アパレルのモノづくり、クリエイションと効率が融合するポイントを探る (ストライプインターナショナル×サッポロ不動産開発)【後編】

データドリブンなマーケティング、さらには経営の必要性が問われる中で、クリエイティビティが重視される企業のモノづくり、さらにはエンタメコンテンツづくりにも影響を与えるようになっています。それではデザインやコンテンツ制作などの仕事にかかわるクリエイターは、今日的なマーケティングにどう向き合えばよいのでしょうか。
サッポロビールでデータ利活用を推進し、直近では「ヱビスブランド」のファンコミュニティ「ヱビスビアタウン」の仕掛け人としても知られる福吉敬氏がホストとなり、企業内でデータ利活用を推進するマーケターと対談する本連載。
前編では広告代理店から、ブロードバンドが浸透しつつある日本において、コンテンツ配信の世界に飛び込み、データドリブンなクリエイションの必要性を実感した今泉氏の経験から得た気づきについて話を聞きました。
後編では、今泉氏が現在所属する、ストライプインターナショナルを通じて、アパレルのDXやデータを生かしたクリエイションについての方向性を聞きます。

データマーケティングとテクノロジーで実現する、市場規模に合わせた適量生産

福吉:ここまで、今泉さんが広告代理店から京セラ、NTTデータに移籍し、ブロードバンドが普及しつつあった時代に動画をはじめとするコンテンツ配信事業に携わって得た経験について聞きました。次に、現職のアパレル産業について伺いたいと思います。アパレルにおけるデータ利活用では、需要予測に基づく生産管理といった領域もスコープに入りますよね。

今泉:はい。生産量の適正化も環境配慮の側面だけではなく、値引き販売を減らす点でメリットがあります。やはりプロパー価格で買ってもらったお客さまがいらっしゃるのに、時期が過ぎると同じ商品を値引きして販売するのはメーカーとしても心苦しいのです。だからといって廃棄するのは社会的に問題があるので今は値引きせざるを得ない状況にあります。

福吉:ビール業界にも廃棄の問題はあります。特にビールは醸造にかかる時間が長いので、実際の発売までの間にトレンドが変わっても、製造は止められない。つくる量も何千ケースという単位なのですが、過去はデータドリブンな観点が持てなかったため、なかなか判断が難しかったと思います。今はデータマーケティングで市場規模予測や販売予測なとが、かなりやりやすくなっているのではないかと思います。

写真 人物 福吉さん

今泉:生産量の予測精度はこれからもっと高くなりますよね。近年は縫製工場もデジタル化され、少量生産の技術も進化しているのでマーケットサイズやポテンシャルに合わせた小ロット生産は必須になっていく。オンデマンド生産なども増えていくと予想しています。

マーケティングとクリエイティブの溝を埋める「共通言語」の必要性

福吉:歴史のある産業であるほど、データから得た学びを可視化したり、事業に落とし込んだりする取り組みが希薄になっているように思います。特に製造業の人たちは自分たちのつくるモノに自信があるばかりに、競合の動きは見るけれど、あまり消費者は見ていない面もあるのではないでしょうか。もちろん、そこにマーケティングの重要性があると思っていますが。

今泉:マーケティング側も、マーケティングが何かを生み出すと思わせるようなミスリードがあったと思っています。マーケティングもAIと同じで、クリエイティブとの関係はVS(バーサス)ではない。ただ、マーケティングとクリエイティブは言語体系が違っていて、洋服は割とビジュアル発想なので、言語化しにくい。一方でマーケティングは言語でアウトプットするので、そこは我々が工夫しなければならないところです。

福吉:僕はこれまでの経歴から両方の視点を持っている方だと思いますが、それは感じますね。

今泉:広告の世界はクリエイターとマーケターが共通言語をビジュアル化できているように思います。衣料業界でも、双方の意識を見えるかするためのツールとしても生成AIや3D CADなどのデジタルの力が必要でしょうね。

さらに上をいくサプライズが購買動機になりロイヤルティにつながる

福吉:データが取得できるようになっても、消費者のことを知るために、定性的な消費者調査なども行われているのでしょうか。

今泉:ブランドに対する定性的な調査は続けていて、その消費者とのセッションをモノづくりにどう反映させていくかが今後の工夫のポイントです。ただ、消費者の声を聞いてモノをつくるというのも少し違うと考えています。マーケティング側が「正解」的なものを提示してしまうとアウトプットは保守的になっていってしまうからです。

消費者の期待にどうサプライズを起こすのかというのがクリエイターの腕の見せ所で、それが購買動機になり、ロイヤルティにつながる。それがクリエイターのプライドだし、喜びでもあると思います。

福吉:逆に、クリエイターの方々がデータを見られるような、ダッシュボードの導入などはされているのですか。僕は今、不動産の社内で勉強会を定期的に開いています。そこでは、社内の様々な部署がそれぞれのニーズに合わせたデータ分析を自分の手で出来るようなダッシュボード制作の試みや、賃貸部のメンバーと店子である店舗の方たちが同じレイヤーでデータを見る事ができるような環境構築、所謂情報の民主化を進めています。

みんなが全てを見られるわけではありませんが、見るべき人が見始めると社内の意識が変わってくるのではないかと期待しています。

今泉:一部は見られるようになっています。ただ、まだモノづくりにまではつなげられていないのが現状です。今、システムの更改中で、8月には動き始められると思っています。やはり情報の民主化は必要で、これからというところです。

福吉:データを見られる環境が整って、クリエイターが進化していくと面白くなりそうですね。

写真 人物 写真左からインタビュアーのサッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏、ストライプインターナショナルの今泉純氏。

写真左からインタビュアーのサッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏、ストライプインターナショナルの今泉純氏。

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今泉純氏

ストライプインターナショナル
経営企画本部 本部長

外資系広告会社から京セラグループを経て、2000年エヌ・ティ・ティ・データにて、新規事業開発や国内初のデジタルコンテンツ事業、ファッション事業プロジェクトを担当。2012年TSIホールディングス入社、情報システム部長としてEC事業の基盤システム開発や基幹システム更改など情報システム全般の企画・立案・開発・保守運用に従事したのち、取締役DX戦略部長に就任。2023年9月より現職。


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