澤野:私は新聞社のソーシャルメディア担当として、10年近くSNSを活用してきました。そうした経歴から、長澤さんがお話しされたコンテンツメディアとSNSの関係性とはまた、違った形でのかかわりをもっていると思います。
日本で、SNSが新たなニュースプラットフォームとして“信頼に足る”と思われ始めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけと言われています。速報性が切実に求められる中で、当事者が直接発信できるSNSの有効性がメディアにも認識されました。この転機がメディアにもたらした変化には良い面と、悪い面の両方があります。
記者もSNSを使うようになり、記者と読者が直接つながるという新しい関係性が生まれました。取材の糸口を見つけたり、読者の反応にすぐに対応できたりなど、危機管理も含めた双方向の関係性が育まれるようになりました。
一方で炎上という新たなリスクも生まれました。危うさを回避するため、記者に対するリテラシー教育の必要性も高まりました。
加えて、新聞社のようなメディア企業とSNSプラットフォームとの関係性に新たな動きが見られました。
まずはニュースコンテンツの出し先が増えたことで各記事単位の読者を増やし、これまでリーチできなかった層にも媒体を知ってもらうきっかけになりました。
新聞社を退社してSNSプラットフォーム企業で働きましたが、若い業界であるがゆえに自分たちのビジネスに規制を促し、時に株価にも影響する報道を行うメディアを敵視する人たちもいました。若い社員も多いので社会のマスコミ不信の影響もあったと思います。ニュースコンテンツの排除は、そのような未成熟な企業文化が根底にあったのではないでしょうか。今ではSNSからニュースメディアへの流入数が激減し、メディアが次の打ち手を見いだせない状況に陥っている。非常に残念なことです。
長澤:私が見る限り、SNSプラットフォーマー側の情報管理体制と情報倫理観は、なかなか成熟していかない。もちろん利用者側の倫理観やモラルが根本の原因ではありますが、同じような炎上が繰り返し起き、誹謗中傷が飛び交い、それに対する訴訟が起きています。能登半島地震の時にも、東日本大震災時の映像を流してページビューを集めるフェイクニュース投稿がたくさん生まれました。それは、ある程度ページビューが集まると、X社から報酬が支払われるからです。そういう「金集め投稿」に対する仕組みが、今も是正されずにいる。
SNSは、震災時のライフラインになるべきなのに、そこに掲載される情報がいまだ信頼に足るものに至っていないこと。また、それらのチェックにコストをかけていないことは問題だと思います。そうしたことの延長線上に昨今、前澤友作さんがMeta社とFacebook Japanを提訴したことでも注目を集めたFacebook上でのなりすまし詐欺広告の問題があるわけですよね。
広告収入重視のプラットフォーマーの経営姿勢と、信頼性重視のニュースメディアとの経営姿勢は根本的に異なるわけですが、近年、そこがさらに拡大している気がします。