澤野:元同僚たちは次から次に現れる日本語表現のおかしな怪しい広告に懸命に対応していました。国内だけの取り組みにとどまらないのが、この問題の難しさです。
長澤:「なりすまし広告」のほとんどは、海外で作成されていると言われています。これは警察の方に聞いたのですが、なりすまし広告というのは大体、クリックするとメッセージアプリなどの個人的な「なりすましアカウント」へと誘導する。そこでやり取りをした後、海外の口座にお金を振り込ませるという手口があるんですね。そういうプロの犯罪組織が介在する闇ルートが確立されてしまっているんです。そうした広告に対して、どうやって掲載のハードルを上げていくのかは大きな課題だと思います。
最近、日本では誹謗中傷投稿に対する開示請求の法改正が行われましたが、今後はフェイク広告に対する法規制、もしくはプラットフォームの管理基準も追求されていくことになると思います。ただ、その裏には表現の自由や匿名の自由がある。そこは丁寧にやっていく必要があると感じますね。
澤野:広告に限らずこの状況の中では、ある程度の強い規制は必要だと思いますが、表現の自由あるいはサービスそのものを阻害することになればユーザーの不利益につながりかねません。そこのさじ加減は難しく、日本は理想論ではなく現実を踏まえながらプラットフォーム企業との付き合い方を考えるべきタイミングでしょう。その際にプラットフォーム側の事情も認識しておくことは重要だと思います。
例えば匿名性はよく批判されますが、グローバルなプラットフォームがそれを堅持している理由は、国によっては権力者への不適切な発言で命の危険にさらされることもある中で、自由な発言を支えるために必要だからです。彼らの理念や海外の状況も理解した上で議論を進めないと平行線になる。双方の歩み寄りが必要ですね。
長澤:本当にその通りだと思います。