。市場規模が小さいとわかると、今度は「やる意味がない」となりかねませんから。

今泉:大掛かりにやりすぎるばかりに、一度失敗すると、その痛みに耐えられず、全て止めてしまうというのは日本的ですよね。日本の工業製品の品質は今も変わらず高いですけど、今はその質だけではマネタイズしづらくなっています。そういう時代に何でもかんでも品質至上主義、完璧主義というのは違うのではないかと感じますよね。

福吉:本来は最初に市場規模などのデータに基づいた実現可能な目標値の設定があって、どこまで投資していいのかという損益分岐点と、撤退の指標などが本当はあるべきですよね。

※本記事には後編があります。

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今泉純氏

ストライプインターナショナル
経営企画本部 本部長

外資系広告会社から京セラグループを経て、2000年エヌ・ティ・ティ・データにて、新規事業開発や国内初のデジタルコンテンツ事業、ファッション事業プロジェクトを担当。2012年TSIホールディングス入社、情報システム部長としてEC事業の基盤システム開発や基幹システム更改など情報システム全般の企画・立案・開発・保守運用に従事したのち、取締役DX戦略部長に就任。2023年9月より現職。


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