マーケティングの失敗を未然に防ぐ 3つの「疑いの型」とは?(北村陽一郎×池田紀行)

大事なのは「相手が欲しいもの」について考えること

池田:さて。今日は北村さんに、参加者からこんな質問が届いています。「マーケティングの考え方や理論が定着していない組織に、マーケティングの概念を浸透させるコツというものはあるのでしょうか?」これについては、いかがでしょうか。

北村:私が担当しているクライアントさんも「BtoCの商品を売り出すのは初めて」といったケースや、「広告宣伝部がありません」ということはよくあります。そういう時は、あまり専門的な言葉を使うよりも、相手の方がスッと理解できる言葉を使うことに尽きると思います。その際、「場合分け」の考え方がとても有効です。
書籍の中で「マーケティングは、ゴルフのクラブみたいなもの」と書いたのですが、ゴルフって、状況次第でいろんなクラブを使い分けますよね。マーケティングの場合も、ケースバイケースで対応を分けると状況が整理されるものです。そういう意味では、場合分けの考え方というのは割と万能だと思いますね。

池田:なるほど。例えば、マーケティングの理論やフレームワークみたいなものは、お互いが知っていれば会話をショートカットすることができますよね。ただ、知らない人たちに一度勉強してもらってから改めて話をしましょう、というのは、きっとエゴですよね?

北村:それは、あまり求められていない気がしますね…(笑)。話の内容がどうしても広告とか販促の専門的な話になってしまうので。やはり「相手が欲しい話は何か?」ということを考えますね。

池田:まずはお客さんが普段から使っている平易な言葉や考え方にのっとって、必要最低限のケースやパターン、場合分けをしながら普通に話しをしていく、と。

北村:そうですね。ただ、そうはいってもお客様も一生活者として日々買い物をされているわけですし、こういう時にはこういう買い方をする、という認識はありますから。そんなふうに相手がマーケターではなくても生活者である、という部分を引っかかりにして、話の糸口にしていきます。

プランニングは初日で「50〜60%」まで一気に行くべし

池田:続いての質問です。「北村さんにとってあまり馴染みがない商品やサービスを扱うクライアントを担当する場合、初動のアサイン時にどんなことをされていますか?」これはいかがでしょうか。

北村:自分の近くに該当商品に馴染みのある人がいる場合はチームにアサインしますが、全く見つからないケースもあります。その場合は、クライアントに直接聞きます。ごめんなさい、教えてください。みたいな感じで…。

池田:それって「何だか頼りないなぁ」とか、言われないんですか?(笑)

北村:全然わかってないのに知ったかぶりするよりはいいかな、と。そして、提供できることが本当になければ「力不足ですみません!」ということになりますけど、実際には他のカテゴリで起きていることが参考になることが結構あります。そこから何かしらご提案できるかもしれない。そんなふうに考えつつも、わからない部分については正直に聞くことにしています。

池田:たしかに、プランナーとはいえ、この世のありとあらゆるものを消費し尽くしているわけじゃないですからね。ライフスタイルやライフステージにおける守備範囲外のものが、いっぱいあるわけです。
とはいえ、優秀なプランナーを見ていると、本人は全くのターゲット外だし、興味を持ったことも考えたこともないのに、オリエンを受けてすぐに「きっとこういう感じだよね」と、65点ぐらいの完成度までスーッと行っている気がするんですよ。あの力は一体、どうやって磨いているんでしょうか?

北村:私も初速でいうと、一日で50~60%のところまで行かなきゃいけないとは思っています。そこまで行ったタイミングで、できればクライアントと会話をして「この方向性で合っているかどうか」を確認する。そこからやっと、じっくりコトコト煮始めるという感じです。だから「ウサギとカメ」のカメみたいに、日程の50%が経過した時点で、全体の50%できている、というのではダメなんですね。

池田:やっぱり、初日である程度のところまで行かないと、ということですか?

北村:そうですね。いきなり全体の半分まで行ってから、そこで周りを見渡してみる。できれば、そこでクライアントと会う。ただ、そこまで行った時点で芯を食っていないケースもあるので、その場合はまた考え直します。そういうやり方をしないと、後で大幅なやり直しが必要になります。

池田:なるほど~!いきなり全体の半分まで行く日って、一体何をやっているんですか?

北村:それは「ワ~ッ!」と一気に考える、ということなんですけど(笑)。

池田:ワ~ッ!と考える(笑)。その話って「優秀なプランナーはどうやったら計画的に量産できるのか?」という問題とも関係がありますよね。

北村:私の周りの同じようなプランニングの仕事をしている人を見ても、やはり「初速はウサギのように行かなければならない」という認識を持っていると感じます。ただ、結果として出てくるものは全然違う。でも、それでいいんですよね。そこに正解はないと思うんです。

池田:考え方の道筋や使うフレーム、出てくるアウトプットも含めて全てがバラバラだから、それでいいんだと。

北村:そうですね。仮に同じクライアントの同じお題であったとしても、プランナーが変われば違う50~60%を最初に書くわけです。それを見たクライアントが「筋が強いから、これで進めよう」と言うのであれば、それでいいわけですからね。

“得意技”ばかり使わずに常に新しい分野を開拓する意識を

池田:最後に、北村さんが考える「優秀なマーケターに共通すること」を聞かせてもらいたいです。また、そういう優秀なマーケターの思考パターンや行動特性に共通点はあると思いますか?

北村:まず、それぞれに得意技を一個は持っていると思うんですが、それはそれで持っておきながら、「ずっとは使い続けない」ということだと思いますね。なんでもかんでも我田引水的に得意技に持っていこうとすると、いずれ伸びなくなると思います。得意技は置いておいて、違うものにも手を伸ばしてみる。そういう「拡張意識」みたいなものは、「できるマーケター」が共通して持っているような気がしますね。

池田:ちなみに、北村さんの得意技って、何ですか?

北村:私の場合は、「ブランド認知率のシミュレーション」がめちゃくちゃ得意で…(笑)。これぐらいCMを打てば、これぐらいの認知率は取れるだろうな、というものですね。でも、そればかりやっていても仕方がないので、今はちょっと封印しているんですよね。

池田:一芸に秀でてはいても、そればかりに寄っかかっていると共倒れして、「それしかできない人」になっちゃう、と。

北村:そうですね。活躍されている方って、ひとつの場所に留まらずいろんな所に行ってみる、みたいなことをやっている方が多い気がしますね。軸足は持ちながらも、日々変化していくイメージですね。
ちなみに私の場合は、「今の自分の考え方を疑う」ということを常にしています。「今はこう思っているけど、ホントにそうかな?」みたいな。「自分が正しい」と思うと「確証バイアス」のように変化をバグとして扱ってしまう可能性があるから、どこかで自分に疑いを持つことも大事なことかもしれません。

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池田紀行

トライバルメディアハウス代表取締役社長

1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・広報・販売促進を支援。JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。年間講演回数は50回以上、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『業界別マーケティングの地図』(日経BP)、『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。

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北村陽一郎

電通 統合プランニング・ディレクター

1973年生まれ。東京大学教育学部卒、1996年電通入社。テレビ広告・スポーツ放送権業務などを経て、2012年より広告プランナー。自動車・食品・精密機器・金融・アプリなど幅広い広告主のプランニングに従事するかたわら、社内向けの少人数制プランニング塾「北村塾」を開講中。NPS=98.4、推奨度平均9.89点という圧倒的な人気を得る。

『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』(北村陽一郎著)

定価:2,200円(本体2,000円+税)
ブランド認知、パーチェスファネル、カスタマージャーニー…有名なマーケティング・フレームを現場で使うとき、何に気をつければいいのか?「過剰な一般化」「過剰な設計」「過剰なデータ重視」の3つを軸に解説。推奨度9.9の電通社内プランニング塾の内容を書籍化。
 
北村氏が講師を務める「マーケティング基礎講座」開講決定!8月9日より配信開始

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